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『ゆるキャン△』と『ラブライブ!』が初のコラボスタンプラリー 時代は「地域共創」へ

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
スポットの中心地の一つ、浜松市の弁天島海浜公園にある『ゆるキャン△』等身大パネル

 近年、現実を舞台にしたアニメ作品が、特定の地域を舞台にすることは当たり前となってきています。そしてその数は年々増える一方であり、舞台地が被ることで、その地域に複数作品のキャラクターが並ぶことも次第に珍しくなくなってきています。

 こうした中、全く違う版元の作品がコラボしたスタンプラリーが4月26日(金)から9月30日(月)にかけて始まっています。『Meets SHIZUOKA 〜ゆるキャン△ × ラブライブ!サンシャイン!!〜』という静岡県全域を舞台にしたスタンプラリーで、大人気アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(以下、『サンシャイン!!』)と『ゆるキャン△』がコラボしたものになっています。

コラボを記念して制作された描き下ろしイラスト。左から浜松市のかんざんじロープウェイ(黒澤ルビィ/各務原なでしこ)、ぬくもりの森(斉藤恵那/桜内梨子)、袋井市の法多山尊永寺(黒澤ダイヤ/土岐綾乃)
コラボを記念して制作された描き下ろしイラスト。左から浜松市のかんざんじロープウェイ(黒澤ルビィ/各務原なでしこ)、ぬくもりの森(斉藤恵那/桜内梨子)、袋井市の法多山尊永寺(黒澤ダイヤ/土岐綾乃)

 『サンシャイン!!』は静岡県沼津市、『ゆるキャン△』は山梨県や静岡県浜松市や伊豆半島など、広い範囲が舞台となっています。どちらも静岡県を舞台にした作品となっており、これまで県内でスタンプラリーだけでなく、鉄道会社とのコラボなど、様々なイベントを実施してきています。

静岡全域を巡るスタンプラリー

静岡県全域、18ヶ所のスポットを周回する大規模スタンプラリーだ
静岡県全域、18ヶ所のスポットを周回する大規模スタンプラリーだ

 スタンプラリーの範囲は静岡県全域にわたり、浜松を中心とした西部エリア、静岡市や川根本町を中心とした中部エリア、そして沼津市や伊豆半島を中心とした東部エリアの3つに大きく分かれています。スタンプは各エリアに6ヶ所ずつ、計18ヶ所設置されており、各エリアをコンプリートすることで、景品のクリアファイルが貰える内容になっています。

各エリアをコンプリートすることで、A5サイズのクリアファイルが景品としてもらえる。左から西部エリア、中部エリア、東部エリア
各エリアをコンプリートすることで、A5サイズのクリアファイルが景品としてもらえる。左から西部エリア、中部エリア、東部エリア

 景品を貰うには、スタンプ設置施設で有料の台紙(税込500円)を購入する必要があります。このほか、スタンプ設置場所では施設ごとのスタンプイラストを使用した、缶バッジやステッカーも販売されています。

景品をもらうには、有料のスタンプ台紙(税込500円)を購入する必要がある
景品をもらうには、有料のスタンプ台紙(税込500円)を購入する必要がある

 スタンプの絵柄はいずれも『サンシャイン!!』と『ゆるキャン△』のキャラクターが一緒に並んだオリジナルのものなのが特徴です。スタンプ設置場所は、西は浜松市の舘山寺温泉、北は川根本町にある寸又峡温泉、南は伊豆半島の南端の下田市と、1日ではとても回りきれない広大なものとなっています。

共通するスタンプラリー文化

『ゆるキャン△』では過去にも何度も県単位でスタンプラリーを実施している。画像は「『ゆるキャン△』×静岡県スタンプラリー」のビジュアル。その経済効果は4億1148万円といわれる(静岡県提供)
『ゆるキャン△』では過去にも何度も県単位でスタンプラリーを実施している。画像は「『ゆるキャン△』×静岡県スタンプラリー」のビジュアル。その経済効果は4億1148万円といわれる(静岡県提供)

 元々『ゆるキャン△』では山梨県や静岡県など、県単位の範囲で実施するスタンプラリーを何度も実施してきました。『ゆるキャン△』の主人公である志摩リンが原付に乗って各地をキャンプする物語の性質上、公共交通機関では行きづらい場所もこれまでスタンプ施設になっています。コンプリートするのは簡単ではなく、参加者からは「ゆるくないスタンプラリー」という名声を得ているのも特徴です。

「沼津まちあるきスタンプ」のスタンプ帳は沼津商工会議所公式のものだけで現在7冊展開している
「沼津まちあるきスタンプ」のスタンプ帳は沼津商工会議所公式のものだけで現在7冊展開している

 対する『サンシャイン!!』では、「沼津まちあるきスタンプ」という、主に沼津市内を周遊するスタンプラリーが2017年5月から実施されています。このスタンプラリーは期間限定ではなく、恒常的に実施しているのが特徴で、年々スタンプの数を増やしています。

24年4月末時点で、沼津市内を中心に123ヶ所でスタンプが設置されている。(https://www.llsunshine-numazu.jp/より引用)
24年4月末時点で、沼津市内を中心に123ヶ所でスタンプが設置されている。(https://www.llsunshine-numazu.jp/より引用)

 その数は現在123ヶ所(24年4月末時点)で、コンプリートするには何度も何度も沼津に通う必要があります。さらにイベント時など期間限定のスタンプもあり、全て集めるのは至難の業といえます。沼津市の施設などでは専用のスタンプ帳も販売しており、その種類も増えていっています。

『ゆるキャン△』TVアニメ2期の主要な舞台となった西伊豆町の堂ヶ島温泉郷では、現地限定のグッズも多く販売されている
『ゆるキャン△』TVアニメ2期の主要な舞台となった西伊豆町の堂ヶ島温泉郷では、現地限定のグッズも多く販売されている

 両作品とも、難易度が高いスタンプラリーを展開してきており、ファンの間ではそれでも周回してコンプリートするのがある種のファンである証にもなっています。その様子は「お遍路」と変わらず、さながら「聖地巡礼」だとも言えるでしょう。

24年1月から3月にかけて実施した「富士山世界文化遺産登録10周年 『ゆるキャン△』スタンプラリー!」の、静岡市の三保の松原に設置されたパネル
24年1月から3月にかけて実施した「富士山世界文化遺産登録10周年 『ゆるキャン△』スタンプラリー!」の、静岡市の三保の松原に設置されたパネル

 両作品の双方が似たような、“過酷”なスタンプラリー文化を持っているだけでなく、他にも今回のコラボが実現した要因があると考えます。その一つは、『サンシャイン!!』と『ゆるキャン△』も作中世界に男性がほとんど登場しない世界観で共通しており、ファン層も似ている傾向がある点です。「聖地」がある作品が好き、というアニメファンも今や少なくなく、両作品はこうしたファン層を中心に広い支持を集めています。

実施期間の短さに課題も

『ゆるキャン△』TVアニメ3期の主要な舞台で、今回のスタンプラリーのスポットにもなっている川根本町の寸又峡温泉では、現地限定のグッズも販売されている。静岡駅からでも2時間以上のアクセスを要する秘境だ
『ゆるキャン△』TVアニメ3期の主要な舞台で、今回のスタンプラリーのスポットにもなっている川根本町の寸又峡温泉では、現地限定のグッズも販売されている。静岡駅からでも2時間以上のアクセスを要する秘境だ

 一方で、『サンシャイン!!』のスタンプラリーは公共交通機関での周遊が念頭に置かれていますが、『ゆるキャン△』の場合はキャンプ作品という性質もあり、公共交通機関の移動に必ずしも配慮していない違いがあります。

現在放送中の『ゆるキャン△』TVアニメ3期キービジュアル
現在放送中の『ゆるキャン△』TVアニメ3期キービジュアル

 今回のスタンプラリーは『ゆるキャン△』側の文化に寄っている面もあり、公共交通機関の移動だけで全18ヶ所をコンプリートするのは難易度が高いと言えるでしょう。そのため、「ラブライブ!」ファンからは戸惑いの声もあるようです。

西伊豆町の沢田公園露天風呂に設置された『ゆるキャン△』の等身大パネル。公共交通機関でのアクセス難易度は高い。東部エリアでは、沼津市から2時間以上かかる下田市もスポットに入っている
西伊豆町の沢田公園露天風呂に設置された『ゆるキャン△』の等身大パネル。公共交通機関でのアクセス難易度は高い。東部エリアでは、沼津市から2時間以上かかる下田市もスポットに入っている

 実施期間が9月末までという短さも、その難しさに拍車をかけているといえます。まず、スタンプラリーはコンプリートすることで一種のファンの証になるものなので、やるからにはコンプリートが前提のものになります。ここが何らかの事情で適わないとなると、参加者は大きな敗北感や、ファンの間での劣等感を抱くことにも繋がります。

全18ヶ所のスタンプ設置施設で絵柄別で販売されている、缶バッジのサンプル。各500円(税込)
全18ヶ所のスタンプ設置施設で絵柄別で販売されている、缶バッジのサンプル。各500円(税込)

 設置数が膨大だったりエリアが広大だったりして、とても1日2日で回りきれないものでも、「沼津まちあるきスタンプ」のように設置期間が特に決められていなければ、「いずれは全て達成しよう」という前向きな目標をファンに与えてくれます。

全18ヶ所のスタンプ設置施設で絵柄別で販売されている、ステッカーのサンプル。各600円(税込)
全18ヶ所のスタンプ設置施設で絵柄別で販売されている、ステッカーのサンプル。各600円(税込)

 しかし今回のように、設置期間が5ヶ月あまりしかなく、公共交通機関の移動では1泊2日でとても回りきれないものの場合、参加者の負担はより大きいものになります。スタンプラリーの設計としては「無理に全部回る必要はない」という作りではあるものの、ファンの心理としてはそう簡単に割り切れるものではありません。例えば静岡3エリアを期間別に分けてスタンプラリーを展開するといった配慮も必要だったのかもしれません。

コラボによる「地域共創」の時代へ

『Meets SHIZUOKA 〜ゆるキャン△ × ラブライブ!サンシャイン!!〜』キービジュアル。静岡県出身のキャラクター同士仲良くキャンプする光景に未来を感じたファンも少なくない
『Meets SHIZUOKA 〜ゆるキャン△ × ラブライブ!サンシャイン!!〜』キービジュアル。静岡県出身のキャラクター同士仲良くキャンプする光景に未来を感じたファンも少なくない

 とはいえ、今回のように2つの人気作品が手を取り合う形でコラボイベントを実施したのは、とても大きな意義があると考えます。

 ある地域を舞台にした作品は減ることがないため、その数は年々増える傾向にあります。また、キャラクターを用いたまちおこしは今や広く受け入れられるものとなっているため、地域としてもなるべく積極的に活用する動きが続いています。

天竜浜名湖鉄道の天竜二俣駅。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の舞台モデルとなった縁で、「第3村」の駅名標が掲げられていた。『ゆるキャン△』のラッピング車輌も走っており、複数作品のコラボが同居している
天竜浜名湖鉄道の天竜二俣駅。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の舞台モデルとなった縁で、「第3村」の駅名標が掲げられていた。『ゆるキャン△』のラッピング車輌も走っており、複数作品のコラボが同居している

 そのため、これまでは1地域に1作品のキャラクターしかいなかったものが、今後複数作品のキャラクターが共存するようになることは、時間の問題と言えるでしょう。言い換えれば、今回のように違う作品のキャラクター同士が手を取り合って地域を共に創り上げる「地域共創」の動きが今後より活発になるのではと考えます。

 今回のスタンプラリーが始まってまだ数日しか経っていませんが、既にこうした「地域共創」の効果は出ていると言えそうです。沼津市のあげつち商店街にあるスタンプ設置店「つじ写真館」の峯知美さんがこう話します。

「スタンプラリーが始まってからは『ゆるキャン△』ファンのお客様も多く来店しています。今回のイベントを機に『ラブライブ!』も見てみると言って下さる人も少なくなく、相乗効果が早速出ていると感じています」

沼津市のあげつち商店街にあるつじ写真館。『サンシャイン!!』のスピンオフアニメ『幻日のヨハネ』でも舞台モデルとして登場した。今でも「ラブライブ!」ファンが世界中から集まる場所だ
沼津市のあげつち商店街にあるつじ写真館。『サンシャイン!!』のスピンオフアニメ『幻日のヨハネ』でも舞台モデルとして登場した。今でも「ラブライブ!」ファンが世界中から集まる場所だ

 つじ写真館は『サンシャイン!!』のファンが多く訪れるお店としてファンの間で著名で、そのおもてなしが評判のお店です。作品のファンだけでなく、製作スタッフも多く訪れる沼津を代表するお店としても知られています。ここに新たに『ゆるキャン△』ファンの人も交流拠点になることで、今までにない大きな効果が期待できそうです。

 峯さんによると、既に『ゆるキャン△』ファンとの交流も始まろうとしているようです。

「GWスタートという事もあり、家族連れのお客様も多く静岡観光を楽しまれています。最初はスタンプラリー目的で訪れたようですが、会話をしているうちに『ゆるキャン△』ファンの方が巡った写真も見せていただき、話が弾んでいます。2~3日目で18ヶ所フルコンプされている方もいらっしゃって、『もう一度回りたいです!』と話すファンの方もいました。コラボによって新たなお客様が静岡に、沼津に来てくださるので笑顔でお迎えしたいと思います」

沼津市で4月29日にオープンした「キン肉マンミュージアム」の外観
沼津市で4月29日にオープンした「キン肉マンミュージアム」の外観

 沼津市では、他にも4月29日に「キン肉マンミュージアム」が沼津市大手町で開館しています。『キン肉マン』の「夢の超人タッグ編」で描かれた「トーナメント・マウンテン」の舞台が、富士山に繋がる街であったことから、沼津市がその開館場所になったといいます。『キン肉マン』の常設展示施設ができたのは初めてのことです。

 このように、『サンシャイン!!』一色だけかと思われていた沼津市でも、少しずつ変化が訪れています。今後、同様の例は増え続けることでしょう。そうなると重要になってくるのは、作品を超えたファン同士の関わり合いと言えます。そしてその繋ぐ存在となるのは、隔てなくファンへのおもてなしを続ける地元の人の存在に他なりません。

 複数の作品が手を取り合って地域を盛り上げ時代が訪れるからこそ、地域にとっては一層のファンへのおもてなしが大事になると言えるでしょう。

『ラブライブ!サンシャイン!!』TVアニメ2期キービジュアル
『ラブライブ!サンシャイン!!』TVアニメ2期キービジュアル

(写真は全て筆者撮影)

(クレジットのない画像はmiraithings提供)

(C)あfろ・芳文社/野外活動プロジェクト

(C)️2017 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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