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アニメ聖地88ヶ所が決定!「君の名は。」は順当。ジブリ作品は漏れる

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
発表後に行われた、自治体関係者も交えた壇上撮影の様子

 大ヒットアニメ「らき☆すた」の放送から10年、全国各地にアニメや漫画の舞台になった「聖地」が続々と誕生している。その数は今や1000を優に超える。そのため、海外から日本に訪れる観光客に向けて、どこに行けばどの有名作品の舞台に出会えるのか、という観光ルートを伝えることは、アニメ業界や観光業界にとって喫緊の課題になっている。

5万人以上が国内外から投票

 そこで、一般社団法人アニメツーリズム協会は8月26日、「訪れてみたい日本のアニメ聖地88(2018年版)」を発表した。この「アニメ聖地88」は、国内の作品の舞台88ヶ所に加え、アニメ関連の施設やイベント、観光案内所をリスト化したもので、どこに行けばどういうアニメ関係のスポットがあるかが外国人観光客にもわかるようになっている。ファンによるインターネット投票に基づいて選ばれ、国内外から5万人以上の投票があったという。

壇上で話す、アニメツーリズム協会の富野由悠季会長。ガンダム生みの親としても有名だ
壇上で話す、アニメツーリズム協会の富野由悠季会長。ガンダム生みの親としても有名だ

「らき☆すた」「君の名は。」は選出 

 作品の舞台からは、「らき☆すた」(埼玉県久喜市)、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(同・秩父市)、「ガールズ&パンツァー」(茨城県大洗町)、「君の名は。」(岐阜県飛騨市・東京都新宿区)、「ラブライブ!サンシャイン!!」(静岡県沼津市)、「サマーウォーズ」(長野県上田市)、などが選ばれた。

 アニメ関連施設からは「杉並アニメーションミュージアム」(東京都杉並区)、「石ノ森萬画館」(宮城県石巻市)、「新潟市マンガ・アニメ情報館」(新潟市)など20施設が選出。イベントは「世界コスプレサミット」(名古屋市)、「マチ★アソビ」(徳島市)の2つが選び出された。

 88の舞台を眺めていると、ファン投票によるものとはいえ、なぜこれが入っているのかというものもある。先述の通り、誰もが認める「聖地」が順当に入っている一方で、「アクセル・ワールド」(東京都杉並区)、「ケロロ軍曹」(熊本市)などは、「なぜここが?」と思ってしまう。詳しく調べてみると、「アクセル・ワールド」は高円寺周辺の商店街や歩道橋が主な舞台に、「ケロロ軍曹」は作者が熊本市出身というところからのようだ。なるほど、こういう新しい発見は、国内の観光客にも有力なPRになるだろう。

発表後展示された「日本のアニメ聖地88(2018年版)」のパネル
発表後展示された「日本のアニメ聖地88(2018年版)」のパネル

ジブリ作品が漏れた理由 

 反面、入るべき「聖地」が入っていないケースも多数あった。象徴的なのは、世界に冠たるジブリ作品から1作品も入っていないことだ。特に「耳をすませば」は聖蹟桜ヶ丘駅周辺(東京都多摩市)が舞台になっており、駅前には作品の「モデル地案内マップ」の看板が設置されている。駅の列車接近メロディも主題歌の「カントリーロード」がホームに流れる。他に「風立ちぬ」も名古屋市や長野県軽井沢町などを舞台にしているものの、「アニメ聖地88」に選ばれていない。この理由はおそらく単純で、ジブリが作品の舞台を一切公認していないためだと考えられる。筆者も以前「聖地」をまとめた誌面をムック本に掲載しようとした際、ジブリ広報から「作品全体の世界観を重視したく、一定の場所や舞台を誘う企画特集は遠慮させて頂いている」との回答をいただいたことがある。

聖蹟桜ヶ丘駅前にある「耳をすませば」の「モデル地案内マップ」の看板
聖蹟桜ヶ丘駅前にある「耳をすませば」の「モデル地案内マップ」の看板

選ばれなかった作品と地域 

 他に、地元サイドから「巡礼マップ」の製作・配布をはじめ、地域を挙げた取り組みが行われているにもかかわらず、「アニメ聖地88」から漏れた例が多くある。筆者が気付いた主なものを以下箇条書きにしたい。

・「ふらいんぐうぃっち」(青森県弘前市)

・「戦国BASARA」「東北ずん子」(宮城県白石市)

・「あの夏で待ってる」(長野県小諸市)

・「夏色キセキ」(静岡県下田市)

・「ゆるゆり」(富山県高岡市)

・「花咲くいろは」(金沢市)

・「のうりん」(岐阜県美濃加茂市)

・「聲の形」(岐阜県大垣市)

・「けいおん!」(滋賀県豊郷町)

・「中二病でも恋がしたい」(大津市など)

・「たまこまーけっと」(京都市)

・「響け! ユーフォニアム」(京都府宇治市)

・「咲-Saki- 阿知賀編」(奈良県吉野町)

・「free!」(鳥取県岩美町)

・「この世界の片隅に」(広島県呉市)

・「夏目友人帳」(熊本県人吉市)

 上記の中には、「けいおん!」のように、制作側が舞台として認めていないものもある。他にも、作品自体が不人気で、ファン投票の結果選ばれなかったものがあるかもしれない。

「聲の形」上映に湧く大垣市内の商店街。だが、88ヶ所には選ばれなかった
「聲の形」上映に湧く大垣市内の商店街。だが、88ヶ所には選ばれなかった

角川系の作品が多い

 だが、これについて、アニメツーリズム協会の広報は「ファン投票で選ばれた上位作品を全てそのまま機械的にピックアップしているわけではない」と話す。言葉は濁していたが、投票の結果上位に入ったものの、様々な“大人の理由”によって選ばれなかった地域もあると受け止めるべきだろう。アニメツーリズム協会の理事長には、株式会社KADOKAWAの角川歴彦会長が就任しており、角川色が強い陣容になっている。そのため、他の大手出版社やテレビ局、ビデオメーカーなど、他の版元との折衝が難航している可能性も考えられる。「アニメ聖地88」の聖地を見ると、どうしても角川系の作品が多いと言わざるを得ない。 

聖地88か所から増加も 

 このように、「アニメ聖地88」が、実際に日本各地の「聖地」で取り組まれている地域振興事例をそのまま体現しているとは、お世辞にも言いがたい。これについて広報は「2019年版以降、聖地の数を増やしていくことも考えたい。88という数字は残し、実際は100以上あってもいい」と話し、新たな受け入れも積極的に取り組む方針を示した。

 発表会場では自治体関係者も参列していたが、「これでうちの自治体をPRしてくれるとはとてもありがたい」と歓迎する声もあった。一部の定番の「聖地」が漏れている現実もある一方で、その分あまり知られてなかった作品や舞台のPRに繋がっている側面は間違いなくあるだろう。

 「アニメ聖地88」によって選ばれた地域は、今後本格的に観光客受け入れなどの整備を進めていく。国内外の観光客を満足させる、名実ともの「聖地」が新たに誕生するかどうか、見守っていきたいところである。

(撮影=筆者)

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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