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TikTok使用禁止法案が成立。米国企業のどこが買収できるのか?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。


2024年3月13日、アメリカの下院で通過していた『TikTok使用禁止法案』が、2024年4月23日上院でも通過し、24日、バイデン大統領がサインしたことにより、本当に法律案が成立してしまった。

安全保障上の国家の危機であるという論点ひとつで、1億7,000万人の米国向けユーザーのサービスが、9ヶ月から1年以内に米国企業に売却しなければ利用禁止という無理難題が見事に成立してしまったのだ。

□米国のジョー・バイデン大統領は(2024年)4月24日(米国時間)、早ければ2025年にも米国でのTikTokの運営を禁止する法案に署名した。
□親会社である中国のバイトダンスが事業を売却しなければ、2025年にも米国での運営が禁止されることになる。
https://wired.jp/article/biden-sign-tiktok-ban/

まるで、80年代のジャパン・バッシング時代を彷彿させるような、中国たたきと、人気アプリの米国企業への強制売却措置である。

もちろん、TikTokの親会社である『バイトダンス』側は徹底的な抗戦に挑むと声明している。


■TikTok使用禁止法案にサインしながらTikTokを使うという米国大統領

出典:TikTok
出典:TikTok

https://www.tiktok.com/@bidenhq/

アメリカ政府が、『安全保障上』の理由で『利用禁止』を法案化する一方、バイデン大統領陣営は、TikTokで選挙用の動画をアップしつづけているというダブルスタンダードな姿勢である。

出典:TikTok
出典:TikTok

https://www.tiktok.com/@bidenhq/video/7361490726284168491


しかも、露骨なトランプ批判の舌戦をくりかえしている。髪の毛のことを揶揄するなど現職大統領のTikTokが利用禁止の法案にサインしながらだ。

…といっても たかだか30万人フォロワーだから米国大統領としての影響力はTikTok界隈ではしれていると判断しているからか?

出典:X.com
出典:X.com

X.com だと、3802万人のフォロワーだ。
https://twitter.com/joebiden

出典:X.com
出典:X.com


そして、米国大統領の @potus アカウントだと、3,475万人のフォロワーだ。
https://twitter.com/POTUS

バイデン大統領にとって、x.comほどの影響力は、TikTokにないとしても、禁止しながら、自分は利用しているというのは、説得力に欠ける。


■バイトダンスの時価評価額は、2,680億ドル(41兆5,400億円)


1,400億ドルから2,500億ドルへと評価(2021年度)されていたが、2023年12月、既存の株主に対して1株あたり160ドル(約2万4000円)、最大50億ドル(約7400億円)相当の自社株買いを提案した。これに基づくと、同社の評価額は2680億ドル(39兆4000億円)となる。@155円ならば41.5兆円だ。


2023年度の売上は1,100億ドル(約15兆7800億円)である。年間の利益率も60%増となり、テンセントやアリババを超える増益率だ。利益だけでも400億ドル。年間売上は1200億ドル近く。

バイトダンス社は一貫して収益の大部分を中国本土市場から得ており、動画投稿プラットフォーム「抖音(Douyin)」のデイリーアクティブユーザー数(DAU)は6億人を超える。

TikTokの世界ユーザー数に占める米国人の割合はわずか10%だが、米国人ユーザーの動画が総視聴数に占める割合は25%となっている。

さらに、ニュースアプリの『Tontiao(今日頭条)』もあるので、バイトダンスの売上に占めるTikTokの米国のみの算出は非常に難しい。

バイトダンスのTikTokの米国1億7000万人の顧客ごと売却するとしても、バイトダンスの評価額 2,680億ドル(41兆5,400億円)、その1/4(25%)の価値としても、670億ドル(10兆3850億円)相当となる。 

Microsoftがアクティビジョン・ブリザードを買収した690億ドル相当だ。しかし、Microsoft、Apple,Googleは、過去の歴史上、SNSとの親和性が悪い…。

x.comにもTikTokは、シナジーがありそうだが、そもそもtwitterが買収されたのが440億ドルなので、とても買えそうな金額ではない。

また、SNS専業であるmetaの時価総額は、現在は、9,671億ドル(149.9兆円)となるので、バイトダンスの25%で売却されると、1/14の規模となる。一番、購入して、その後の運用も実現性が高いのはmeta社だろう。

しかし、TikTok CEOの周受資(ショウ・ジ・チュウ)CEOは、裁判に持ち込んでも応戦する様子なので、その間は、TikTokの利用禁止も売却にもなりそうにない。


■TikTokのCEO 周受資(ショウ・ジ・チュウ Shou Zi Chew )とは?

シンガポール生まれの中国とは、距離をおいたTikTok CEOである周受資(ショウ・ジ・チュウ Shou Zi Chew )CEOの采配にも注目したい。

シンガポールで生まれ、兵役後、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、米国ハーバード大学のビジネススクールを経て、Facebookでインターンし、中国シャオミでCFOとなり、上場へと導き、現在TikTok CEOと親会社のバイトダンス社のCFOも兼任しているというツワモノだ。

公聴会での受け答えも、SNSでの見せ方も上手だ。TikTok CEOが 米国大統領選を挟みながらの対応方法に注目したい。

TEDにおけるTikTok誕生のストーリー 
TikTokのCEO、シュウ・チューが語るその未来 - そしてそのアルゴリズムの違いとは?(English) ※設定の字幕機能で日本語が標示できる

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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