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歴代単独2位・169局目の羽生善治九段-佐藤康光九段戦終了 劇的な逆転で羽生九段が王座戦ベスト8進出

松本博文将棋ライター

 4月25日。東京・将棋会館において第72期王座戦・挑戦者決定トーナメント1回戦▲羽生善治九段(53歳)-△佐藤康光九段(54歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は21時32分に終局。結果は103手で羽生九段の勝ちとなりました。

 羽生九段はベスト8に進出。2回戦で糸谷哲郎八段-千田翔太八段戦の勝者と対戦します。

羽生「また調整して、次に臨みたいと思います」

 羽生九段と佐藤九段の対局数はこれで169局目。カード別の対局数としては、中原誠16世名人-米長邦雄永世棋聖戦の187局に次いで、歴代2位となりました。

羽生「特に意識はしなかったんですけど。積み重ねで、そういう形になってよかったなと思います」

 羽生九段ともっとも多く対戦している棋士は、谷川浩司17世名人を抜いて、佐藤九段になりました。

本格正統派の相掛かり

 本局は振り駒の結果、先手は羽生九段に。近年の佐藤九段は独創的な序盤作戦が常に話題となりますが、オーソドックスな相掛かりとなりました。

 これまでに数多くの対局を積み重ねてきた両者。その時代の最前線の定跡形を追求し合うような対局もまた、多くありました。

 羽生九段は歩を突き捨てて、積極的に仕掛けていきます。対して佐藤九段も反発。一気に激しい戦いが始まりました。

 63手目。羽生九段は自陣にいる相手の馬を取るか、それとも相手陣の銀を取って攻め合うか。難しい選択で、羽生九段は後者を選びました。きわどいながらも、ここで佐藤九段が優位に立ったようです。

 75手目。羽生九段は飛車を成って、下駄を預けます。

 ときおりうつむく羽生九段。対して佐藤九段は長考に沈みます。

佐藤「いやー」「いやー、か」「いやー、しかし」「そうか・・・」「いやー、そうかそうか・・・」

 盤面を見つめながら、ときおりそんな声が漏れてくるのも佐藤流です。

 消費時間は35分。残り3分になるまで考えて、佐藤九段は△3二龍と相手の成桂を取りました。これが素晴らしい攻防手。佐藤九段が見事に最善の順を読み切ったように見えました。

劇的な結末

 佐藤九段は的確に寄せの網をしぼっていきます。羽生玉は入玉を果たしたものの、窮地に追い込まれました。

 羽生九段は持ち時間5時間を使い切って、一手60秒未満で指す一分将棋。対して佐藤九段は3分を残しています。

 94手目。佐藤九段は少し考えて、△4一角と王手をしました。しかし▲2二玉ともぐられてみると、もうこの玉がつかまりません。

佐藤「最後は寄せ方間違えてしまって、ひどかったですね」

 局後に佐藤九段はそう嘆きました。2図では△1二飛という、あまりにもぴったりとした攻防の決め手があったようです。感想戦で記者からその手を指摘された羽生九段は、驚きの声をあげていました。

羽生「△1二飛車!?」

佐藤「ああ、△1二飛車ですか」

羽生「いやあ、そっかー。ひえー」

佐藤「これですか」

羽生「なるほど。いや、わかりやすいですか。そうか」

 羽生九段が驚くぐらいですから、簡単な手ではありません。先日の名人戦七番勝負第2局、藤井聡太名人-豊島将之九段戦と同様、評価値の上では「大逆転」でも、勝勢とされる側が勝ち切るのは大変だったのでしょう。

 大駒3枚の追及を逃れながら、羽生玉は盤上右隅にもぐりこんで、もうつかまりません。

 最後は劇的な逆転で、羽生九段が佐藤九段との169局目の戦いを制することになりました。

 羽生九段と佐藤九段の対戦成績は羽生114勝、佐藤55勝。直近では羽生九段の7連勝となりました。

 羽生九段はこれで通算1563勝目。歴代1位となったあとも、着々と白星を重ね続けています。

 佐藤九段は通算1106勝。少し前に米長永世棋聖を抜いて、現在では歴代7位です。

 藤井聡太王座への挑戦権を争うトーナメント。4月26日には以下の2局がおこなわれます。

広瀬章人九段-久保利明九段

渡辺明九段-佐々木大地七段

【王座戦】

主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟

協賛:東海東京証券株式会社

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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