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なんと300億円!5月20日(月)11時〜『LINE Pay300億円祭り』山分けキャンペーンの狙い

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:つのだよしお/アフロ)

KNNポール神田です。

【追記】■LINE友だちからの #LINEPay の #1000円 プレゼントは詐欺ではない

□LINEは(2019年)5月16日、モバイル決済サービス「LINE Pay」で、300億円相当の“山分け”キャンペーンを行うと発表した。ユーザーはLINE Payの送金機能を活用し、自己負担なしで「友だち」同士で1000円相当の電子マネーを送り合える。

□実施期間は5月20~29日。ユーザーへ付与した総額が300億円に達した時点で終了する。送れる人数に制限はないが、受け取れる額は1人当たり最大1000円まで。

出典:LINE Pay、300億円山分けキャンペーン開催 「自己負担なし」で友だちに1000円送れる

■LINEはなんと300億円分のチャージを日本国内3,000万人に!

https://linepay.line.me/campaign/30bill.html

PayPayの第2弾の100億円が終わり…しばらく静観できるかと思いきや、大ニュースが飛び込んできた!

100億円キャンペーンでも驚愕だったが、なんと、今回のLINEは『300億円』の大判ぶるまいだ…。しかも、2019年5月20日(月)11:00から〜2019年5月29日(水)23:59の10日間の短期間!。300億円分をLINEを通じて、知人のLINE PAYに一人あたり1,000円をチャージできるというキャンペーンである。

300億円÷1,000円=3,000万人にLINE Payをチャージできる事となる。ちなみにLINEの国内ユーザーは7,800万人(日本国民1.2億人の65%)なので、PayPay第二弾が3ヶ月かけて費やした100億円の3倍をたったの10日間でだ。LINE Payは10日間で300億円がチャージされるかどうか?も国内最大級のプロモーションとして、見ものである。同じように見えるかもしれないが、PayPayの場合は、購入した金額に対しての還元キャンペーン型であり、LINE Payは、購入する必要がいらないギフトチャージ型である。もらえばよいだけだ。

■『LINE友だち』から1,000円も、もらえたという日本人的『ギフト』感覚

今回の『300億円』還元という圧倒的な金額の効果を考えてみよう。まず、なんと言っても、庶民にはつかみきれない300億円の金銭感覚だ。しかも100億円を2回やったPayPayを完全に圧倒する300億円という金額だから記憶に鮮明に残る。さらに5月20日(月)から10日間という期間は、来週の月曜日からはLINEの友だちの間で、大騒ぎになることが期待できる。PayPay第2弾の100億円は『山分け』に3ヶ月要した。LINE Payのユーザー数は3,000万人(2017年5月)なので、ほぼ全員に300億円が渡っておしまい…というほどシンプルな話ではない。

LINE Payに登録はしたけれども実際に利用していない『幽霊会員』や未『銀行登録』ユーザーがいるからだ。友だちからの300億円原資山分けのギフトで利用促進を喚起することはもちろん、『個人認証』と『銀行登録』という2大障壁で登録でてきていないLINEユーザ 7,900万人にリーチすることができる。

このプロモーションの戦略のキモは『LINE友だち』から1,000円贈ってもらえたという日本人的な『ギフト』感覚にある。たとえば、登録すると500円ポイント分プレゼントなどは普通にザラにある。それが1000円ポイントというと少しうれしいが『個人認証』は、まだしも『銀行登録』の面倒臭さを考えると1000円程度もらってもなぁ…とついつい考えてしまう。しかし、『LINE友だち』からギフトされた1,000円であればどうだろうか?メッセージなどが添えられてあれば、せっかく頂いたので、がんばって『銀行登録』してみようという気になるものだ。そのマインドセットの戦略が巧みなのだ。

■300億円の『ペイフォワード(Pay it Forward)』マーケティング

さらに10日間で最大『300億円』という国内最大規模かつ、短期間で、配りきれるかどうかが未知数のLINEともだちの輪が急拡大する。300億円のプロモーションフィーをMAXで設定しながら10日間なので、筆者はあり余ると見ている。それは、LINEの友だちの輪は重複している人が多いので、2019年5月20日(月)開始で、火曜日と水曜日には、まだ300億円山分け分の1,000円ギフトをもらっていない友だち探しに追われると予期している…。これは、つまりLINEの300億円の原資で手軽にできる『ペイフォワード』なのである。善意の気持ちをAがBに与える。BはAにではなくCに与える。そしてCはDに与える。常にCは、AやBに恩義を感じながら、Dにその気持を紡ぐことができるのだ。10日間で300億円、3000万人にペイ・フォワードは、かなりハードだと思うが、実現できればそれは驚異となることだろう。今度はその金額が、加盟店での利用につながる。そして、LINE Payにはユーザーの経験データが蓄積でき、金融商品を銀行よりも、もっとフレンドリーに敷居をさげて提供できるようになる。

■経済を進化させないのは『銀行』のシステムにある

これだけIT化が進んでいても一番遅れているのが『銀行』だ。キャッシュレス化を阻害しているのは、なにかというと重厚長大で、何もできない銀行にあると筆者は考えている。

LINE Payでペイ・フォワードがきても、困惑するのが至難の『銀行登録』が待っているのだ。いまだにスマートフォンで、登録するのに『全角・半角』を聞いてくる始末だ。政府は、経産省がキャッシュレスを推進する前に『金融庁』におふれをださせるべきだ。

生年月日なんて1961年10月12日であれば『19611012』と8桁でうたせれば、5秒もかからない。それをプルダウンで2019年からさかのぼり、58年分もスライドさせられ、10月を12ヶ月分スライドし、12日を31日分スライドさせられる。また、スマートフォンの機種によっては、ボタンがボタンを隠してしまいエンターボタンがまったく押せない。赤字のエラーがでてきても何がエラーなのかわからない。パスワードは複雑にと言いながら、パスワードはコピーペーストでなく、入力くださいと言われる…。

ユーザー側のフロントエンドでこんな調子だから、内部に至っては、さらにどアホな堅牢システムであることが容易に想定できる。さらに銀行でなにかのアクションを起こそうとすると2週間後に本人確認の必要な郵送でしか届かないことばかり…。何をリクエストしたのかも、忘却の彼方だったりの機会損失だ。しかし、300億円のペイ・フォワードの『ギフト』は、せっかくの友だちからの善意だ。きっと『銀行登録』の障壁に風穴をあけてくれることだろう。これを機会にもう一度言いたい…経済を進化させないのは『銀行』のシステムだ。

■『300億円』もバラまいてLINEの会社は大丈夫なのか?

2018年通期(1年間)業績 出典:LINE
2018年通期(1年間)業績 出典:LINE

https://scdn.line-apps.com/stf/linecorp/ja/ir/all/Q4_earning_releases_JP.pdf

そして、小学生でも気になることが、『300億円』もバラまいてLINEという会社は大丈夫なのか?という疑問だ。まず、2018年の連結業績(1年分4四半期合計)を見てみよう。

□世界のユーザー数合計は1.6億人で日本国内ユーザー数は7,900万人(2018年12月 MAU)

□世界売上は、2,070億円で、日本国内は1080億円。時価総額は8,485億円である。

□LINE Payのグローバル決済高は1兆687億円

戦略事業のLINE Pay出典:LINE
戦略事業のLINE Pay出典:LINE

300億円のキャンペーン費用は、キャッシュフローをダイレクトに刺激するわけではなく、ユーザー獲得コストとしてプロモーションマーケティング費用として計上しておきながら、実際に使用されるまでの時間は退蔵益(たいぞうえき)であり、『LINE Payボーナス』は発生から2年間で消滅する。決済と送付には使えるが出金はできないという性格を持っている。銀行口座とのパイプラインをLINEが獲得できれば、スマートフォンの中にLINEの銀行があるのと変わらない状況を生むだろう。つまり、旧態依然とした銀行の世代が、IT企業が銀行代わりとなる時代がそこまでやっってきているのだ。

2018年度連結決算 IFRS 出典:LINE
2018年度連結決算 IFRS 出典:LINE

https://scdn.line-apps.com/stf/linecorp/ja/ir/all/FY18_KessanTanshin.pdf

LINEは『国際会計基準(IFRS)』を採用している。2018年12月末の段階で、年間売上の2,071億円以上の潤沢な2,569億円もの『キャッシュフロー(現金残高)』を保有している。単純にこれを四半期(3ヶ月単位)ですべて運用したとしても、1期あたり642億円なので、たとえ『300億円』をばらまいたところで経営を危うくしたりすることはないだろう…。上場企業(株式公開企業)はこのように財務諸表が公開されているので誰もが調べることが可能だ。

LINE Pay取締役COOの長福久弘氏はBusiness insider紙のインタビューにこう答えている…。

「我々はアカウントとの連動が1番の強みです。今までは何らかのメディアに出稿をしないとユーザーを店舗に呼ぶことはできないかった。しかし、LINE Payでは決済自体がユーザーとつながる手段になる。公式アカウントとユーザ-がつながり、メッセージを配信できる。そのようなソリューションは、差別化というより我々にしかできないこと。LINEで支払えばLINEで通知が届くという当たり前のことも、結構他社は真似できないはず」LINE Pay取締役COOの長福久弘氏

https://www.businessinsider.jp/post-182621

LINEの公式アカウント(コア事業)と、LINE Pay(戦略事業)による、『集客』と『決済』は、これからのLINEの『データ事業』であることがよくわかる。

LINEの事業戦略 出典:LINE事業戦略
LINEの事業戦略 出典:LINE事業戦略

オンラインのコミュニケーションを、オフラインの店舗へと密接にAIを介在しながら結びつけることに2019年は注力するようだ。

LINE Pay事業戦略 出典:LINE
LINE Pay事業戦略 出典:LINE

『ユーザー』、『加盟店』、『プロダクト』のネットワーク、中でも LINE IDを基盤とした金融サービスへの第一歩がLINE Payとなる。

LINEの金融サービスのリリース予定 出典:LINE
LINEの金融サービスのリリース予定 出典:LINE

https://scdn.line-apps.com/stf/linecorp/ja/ir/all/Q4_earning_releases_JP.pdf

LINE の金融の戦略事業が、LINE Payを皮切りに、資産運用、保険、信用スコア、ローン、ブロックチェーン(暗号資産 旧 仮想通貨)と展開される。また同時に,世界市場が売上の半数あるLINEは、海外では積極的に銀行ビジネスを推進している。

一方、LINEのサービス群の多さを考えると、LINEの進化の速さに、ほとんどの人がキャッチアップできていないのも現状だ。かつてのGoogleの事業構想を見ているかのようだ。ここは、ぜひ、シンプルな『LINE Pay』の10日間300億円の原資で、社会がどう変化するのかに期待したいと思う。

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ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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