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米国人が死亡し、人質危機も起きているハマス攻撃 背後で進むロシアの情報戦とは? 米研究所分析

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 パレスチナ自治区を実効支配するイスラム組織「ハマス」によるイスラエルへの攻撃が、多数の死者を出す大規模攻撃へと発展する中、イスラエルはハマスに対し“宣戦布告”した。

 双方の死者数が1,500人を超える中、バイデン大統領は9日「少なくとも11人の米国市民が死亡した。行方不明の米国市民もいる」と発表。また、「米国市民がハマスに人質に取られている可能性がある。人質危機についてイスラエルと協力して取り組んでいる」とも述べている。

 ハマスによる攻撃後、バイデン大統領は声明で「アメリカは、ガザ地区のハマスのテロリストによるイスラエルに対する恐ろしい攻撃を断固として非難する。テロは決して正当化されるものではない。イスラエルの安全保障に対する我が政権の支援は、堅く、揺るぎない」と強調、オースティン米国防長官も声明を出してイスラエルを支援すると述べ、地中海で展開中の空母「ジェラルド・フォード」やミサイル巡洋艦・駆逐艦からなる空母打撃群をイスラエル沖へと派遣することやステルス戦闘機などの部隊を増強する方針を明らかにしている。

 ウクライナからイスラエルへと軍事支援の舵を切り出したかに見えるアメリカ。この状況をほくそ笑みながら見ているのはプーチン大統領かもしれない。

ハマスの攻撃を情報戦に利用

 米シンクタンク「戦争研究所」は「ロシア政府は、米国と西側諸国のウクライナに対する支援と注目を削ぐ情報戦を進めるべく、すでにハマスの攻撃を利用しているが、今後もそれを利用し続けるだろう」との見方を示している。

 では、ロシアはどんな情報戦を展開しているのか?

 一つは「西側諸国はウクライナを支援するために中東で起きている紛争を無視している」と西側諸国がウクライナに注力しているゆえに中東で紛争が起きたと非難してウクライナへの支援を削ごうとする情報戦、もう一つは「国際社会は中東に注目するか、あるいは、中東が注目されることでウクライナには注目しなくなるだろう」と国際社会がウクライナに対する関心を失うと訴える情報戦だ。

 例えば、“プーチンの犬”とも言われているロシア安全保障会議副議長のデミトリー・メドべージェフ氏は「アメリカとその同盟国は、ロシアに介入したり、ウクライナに軍事支援をしたりするのではなく、パレスチナ - イスラエル問題の解決に取り組むべきだった」と主張しているという。

 また、ロシア外務省は、ロシア、アメリカ、ヨーロッパ連合、国連の4者連合による取り組みを西側諸国が妨げたことが(ハマスによる)暴力をエスカレートさせたと非難し、現在起きている紛争を暗に西側諸国の責任にしているという。

 さらに、著名なロシア人煽動者セルゲイ・マルダン氏は「世界はしばらくの間ウクライナのことを忘れて、中東での火消しに再び忙しくなるから、ロシアは中東での暴力のエスカレートから利益を得ることになるだろう」と述べているという。

 多くのロシア人軍事ブロガーもロシア政府の情報戦に加担しているようだ。彼らはハマスによるイスラエル攻撃に大きく焦点をあて、中には、西側諸国の注目がウクライナからイスラエルへとシフトしたと主張する者もいるという。

ロシアの情報戦の狙い

 同研究所によると、“西側諸国が、焦点をウクライナから中東へとシフトさせている”と主張するロシア政府の情報戦には以下の狙いがある。

 一つには、西側諸国によるウクライナへの軍事支援に楔を打つという狙い。そして、国際社会が中東の紛争に目を向けるため、ウクライナは国際的支援を失うと主張することで、ウクライナ社会を落胆させようという狙い。また、国際社会はウクライナの戦争を無視するだろうと訴えてロシア国民を安心させようという狙いだ。

 ハマスとイスラエルの間の紛争がどう進展するかにより、ロシアの情報戦も変わってくる可能性もあり、今後のロシアのナラティブから目が離せないところだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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