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デビュー1年2か月の本田奎四段(22)トップ棋士・広瀬章人竜王(32)を降して棋王戦挑戦者決定戦進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月2日。東京・将棋会館において第45期棋王戦本戦トーナメント・勝者組決勝戦▲本田奎四段(22歳)-△広瀬章人竜王(32歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は18時19分に終局。結果は99手で本田四段の勝ちとなりました。

 本田四段はこれで勝者組を制して、挑戦者決定戦二番勝負に進出。あと1勝で挑戦権獲得となります。

新鋭、堂々の勝利

 広瀬竜王は前期の棋王戦ではトーナメントを制して挑戦者となりました。五番勝負では渡辺明棋王に1勝3敗で敗れ、今期は再度の挑戦を目指しています。

 王将戦リーグでは挑戦者決定戦となった最終戦で藤井聡太七段に勝利したのは記憶に新しいところです。

【参考記事】

藤井聡太七段(17)劇的な頓死で広瀬章人竜王(32)に逆転負け 史上最年少タイトル挑戦を逸す

 もし棋王戦でも挑戦権を得れば、王将戦七番勝負、棋王戦五番勝負、合わせて「炎の十二番勝負」と呼ばれることでしょう。

 A級順位戦では現在、渡辺三冠は5勝0敗。広瀬竜王は4勝1敗。今月に予定されている両者の対戦は、名人挑戦権の行方を争う大一番となりそうです。

 広瀬竜王は竜王戦七番勝負では豊島将之名人の挑戦を受け、3連敗と追い込まれたところから1勝を返しました。

【参考記事】

広瀬章人竜王(32)さすがの終盤力でカド番をしのぎ1勝を返す 竜王戦七番勝負第4局

 以上の通り、広瀬竜王はハードスケジュールの中、各棋戦でコンスタントに勝利を挙げています。

 一方の本田奎四段は昨年2018年10月1日に四段にデビューしたばかりの新鋭。1年2か月の間に33勝14敗(0.7021)と好成績をあげています。今年度は12連勝を記録するなど、次第に頭角を現しつつあります。

 棋王戦は今期が初参加。予選では勝又清和六段、中村修九段、阿部光瑠六段、永瀬拓矢現二冠、増田康宏六段を連破。本戦に入っても勢いは止まらず、行方尚史現九段、佐藤天彦九段、村山慈明七段、丸山忠久九段に勝利。10勝をあげて勝者組の決勝にまで進出しました。

 また本田四段は、折田翔吾さんの棋士編入試験の第4局にも登場する予定です。

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【参考記事】

あきれるほど将棋の強いYouTuberの折田翔吾さん(30)棋士編入試験五番勝負第1局でまず快勝

 折田さんを応援する側から見れば、試験対局の相手はみな難敵ばかりですが、中でも第4局の本田四段はずいぶんキツい相手が急所で控えていると感じられるでしょう。

 さて、広瀬竜王-本田四段戦。本田四段の先手で、戦形は互いに飛車先の歩を伸ばし合う相掛かりとなりました。相掛かりは最近の流行であり、トップクラス同士の対局でよく見られます。

 後手番の広瀬竜王は飛車を五段目に置く「高飛車」の構えを作りました。

 午前中に本田四段が突っかけて、中盤の戦いが始まります。広瀬陣の弱点である桂頭をねらって、行動を起こしました。

 互いの飛車が小刻みによく動く中、本田四段が的確に立ち回って、まずはリードを奪いました。

 さらに進んで、駒割は金と香の交換で本田四段が得をしている上に、いち早く相手玉に迫る態勢を築いています。

 強者は追い込まれてからが強い。広瀬竜王に勝ち切るのは大変なはずです。先日の藤井七段は、最後に逆転をされています。

 しかし本局で見せた本田四段の強さは、堂々たるものでした。広瀬竜王に粘る余地を与えることなく、玉を受けなしに追い込みます。

 終局時刻は18時19分。99手で本田四段の快勝に終わりました。

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 棋王戦の本戦トーナメントは、ベスト4以上から敗者復活方式が採用されているのが大きな特徴です。

 勝者組を制した本田四段は、挑戦者決定戦二番勝負で1勝をあげれば、挑戦権獲得となります。

 敗れた広瀬竜王は敗者復活戦に回りました。

 同日おこなわれた敗者復活戦1回戦▲佐々木大地五段-△丸山忠久九段戦は19時13分、91手で佐々木五段が勝っています。

 次におこなわれる広瀬竜王-佐々木五段戦の勝者が、敗者復活戦の勝ち上がりで挑戦者決定戦へと進出します。こちらから挑戦権を得るためには、二番勝負で2連勝が必要となります。

タイトル挑戦に関する過去の記録

 それにしても本田四段は恐るべき勢いです。

 もし四段の立場でタイトル挑戦を決めれば、屋敷伸之四段(1989年度後期棋聖戦)、郷田真隆四段(1992年度前期棋聖戦、王位戦)以来3人目となります。

 棋聖戦は1994年度まで、一年度に2期(前期、後期)おこなわれていました。

 1988年10月1日にデビューした屋敷四段は1989年12月12日に開幕した棋聖戦五番勝負で中原誠棋聖に挑戦。最年少タイトル挑戦(17歳10か月)、四段デビュー以来史上最速タイトル挑戦(1年2か月)の記録を作りました。

 棋王戦五番勝負は例年、2月に開幕します。もし本田四段が棋王挑戦を決めれば、1年4か月でのタイトル挑戦となり、屋敷四段に次ぐ速い挑戦記録となります。

 1989年度前期棋聖戦五番勝負で、屋敷四段は中原棋聖に2勝3敗で退けられました。

 そして90年度。C級1組昇級により四段から昇段した屋敷五段は、棋聖戦五番勝負でも中原棋聖に挑戦。今度は3勝2敗で奪取しています。

 この時には最年少タイトル獲得(18歳6か月)、四段デビュー以来史上最速タイトル獲得(1年10か月)の記録が作られています。

 本田四段がもし棋王を獲得すれば、四段デビュー以来1年5か月でのタイトル獲得となり、屋敷現九段の記録を抜くことになります。

 ちなみに現在の規定では、タイトル挑戦が決まった時点で五段に昇段するため、四段でのタイトル奪取はできません。四段でのタイトル獲得は、1992年度王位戦で郷田四段が達成したのみで、空前にして絶後の記録となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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