アニメ聖地は、本当に「東高西低」なのか?

世界遺産でありアニメ聖地でもある白川郷。連日、多くの外国人観光客で賑わう

 日本各地のどこに行けば、アニメの舞台や関連施設があるかをまとめた「アニメ聖地88」が決定してから2ヶ月あまりが経った。

 筆者が書いた記事を含め、あの「聖地」が入ってないという声を取り上げた報道がされている。その中で気になった記事がある。産経新聞の10月25日の記事「訪れてみたい『アニメ聖地』は東高西低…なぜか東京一極集中、有名な滋賀の『けいおん!』など落選」だ。

本当に「東高西低」なのか?

 記事の内容は、アニメ聖地88に選ばれている箇所が東日本57ヶ所、西日本28ヶ所と偏在しており、ゆえに「東高西低」だと指摘するものだ。だが、記事中でも触れられている通り、「アニメ聖地88」は実際の「聖地」が十分に反映されているとは言い難い。また、記事では岐阜・愛知・三重・福井まで「東日本」に含まれており、「東高西低」という結論に持っていくための多少強引な線引きをしているようにも映る。

 そもそも何をもって「聖地」とするのか? そこで、アニメの舞台となった地域で、作品にちなんだスタンプラリーや、出演声優によるイベントなどといった、何らかの取り組みが実際に行われている(いた)地域を「聖地」と定義し、筆者が独自にまとめてみた。

実際に地域で取り組みが行われたことのある、東西別にしたアニメ聖地一覧(筆者調べ)
実際に地域で取り組みが行われたことのある、東西別にしたアニメ聖地一覧(筆者調べ)

 東西の分類は、新潟・長野・静岡までを東日本とした。事例については筆者が調べた範囲内であり、全てを網羅しているとは言い難い。それらを踏まえた上で、決して「東高西低」ではないということをご理解いただければ幸いである。なお、「アニメ聖地88」になぜか選ばれなかった作品も少なからず入っている。

「聖地」は主に都市周辺部に偏在

 そして、この「聖地」の分布を日本地図に大まかに落とし込んだものが下の図である。

アニメ聖地55作品の分布(筆者調べ)
アニメ聖地55作品の分布(筆者調べ)

 改めて東日本に偏っているわけではないことがおわかりいただけるのではないか。三大都市圏はもちろん、仙台や広島などの地方政令市の周縁部にも「聖地」があることが見えてくる。今や札幌と新潟、浜松以外の政令市の近郊には、何かしらの「聖地」がある状況だ。

地方の制作会社が「聖地」を牽引

 「聖地」が分散している要因として、東京「以外」に本社があるアニメ制作会社の影響も大きい。例えば京都府宇治市に本社を置くアニメ制作会社「京都アニメーション」が製作した作品は、「けいおん!」や「聲の形」をはじめ、西日本だけで9作品にものぼる。本社が京都にあるから、関西を中心とした西日本のほうがアニメを製作するためのロケハンに行きやすく、舞台にしやすいというわけだ。

 さらに特筆すべきは、そこまで人口密集地とは言えない、北陸三県にも偏在している点だ。合計7作品で、この要因も、富山県南砺市に本社を置くアニメ制作会社「ピーエーワークス」が大きい。「true tears」や「花咲くいろは」など、7作品中4作品が同社制作のものだ。京都アニメーションとピーエーワークスといった、地方にある制作会社が「聖地」を生み、牽引している構図がある。(下図)

京都アニメーションとピーエーワークスが生み出した「聖地」(筆者調べ)
京都アニメーションとピーエーワークスが生み出した「聖地」(筆者調べ)

課題は観光ルート作り

 今一度、「聖地」を地図に落とし込んだ図を見ていただきたい。55作品のアニメ「聖地」を示しているが、空白地もある一方、関東から中部、近畿地方にかけてその多くが分布している。55作品が24都道府県に偏在しているのが現状だ。

 ここで大きな課題となっているのが、1回の旅行でどれだけ効率よく「聖地」を回れるかということだ。例えば関東近郊であれば、埼玉県秩父市とその隣の横瀬町にアニメ2作品の舞台を巡ったら、その帰りに「ヤマノススメ」の飯能にも立ち寄るというルートを作ることができる。

 他にも、多くの人にとって遠方である飛騨高山に旅行をした際、「君の名は。」の飛騨市をはじめ、「氷菓」の高山、そして「ひぐらしのなく頃に」の白川村の3地点をセットで回ることも可能だ。もちろん「聖地」巡りとともに、世界遺産である白川郷や、高山の古い街並みも旅したら、楽しさは倍増だろう。

 こうした周遊は「聖地」に詳しいファンには既に知れ渡っているが、まだまだ一般化しているとは言い難い。一回の旅で数作品の舞台を探訪できる上に、有名な観光地も巡れるというのであれば、そこまでアニメ作品に関心が高くない層でも「行ってみようかな」という気を持たせられるのではないか。

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のタペストリーが並ぶ秩父市の商店街(2012年撮影)
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のタペストリーが並ぶ秩父市の商店街(2012年撮影)

なぜ地方に人を巡らせようとするのか

 しかし、なぜここまでして都市から地方に人を誘引しようとするのか、と疑問に思う人もいるかもしれない。

 ご存じの通り、日本は人口減少社会にあり、この余波は都市周縁部にも及んでいる。農村部などの地方は言わずもがなで、とりわけ工芸品といった伝統の維持は死活問題になっている。こうした産業は観光客によって支えられている部分も大きく、この存続には都市と地方との交流人口の向上が欠かせない。こう考えると、「君の名は。」で「組み紐」が登場した点にも納得がいくかもしれない(もっとも、組み紐そのものは飛騨由来の伝統工芸品ではないが)。

 今、国内の人口は減る反面、海外から日本を訪れる外国人観光客の数は激増中だ。訪日外国人は「世界遺産」を積極的に旅する傾向があるようで、筆者が先日岐阜県の白川郷に訪れた際も、日本人よりも外国人のほうが多いような状況だった。なお、白川郷の中にある神社「白川八幡神社」は「ひぐらしのなく頃に」の聖地となっており、作品にまつわる絵馬が大量に奉納されている。神社を訪れた外国人の多くは絵馬を眺めながら、「これが日本の絵馬か!」といったような感じで物珍しそうに写真を何枚も撮っていた。やや間違った日本像を生み出している可能性はあるかもしれないが、関心を持ってもらえることは大きな一歩だろう。

白川八幡神社に奉納された「ひぐらしのなく頃に」の絵馬。多くの外国人観光客が物珍しそうに写真を撮っていた
白川八幡神社に奉納された「ひぐらしのなく頃に」の絵馬。多くの外国人観光客が物珍しそうに写真を撮っていた

 こうした訪日観光客が、地方の経済を支えつつあるという現状は無視できない。この余波を、「世界遺産」だけでなく「アニメ聖地」にも波及できないか。これが「アニメ聖地88」の狙いであり、観光庁の、ひいてはアベノミクスの成長戦略とも言えるのだ。

(図表・撮影=筆者)