「アンチ喫煙者」時代の終焉~新タバコ対策シンポジウムから

新橋駅前の喫煙所:写真撮影筆者

 受動喫煙対策が本格化しつつある。喫煙率も下がり続けている反面、タバコ会社は新型の加熱式タバコを市場へ投入し続けている。新時代に向けてのタバコ対策をどうすべきか、というシンポジウムが都内で開かれた。そこでみえてきたのは、喫煙者とどう向き合うかという課題への模索だった。

専門家が指摘する課題とは

 一昨日(2019年8月7日)、東京・築地にある国立がん研究センターで公開講座「令和の新たばこ対策~たばこ新時代にどう対処するか」というシンポジウムが開かれた。新たな時代を迎えた日本でタバコ対策をどう進めていけばいいかという内容のシンポジウムで、会場には約200人が集まり、加熱式タバコや受動喫煙対策、メディアのタバコ報道について専門家の指摘に耳を傾けた。また、同じ内容のシンポジウムは、2019年8月23日に大阪(大阪国際がんセンター)でも開かれる

 演者は、新型タバコについて田淵貴大(大阪国際がんセンター)氏、改正健康増進法について片野田耕太(国立がん研究センター)氏、禁煙レストラン紹介サイト「ケムラン」と社会協働について伊藤ゆり(大阪医科大学)氏、がん患者と家族の禁煙問題について長谷川一男(NPO法人肺がん患者の会ワンステップ)氏、メディアにおけるタバコ対策報道について岩永直子(BuzzFeed Japan Medical)氏で総合司会は片山佳代子(神奈川県立がんセンター臨床研究所)氏が務めた。

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「令和の新たばこ対策」シンポジウムで会場の参加者との質疑応答に臨む演者。写真撮影筆者

 田淵氏は、加熱式タバコを含む新型タバコの問題点について述べ、有害性の低減というタバコ会社のPRで紙巻きタバコから切り替える喫煙者が増えてきている現状を説明した。

 しかし、これらのタバコ製品からは、グリセロール、プロピレングリコールという、人類がこれまで肺の深い部分まで吸い込んだことのない物質が大量に出ている危険性を強調。健康への害が否定できない状況では、加熱式タバコについては紙巻きタバコと同じ規制をするべきだと主張した。

 片野田氏は、受動喫煙の健康への害は日本人研究者の平山雄(旧・国立がんセンター)氏による疫学研究発表が嚆矢だったと述べ、その後、米国や日本で受動喫煙をめぐる訴訟が起きてきた歴史を解説した。

 また、改正健康増進法が成立する経緯を説明し、国会での議論とメディア報道との関係、メタボ健診マニュアル改訂など改正健康増進法が他の制度へ影響した事例について紹介。さらに、たばこ事業法が日本におけるタバコ問題の本丸であり、今後も加熱式タバコの出現によってタバコ対策は気を緩められないと警告した。

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たばこ事業法の存在を指摘し、財務省と厚生労働省、たばこ税収、日本たばこ産業といったタバコをめぐる社会構造について説明する片野田耕太氏。写真撮影筆者

喫煙者は加害者ではなくむしろ「被害者」

 伊藤氏は、禁煙をしている美味しい飲食店情報をシェアするサイト「ケムラン(Quemlin)」を管理人として立ち上げた経緯を述べ、現在、700店舗以上になった参加飲食店や世界禁煙デーに合わせたキャンペーン・イベント、特派員制で全国から飲食店情報を集めるシステムを紹介した。

 また、東京都文京区の提案公募型協働事業(Bチャレ)からの助成を受けた地域協働として文京区版のケムランを始めたきっかけやWeb「ケムラン×文京区」の開設について説明し、飲食店や商店街を含む区民やメディア、行政などとの関係、今後の展開や課題について述べた。

 長谷川氏は、肺がん患者の家族や同僚に意外に喫煙者が多く、就労している肺がん患者の31%が職場で、6%が家庭で受動喫煙にさらされているという実情を紹介した。

 これらの喫煙者は、自分の家族や同僚に肺がん患者がいるのにもかかわらず、どうしてもタバコを止めることができないことから、患者の会として禁煙外来を受診してもらうよう働きかける活動を行っているが、そのためにどうすればいいか模索する中で一つの方法に行き着いたと述べた。それはポジティブデビアンス型課題解決で、逸脱した好事例を抜き出して解決のヒントにする方法と説明し、喫煙者に対する「共感」が必要と訴えた。

 岩永氏は、ネットメディアでタバコ対策を含む医療系の情報発信をしてきた経験から、喫煙者は加害者として批判され、叩かれることにウンザリしていると指摘し、喫煙者はタバコ対策側を「上から目線」と感じていると紹介した。

 また、加熱式タバコに切り替えた喫煙者は自分が「自分の健康のためにも周囲に迷惑をかけない点でもいいことをしている」と思っているとし、タバコ会社の巧みな広告戦略にタバコ対策をする側は惨敗し続けてきたと述べた。読者や視聴者の感情に訴えなければ行動変容にはつながらないのではないかと提案し、喫煙者は実は加害者ではなく、社会経済的な背景によって生み出された被害者と理解を示すことが重要と指摘した。

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喫煙者はむしろ被害者であり、自己責任では片付けられない問題と指摘する岩永直子氏。写真撮影筆者

 日本のタバコ問題は、改正健康増進法の成立によって新たな段階に進んでいる。タバコ会社の側も、加熱式タバコの新製品をどんどん市場へ投入すると同時に広告宣伝費もマスメディアへ投下している。

 受動喫煙対策の目的は、タバコを吸わない人をタバコの煙から守ることだが、タバコを吸える場所を狭め、喫煙率を下げていくことにもある。タバコ対策の新たな段階では、どうしてもタバコを止められない喫煙者に理解を示し、社会経済的な事情に共感し、タバコ会社の戦略から守っていく方法が求められる。

 加熱式タバコは、確かに有害物質は紙巻きタバコよりも低減されている。だが、たとえ有害物質が低減されても、健康への害が低減されるわけではない。

 一方、岩永氏が言っていたように、良かれと思って加熱式タバコに切り替える喫煙者も多い。そうした喫煙者の気持ちを尊重し、否定する必要はないだろう。むしろ批難されるべきは、全く無害ではないタバコ製品をあたかも無害であるかのようにPRしているタバコ会社のほうだ。

 タバコ会社はこれまでも嘘をつき、政治経済の力で影響力を発揮して事実をねじ曲げてきた。虚偽と欺瞞、詐欺はタバコ会社の遺伝子ともいえ、いくら表面上はキレイごとを語っていても裏側では舌を出している。

 今回のシンポジウムで各演者が述べていたように、喫煙者はこうしたタバコ会社の戦略によって生み出された被害者だ。筆者はタバコ問題についての記事を書き始めた頃から喫煙者へのフォローアップの重要性を指摘してきたが、記事が本来なら伝えたい喫煙者へ届かないことを実感もしている。

 日本の場合は、タバコの製造販売に政府が荷担しているため、問題を複雑にし、根本的な解決が困難な状況にしている。WHOが発表した各国のタバコ対策についての最新報告では、タバコ規制が適切に行われていない国が多く、世界でまだ26億人がタバコの健康への害から守られていないと指摘している。これからは被害者である喫煙者を巻き込み、社会全体でタバコ会社と対峙し、厳しい姿勢で糾弾していく必要があるだろう。