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その名は「お前、CSA会員にならねーか?」2024年・世界コンピュータ将棋選手権、チャンピオン決定!

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影、画像作成:筆者)

 2024年5月3~5日、神奈川県・川崎市産業振興会館において、第34回世界コンピュータ将棋選手権がおこなわれました。

 3日間にわたる一次予選、二次予選、決勝の結果、「ザイオソフト コンピュータ将棋サークル」が開発した「お前、CSA会員にならねーか?」が優勝を果たしました。

(「お前、CSA会員にならねーか?」開発者・野田久順さん)
(「お前、CSA会員にならねーか?」開発者・野田久順さん)

波乱の二次予選

 年々、青天井でレベルが上がり続ける本大会。今年も1日目の一次予選から、熾烈な戦いが繰り広げられました。

(大会1日目)
(大会1日目)

 これまでに多くの実績を残してきたシード勢が参加する二次予選は、波乱の展開となります。

(大会2日目)
(大会2日目)

 二次予選から決勝に進めるのは、上位8チームです。

(やねうら王開発者のやねうらおさん。二次予選は7位で通過)
(やねうら王開発者のやねうらおさん。二次予選は7位で通過)

 優勝候補の一角に挙げられていた水匠は4勝3敗2分で10位となり、ここで敗退となりました。

(手前左、水匠開発者の杉村達也さん)
(手前左、水匠開発者の杉村達也さん)

 また前年優勝のdlshogi with HEROZは5勝3敗1分で9位。8位のあすとら将棋が決勝参加を辞退したため、繰り上げで辛くも通過となりました。

 谷合廣紀四段が開発したPolonaise(ポロネーズ)は5勝2敗2分で4位。谷合四段はこの大会における「ガチ勢」の一人で、一昨年は独創賞を受賞しています。

(解説の渡辺和史六段と、Polonaise開発者の谷合廣紀四段)
(解説の渡辺和史六段と、Polonaise開発者の谷合廣紀四段)

果たして優勝は?

 決勝は3回戦まで終えたところでkoronがトップに立ちます。

(koron開発者の野田煌介さん)
(koron開発者の野田煌介さん)

 開発者の野田煌介さんはまだ高校2年生。優勝を果たせば、大会史上最年少優勝となります。ここまでの活躍だけでも「コンピュータ将棋界の藤井聡太」といえるかもしれません。

 4回戦でそのkoronの快進撃を止めたのが「お前、CSA会員にならねーか?」(以下『お前』)です。

 開発者である「ザイオソフト コンピュータ将棋サークル」の野田久順さんは毎回、たぬきにちなんだプログラム名をつけています。今回の名称に関しては、以下の通りだそうです。

「今回『お前、CSA会員にならねーか?』という参加名にした理由は、私の大好きな漫画『お前、タヌキにならねーか?』です。この漫画を推したくて、そんなタイトルにいたしました」

「CSAとは『Computer Shogi Association』。コンピュータ将棋協会の略でございます。CSAでは会員を募集しております。公式HPの方に申し込み方法が書かれているかと思いますので、そちらの方をご覧いただければと存じます」

 野田久順さんは現在のコンピュータ将棋界のトップランナーの一人。2017年の電王トーナメントでは「平成将棋合戦ぽんぽこ」のプログラム名で優勝を果たしています。

劇的な結末

 今年も多くの名勝負が生まれた末、いよいよ決勝の最終7回戦。優勝に関係する対戦は以下の通りです。(▲=先手、△=後手)

▲やねうら王 featuring Ryfamate(2勝3敗1分)-△dlshogi with HEROZ(5勝1敗0分)

▲お前、CSA会員にならねーか?(4勝1敗1分)-△東横将棋(4勝1敗1分)

 dlshogiは勝てば優勝という状況でした。しかし、やねうら王に千日手引き分けに持ち込まれます。

(dlshogi with HEROZ)
(dlshogi with HEROZ)

 この結果、「お前」-東横将棋戦の勝者が優勝という展開になりました。戦型は角換わり腰掛銀の最前線。先手の「お前」がリードして、優位を拡大していきます。しかし東横将棋も相入玉模様に粘り、なかなか決着はつきません。

 本大会では320手に達すると規定上引き分けとなるため、最後まで予断は許しません。

 そして233手目。「お前」は条件を満たして、ついに勝ちを宣言。「お前」の勝ちが決まりました。

 以上の結果、「お前」とdlshogiが5勝1敗1分で並び、SB(勝った相手の勝数合計)で「お前」が優勝を飾りました。

 結果発表のあと、うつむき、優勝の喜びをかみしめる野田さん。

 そしてやねうら王開発者・やねうらおさんと、固く握手をかわしました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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