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#QRコード』発明による社会貢献の評価は? 地下鉄20億円の車両改修費は20億円→270万円

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
出典:朝日新聞

KNNポール神田です。

東京都営地下鉄のホームドア設置率が100%となった。
東京都交通局が管理する都営地下鉄4路線の全駅で2023年、ホームドアの設置が終わった。その推進役を担ったのが、『デンソーウェーブ』の『QRコード』技術であった。


電車のドアにQRコードがあると、ついつい読み込んでみたい…と筆者は考える…。しかし、このこのQRコードは、読み取っても何の反応もしてくれない…。広告ではない、誰が何のための不思議なQRコードかと思っていたが、実はホームドアの開閉に利用されていたことをはじめて知って驚愕であった。
1日あたり224万人が利用している都営地下鉄のホームドアの開閉を『QRコード』によって自動化されていたからだ。しかも従来方法の改修費用を劇的に低減している。

□複数の鉄道会社が乗り入れる東京都営地下鉄にホームドアを設置する。問題になったのは、都の分だけで20億円と試算される車両改修費だった。それが、ある公務員のひらめきで、わずか270万円に収まった。
□東京都交通局が管理する都営地下鉄4路線の全駅で2023年、ホームドアの設置が終わった
□最後まで残っていた浅草線は、京浜急行、京成電鉄、北総鉄道、芝山鉄道の4社が乗り入れており、他の3路線と比べて多い乗り入れ会社の数がネックとなっていた。
□都営地下鉄では従来、無線を用いて、車両の扉とホームドアを連動させるシステムを用いてきた。浅草線で導入すると、車両改修費は都の分だけで約20億円と試算され、他の4社も1編成あたり数千万円。システム整備時に車両が使えなくなる課題もあり、代替策が模索されていた。
https://www.asahi.com/articles/ASS1Z54W3S1LOXIE031.html

■20億円が270万円となると…19億9,9730万円分!浮いた!

このQRコードを読み取らせるアイデアをひらめいたのが、ホームドアの技術開発を担当する公務員、岡本誠司さん(63)
QRコードを開発した『デンソーウェーブ』に相談したそうだ。

□2015年、ホームドアへの応用ができないかと同社に相談したところ、「社会的にも意義がある」と応じてくれました。
ホームドア整備のノウハウはわれわれ都交通局が提供し、ソフトウエア開発や誤り訂正機能の強化などはデンソーウェーブが担う、という形で開発を進めました。
□編成やドアの数など車両情報を格納したQRコードのステッカーを1編成あたり4カ所に張っています。ホーム天井に取り付けた3台の読み取り装置でQRコードの情報を読み取るほか、QRコードの横の動きからドアの開閉を検出し、ホームドアも連動して動く仕組みです。高額な車両改修費の問題を解決し、信頼度の高いシステムを構築することができました。
□安定した読み取りを実現するため、QRコードを進化させた鉄道専用の「tQR」を採用しています。通常のQRコードは30%まで欠けたり汚れたりしても読み取れますが、tQRは50%まで欠損しても大丈夫
https://www.tokyo-np.co.jp/article/284136

出典:朝日新聞
出典:朝日新聞

■無線装置の設置よりもQRコードへの発想の転換

東京都都市交通局車両電機部の岡本誠司さんの発想の転換

出典:東京新聞
出典:東京新聞

□無線装置の設置には1編成あたり数千万円と高額な車両改修費が必要で、費用は各社負担になる。乗り入れする他社に持ちかけても、話に乗ってもらえませんでした。「うちはホームドア付けないから」という会社もいました。
□車両の改修をしないとなると、乗務員がホームドアを開け閉めし、確認作業も必要になる。人間ですから開け忘れ、閉め忘れも出てくるでしょう。確認に時間をかければ、1駅への停車が長くなり、輸送力が落ちてしまう。じゃあどうする、というところで止まっていました。
□さまざまな技術を探している中で、ひらめいたのが、デンソーウェーブが開発したQRコードでした。2015年、ホームドアへの応用ができないかと同社に相談したところ、「社会的にも意義がある」と応じてくれました。ホームドア整備のノウハウはわれわれ都交通局が提供し、ソフトウエア開発や誤り訂正機能の強化などはデンソーウェーブが担う、という形で開発を進めました。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/284136

筆者の公務員さんのイメージでは、新たな事はやりたがらない。失敗を生むきっかけは、個人的にできるだけ避けたいというイメージを抱いていたが、岡本さんの発想は、非常にポジティブであった。そして、『ホームドア』設置の車両改修費が、コストに見合わない民間他社の相互乗り入れであればあるほど、事業性が見込めないと投資判断につながらなかったことだろう。

しかし、『QRコードがあればできるかもしれない』という発想の転換が19億9,9730万円分の節約につながり、ホームドア設置率100%を実現化することができた。
そして、『デンソーウェーブ』も『QRコード』の『特許を開放』しながらも、がっちりとこんなコラボで『QRコード開発』を事業としているところに注目したい。
しかも、京急電鉄、小田急電鉄なども同様にホームドアにこの技術をとりいれ、全国的に伝搬していけば、『デンソーウェーブ』としても旨味がでてくる。

■『デンソーウェーブ』の『tQR』とは?

出典:デンソーウェーブ
出典:デンソーウェーブ


『tQR』とは、『デンソーウェーブ』と東京都都市交通局と共同開発した新型QRコードを用いたホームドア開閉制御システム。
https://www.denso-wave.com/ja/adcd/info/detail__191003_01.html

出典:デンソーウェーブ
出典:デンソーウェーブ

https://www.denso-wave.com/ja/adcd/event/aice2019/tqr.pdf

このように、『デンソーウェーブ』は、自社が開発した『QRコード(二次元バー−コード)』の特許を持ちながらも、無償公開で全世界へ普及することとなった。同時に『QRコード』を、さらにシステム開発する業務という新たな分野を開拓することとなった。

業界や業種によって、よりたくさんの精度をあげた『新QRコード』のシステム開発は多様になることだろう。むしろ、このシステム開発技術のベンダープラットフォーマーとしての課金のビジネスもありえそうだ。オープンプラットフォーマーとしての技術公開と協力ベンダーやスタートアップのアクセラレーターによって、『新QRコード』のシステム開発はまだまだ無限にある。

筆者は、『はま寿司』アプリで日常的に予約から、行列レス、座席案内、精算にいたるまで『QRコード』の恩恵を受けている。当然、『はま寿司』側も全国的に売上把握だけでなく食した寿司まで把握することができているはずだ。自社開発ができなくてもある程度のDXは『QRコード』のしくみひとつで改善できることは多々ある。スマホでURLを打ったり、検索することもなくなる。店内無料Wi-Fiのコードなどのログインは簡単にQRコードのプリントアウトで案内できるはずだ。

□意外に知られていないWI-FiパスワードをQRコードで表示する方法

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5a764366717aa6ce8e1aa9a073bfd35e9574987e

■『QRコード』を発明した『原昌宏(Masahiro Hara)』さん

出典:Newsweek:多様な用途で使われるQRコードの開発を主導した原昌宏 DENSO WAVE INCORPORATED.
出典:Newsweek:多様な用途で使われるQRコードの開発を主導した原昌宏 DENSO WAVE INCORPORATED.


□もともとは製造現場の部品管理を主な目的に1994年に開発。昼休みの囲碁をヒントに、縦横の2方向を使うことでバーコードより多い情報量を入れ込むことに成功した。こうした複雑な情報を素早く読み取るカギが、3つの隅にある特徴的な四角形だ。
□「不器用で一つのものに凝る」性格だという原。この四角形を編み出すため、世界中の文字やマークを地道に調べ上げ、それらにはない特徴を抽出した。
「回」の字に似たこの「切り出しシンボル」を配置することで、読み取り装置が上下左右どの方向からでも簡単にQRコードを認識できるようになった。当時既にライバル技術は存在していたが、こうした工夫で「使う人の立場に立った、読みやすいコード」となったことが普及の決め手ではないかと原は語る。
特許を開放したことで、QRコードは携帯電話のカメラを使ってウェブサイトを読み込む手段として広まった。
□特にスマホの普及以降は世界中で浸透し、電子決済の手段として中国などで爆発的に普及。コロナ禍以降は感染源の追跡、ワクチン接種証明にも各国で使われ、その価値が改めて見直されている。
□セキュリテイ機能を強化し電子チケットに利用される「SQRC」など、さまざまな種類のQRコードを生み出してきた。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2021/08/post-96818.php


原昌宏さん、および現・デンソーウェーブの立派なのが、特許取得費用をかけて『特許』を取りながらも無償公開するという戦略的な手法だった。おそらく、便利な二次元バーコードでも『QRコード』が特許料という『課税』をしていたら、いろんな方式の使いにくい『二次元バーコード』が乱立していたことだろう。それが『デンソーウェーブ』の戦略だった。そして、『SQRC』のような、『QRコード』を活用した新たなソリューションが登場しているので、新たな爆発的な活用が期待できそうだ。
使う人が多くなればなるほど、新たな『課題』と『ニーズ』が生まれ、『QRコード』で解決できのでは?という『選択肢』について『デンソーウェーブ』は圧倒的な優位なポジションを確率している。


■QRコードの特許を開放したデンソーウェーブの狙い『発明』よりも『商標』

QRコードは無料だけど、会社は儲かるの?

□特許とは、発明を公開することで社会を発展させていくもので、公開の見返りに20年間、その発明を独占できます。一方、商標は特許と異なり、更新すれば半永久的に独占使用できます。
□そこでデンソー(現:デンソーウェーブ)は考えました。「QRコードの特許は20年経つと切れるが、『QRコード』という商標はいつまでも使えるな」と。
□商標は「この商標のついた商品はこの企業が作っています」ということを、商品を購入する人にわかりやすく伝えるもの。「QRコード」の商標とともに社名を表示してもらうことで、これがデンソー(現・デンソーウェーブ)の商標であることをPRすることにしたのです。
□QRコードが普及すると、発明したデンソーには、お客さまである多くの企業から困りごとの相談が寄せられようになりました。
□デンソーはこれらの困りごとを「お客さまの貴重な声」としていち早く把握し、製品開発に活用。ライバル企業に先駆けて新しいコード読み取り機やサービスを提供することで、利益を上げています。
https://www.jpo.go.jp/news/koho/innovation/01_qrcode.html

デンソーウェーブの利益はこの戦略どおりでかまわないと筆者は思う。

しかし、発明をしたデンソーウェーブの原昌宏さんや、活用した公務員の岡本誠司さんにも莫大な個人的な利益が恵まれると、企業内でも地方自治体も積極的にアイデアをだしてくれるのではないだろうか? 『アメリカン・ドリーム』ならぬ『イノベーション・ドリーム』のような報酬制度だ。

課税された経済圏からの収益を分配し、理数系、文系に関わらず、イノベーションのキーファクターを生み出した個人にフォーカスを当てる制度だ。
世界に普及した『QRコード』によって、莫大な利益を生み出したIT企業は数ある。

19世紀のフランスでは、写真技術の『ダゲレオタイプ』の技術をフランス政府が買い取り、公共で使えるようにした。その代わり、発明者のダゲレオやニエプス、そしてその息子たちにはフランス政府から終身年金が支払われたという。

科学技術の予算を配分するだけではなく、イノベーションを生み出す、『モチベーションのしかけ』も同時に発明しなければならないのではないか?
また、それらを披露する場も必要なので、4年に一度の国政選挙の時にノミネートされた人たちを投票できるようにすれば、技術大国ニッポンの貢献者を自分たちで選べるとなると、コストをかけずに国民から選ばれるヒーロー、ヒロインも生まれる。ノーベル賞の発表や、学会誌での評価を待つまでももない。名誉と経済支援も同時に獲られることが現在のモチベーションのしかけとなるだろう。

■Appendix

□『なぜ?台湾で3日間でできることが日本では出来ないのか? 飲食店でのQRコード活用』
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f7fcce53bbc699ca3cc7137173b255364d1b0132

□『デンソーウェーブ』 非上場会社
代表相良 隆義

主要株主 株式会社デンソー 75%

豊田通商株式会社 15%

株式会社トッパンインフォメディア 10%
資本金 4億9,500万円
従業員 1,247名(2023年3月31日時点)
売上高 557億円(2022年4月1日~2023年3月31日)
営業利益16億8300万円
経常利益17億6000万円
利益剰余金125億7600万円
総資産373億8700万円

主な取引先 :愛三工業株式会社、株式会社アイシン、イオンリテール株式会社、イビデン株式会社、株式会社NTTドコモ、小田急電鉄株式会社、京浜急行電鉄株式会社、KDDI株式会社、株式会社サトー、株式会社ジェイテクト、シャープ株式会社、セコム株式会社、株式会社セブン&アイ・ホールディングス、ソフトバンク株式会社、株式会社デンソー、株式会社東芝、トヨタ自動車株式会社、株式会社豊田自動織機、豊田通商株式会社、日本郵便株式会社、日立グループ各社、富士通グループ各社、ブラザー工業株式会社、株式会社ブリヂストン、ヤマハ発動機株式会社、YKK株式会社 他多数 ※敬称略
https://job.mynavi.jp/25/pc/search/corp68707/outline.html

□東京都の高速電車事業(都営地下鉄)令和4年度 決算、収入1,158億円で累積欠損金は2,151億円

乗車人員は8億1,842万8千人(一日平均224万2千人)で、前年度に比べて8,970万1千人(12.3%、一日平均24万6千人)増加しました。乗車料収入は1,158億7千万円で、前年度に比べて135億5千5百万円の増収となりました。
経常損益は、4億4千8百万円の赤字(3年度は64億3千5百万円の赤字)となりました。また、4年度末の累積欠損金は2,151億7千5百万円(3年度末2,147億2千8百万円)、長期債務は5,860億円(3年度末6,098億円)となりました。
https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/about/information/closing/r04_closing.html

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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