Yahoo!ニュース

超新星・山下数毅三段(15歳)竜王戦6組決勝進出! あと1勝で四段昇段(フリークラス編入)の権利獲得

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月9日。東京・将棋会館において、第37期竜王戦6組ランキング戦準決勝▲山下数毅三段(15歳)-△井出隼平五段(33歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時52分に終局。結果は91手で山下三段の勝ちとなりました。

 山下三段はこれで決勝に進出。棋士以外の出場者(女流棋士、アマチュア、奨励会員)として初の快挙を達成しました。

 山下三段は2023年度前期三段リーグで13勝5敗の成績をあげ、次点1回を獲得しています。

 現在進行中の2024年度前期三段リーグでは3勝1敗。そちらで上位2人に入ると四段に昇段し、棋士の資格を得られます。あるいは3位になると、次点2回で四段昇段(フリークラス編入)の権利が与えられます。

 また、山下三段はもし竜王戦6組で優勝すると、現在進行中の三段リーグ終了後、次点1が付与され、四段昇段(フリークラス編入)の権利が与えられます。

【参考】奨励会三段が優秀な成績をおさめた場合
その期(進行中)の三段リーグ終了後に次点1を付与する。ただし、フリークラス編入条件となる次点2回のうちの1回は三段リーグによる次点でなくてはならない。
また、その期の三段リーグにおいて降段点(勝率2割5分以下)に該当した場合は、次点1の付与は行わない。
出典:女流棋士・奨励会員・アマチュアにおける 棋戦優秀者への対応について(日本将棋連盟)

 過去にこちらのルートで棋士になった奨励会員はいません。

山下三段、華麗な詰みで勝利

 名人戦七番勝負第3局▲藤井聡太名人-△豊島将之九段戦の2日目がおこなわれる中、こちらの対局にも注目していたファンの方も多くおられたことでしょう。

 井出五段は振り飛車党の実力者。2019年の竜王戦6組ではベスト4まで進んでいます。最近ではABEMAトーナメントのエントリートーナメントを勝ち抜いて、強さを見せました。

 振り駒の結果、先手は山下三段。後手の井出五段は得意の四間飛車に構えました。

 井出五段が金無双の形に組んだあと、山下三段は攻めの銀を出て速攻を見せます。そのタイミングで井出五段が角筋を開き、戦いが始まりました。

 井出五段は角金交換の駒損ながら飛車をさばいていきます。対して山下三段はと金を作りながら飛車の侵入経路を開き、飛車を成り込んでいきます。

 井出五段が飛車を成り込んで王手をかけたのに対して、87手目、山下三段が銀を引き、王手を受けた局面で18時、夕食休憩に入りました。

 18時40分、再開。88手目。井出五段は歩頭に金を出ます。熟慮の末に放った鬼手。歩で取らせて生じた空間に香を放ち、山下玉に迫りました。

 91手目。山下三段はほとんど時間を使わず、タダで取られるところに角を打ちます。井出玉への鋭い王手で、鮮やかな決め手でした。おそるべきことに、長手数ながら井出玉はどう応じても詰んでいます。

 井出五段は3分を使ったあと、次の手を指さずに投了しました。

 昨年、僅差で「中学生棋士」とはなれなかった山下三段。しかし竜王戦という注目される舞台において、棋士以外では過去に例のない快進撃を見せることになりました。

 決勝で待つ相手は藤本渚五段(18歳)。藤井聡太竜王(21歳)や前期竜王挑戦者・伊藤匠七段(21歳)を追う若手の大器です。

 その藤本五段よりも若い山下三段(15歳)が棋士となる権利を得て、さらに大きなステージへと駆け上がるのか。次の6組決勝は将棋ファン必見の大一番といえるでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事