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天才・藤井聡太七段(17)39手詰を読み切って糸谷哲郎八段(31)に勝利 佳境の王将戦リーグ

松本博文将棋ライター
混戦の王将戦リーグで藤井七段は白星先行(画像作成:筆者)

 10月18日。関西将棋会館において王将戦リーグ▲糸谷哲郎八段(0勝1敗)-△藤井聡太七段(1勝1敗)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は17時5分に終局。結果は108手で藤井七段の勝ちとなりました。

 リーグ成績は、藤井七段は2勝1敗、糸谷八段は0勝2敗となりました。

藤井七段、長手数の詰みを読み切り

 糸谷八段はリーグ初戦で広瀬竜王に敗れています。

 一方の藤井七段は初戦で三浦弘行九段に勝った後、2戦目で豊島将之名人に敗れています。

【前記事】

将棋界最高峰の豊島名人(29)あまりに強し 藤井七段(17)に圧巻4連勝

 リーグはその後、混戦の様相を呈してきましたが、2敗目を喫すると、挑戦権獲得には黄信号が灯りそうです。

 糸谷八段先手で、戦形は角換わり腰掛銀に。前例のある進行で、比較的早いペースで進みました。後手番の藤井七段にとっては、叡王戦七段予選で村山慈明七段に敗れた形でもありました。

【参考記事】

村山慈明七段(35)が藤井聡太七段(17)に勝ち通算400勝達成 叡王戦七段予選2回戦

 本局、過去の進行例から、先に手を変えたのは糸谷八段の方でした。事前研究を踏まえて中盤の奥深いところまで進め、そこから持ち時間を多く残しての読み合いは、近年ではよく見られる展開です。

 糸谷八段は馬(成り角)を取らせる寄せの構想を見せました。勝敗不明のまま終盤に入ったようです。

 糸谷八段は棋界で一、二を争う、早見え早指しタイプです。その糸谷八段が終盤で長考を重ねます。そして飛車で銀を取って、決めにいきました。

 藤井七段は受けるのか。それとも攻めるのか。あるいはそれらの手順をうまく組み合わせるか。多くの観戦者には難解と思われる局面で、藤井七段が用意していた結論は、実に明解でした。

 藤井七段は糸谷八段の玉に王手をかけていきます。そして飛車を切って決めに行きました。符号は「△7七同飛成」。これは2018年の竜王戦5組決勝・石田直裕五段戦でも表れ、絶妙の寄せ手順と称えられた符号と奇しくも同じです。

 糸谷八段の玉に王手をかけ続けること31手。観戦者にも詰みがほぼわかるところまで指し進めて、糸谷八段は投了しました。投了後はその8手後に、糸谷玉は完全に詰み上がります。藤井七段はこの39手詰を正確に読んでのフィニッシュでした。

 藤井七段は2勝1敗とこれで白星が先行しました。次戦ではついに羽生善治九段と対戦します。

【追記】

羽生善治九段(49)25手詰を読み切って王将戦リーグ2連勝 次戦いよいよ藤井聡太七段(17)と対戦

史上最年少三段から4年

 今からちょうど4年前の2015年10月18日。藤井聡太二段(当時)は関西奨励会の例会で規定の成績をあげ、三段への昇段を決めています。13歳2か月での三段昇段は、史上最年少の記録でした。早熟な天才少年のあまりに早いステップアップを、各メディアは大きなニュースとして取り上げました。

 奨励会における最後にして最大の難関となる三段リーグは、半年1期でおこなわれます。10月から始まる15年度後期の三段リーグには、藤井三段はギリギリ間に合いませんでした。

 しかし16年度前期の三段リーグを、藤井三段はトップの成績で通過。16年10月には史上最年少の14歳2か月で四段デビュー。以後の活躍は周知の通りです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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