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国際指標が示す“日本は移民差別国” バイデン氏の「日本は外国人嫌い」発言が納得できるこれだけの理由

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
日本で働くフィリピンから来た外国人労働者。(写真:ロイター/アフロ)

 波紋を呼んだバイデン氏の「日本は外国人嫌い」発言。3月にも、同氏はスペイン語のラジオ局のインタビューで同様の発言をしていたことから、やはり、この発言は失言というよりも本心から出たものと思われる。アメリカでは、この発言に対し、重要な同盟国日本に対して愚かな発言だと批判する声や、日本は外国人を受け入れる方向へとシフトし始めているとしてバイデン氏の見方を疑問視する声もあがった。

 確かに、OECD(経済協力開発機構)の2015年の外国人移住統計では、日本は世界で4番目に外国人を受け入れている。数だけとってみれば「外国人嫌い」とは言えないかもしれない。しかし、問題は数ではなく、外国人が日本の国民と同じように受け入れられ、日本社会に統合されているのかどうかということ。外国人が移住した国の社会に統合されているのかどうかということだ。そんな移民の統合度の国際評価を行っているのが移民統合政策指標(MIPEX)である。移民統合政策指標は、労働市場、家族の呼び寄せ、教育、政治参加、永住、国籍取得、反差別、保健という8つの政策分野において、制度上、移民と自国民との待遇が平等であるかどうかを評価しており、ヨーロッパでは自国民との不平等な扱いを改善するための基準にもなっているという。

 この移民統合政策指標は、バイデン氏の「日本は外国人嫌い」発言があながち間違ってもいないことを浮き彫りにしている。

日本に対する評価は平均点以下

 56カ国が評価されている、2020年発表の移民統合政策指標を見てみると、56カ国の平均点は100点満点中49点だが、日本は平均点以下の47点で、56カ国中35位と“中の下”のランキングだ。

 トップ10は、上から、スウェーデン(86点)、フィンランド(85点)、ポルトガル(81点)、カナダ(80点)、ニュージーランド(77点)、アメリカ(73点)、ベルギー(69点)、ブラジル(64点)、アイスランド(64点)。移民統合政策指標は「これらの国々は統合に向けた包括的アプローチを採用し、移民と自国民に平等な権利や機会、安全を完全に保証し、国の政策は移民を同胞や潜在的な国民として見るよう国民に奨励している」としている。

 ちなみに、アジアの国々の中では韓国が最高得点の56点で20位。バイデン氏が日本以外に「外国人嫌い」と言及した中国は32点、ロシアは31点、インドは24点とやはり低得点だ。

移民を同胞ではなく下位者として見る

 移民統合政策指標は、54カ国の移民に対する社会統合へのアプローチを「包括的な統合」、「紙上の平等」、「一時的な統合」、「統合を伴わない移民」の4つに分類しているが、日本のアプローチは「統合を伴わない移民」に分類されている。「統合を伴わない移民」のアプローチをとっている国は、移民の目的地となることを政策上否定しており、移民はたとえその国に長期定住できたとしても、基本的権利と平等な機会を与えられないという。そして、日本に対しては、以下のような結論付けとレコメンデーションを行っている。

「日本の政策は、いまだに新規参入者に対する基本的権利と機会均等を拒否している。 外国人は日本に長期定住する方法をいくつか見つけることができる。 しかし、日本の政策は、彼らに平等な機会(例えば、医療や教育など)を保障するのに中途半端であり、同時にいくつかの基本的権利、特に差別から保護することを拒否している」

「日本は、特に移民に日本国民と同じ基本的権利を保障するために、3つの側面(基本的人権、平等な機会、安定した未来)すべてに対しいっそう投資する必要がある。 政府が移民をどのように扱うかは、移民と国民がどのようにうまく交流し、お互いについて考えるかに強く影響を与える。 日本の現在の政策は、移民を同胞としてではなく下位者として見るよう国民に奨励している」

反差別政策が弱い

 前記した8つの政策分野における日本の点を見ると、労働市場59点(不完全だが有利)、家族呼び寄せ62点(少し有利)、教育33点(少し不利)、保健65点(少し有利)、政治参加30点(少し不利)、永住63点(少し有利)、国籍47点(不完全だが有利)、反差別16点(不利)と、反差別政策の点で移民にとっては不利という評価をされており、差別禁止法が制定されていない点が指摘されている。政策上、移民が差別に直面しているわけである。

「日本に住む外国人は、家族の呼び寄せ、永住権、医療への比較的有利なアクセスは享受している。しかし、外国人とその子供たちは依然として、教育、政治参加、反差別の点で大きな障害に直面している。移民の生徒数が少ない他の国同様、移民の子供たちは日本の教育制度で(彼らに)的を絞った支援をほとんど受けていない。 さらに、民族、人種、宗教、国籍による差別の潜在的な被害者は、日本では司法にアクセスできる機会がほとんどない。 日本は、MIPEXの国々の中で、いまだに差別禁止法や関連機関を持たない国の一つだ。 日本は、他の“統合なき移民受け入れ”に分類されている諸国と並び、反差別政策が弱い下位3カ国に入っている。韓国やヨーロッパ、従来から移民の目的地となっている国の基準に大きく遅れをとっている」

図は8つの政策分野における日本の点を示している。反差別政策が16点と移民にとっては不利な状況であることがわかる。出典: mipex.eu.com
図は8つの政策分野における日本の点を示している。反差別政策が16点と移民にとっては不利な状況であることがわかる。出典: mipex.eu.com

 反差別政策の点が低い国々は、下からヨルダン4点、インド9点、インドネシア13点、サウジアラビア15点で、日本は16点で下から5番目に位置づけられている。しかし、移民統合政策指標は上述したように日本は「下位3カ国に入っている」と説明しており、その理由が判然としないところではあるが、日本の点が非常に低いことに変わりはない。バイデン氏が「日本は外国人嫌い」と発言したのは、この評価を見る限りでは納得できるところかもしれない。

他の先進国に大きな遅れをとる

 移民の統合に対する日本のアプローチが、他の先進国と比べて大きな遅れをとっている点も指摘されている。

「日本のアプローチは、同様に新規移民人口が少ない貧しい中欧諸国よりは若干進んでいるが、韓国を含む他の先進国には大きく遅れをとっている。 隣国の韓国と比較して、日本の外国人は労働市場、教育、政治参加、反差別における統合政策の弱さに直面している。 韓国を除けば、日本の政策はイスラエルと最も類似しているが、他のMIPEXのアジア諸国 (中国、インド、インドネシア) よりは強力だ」

 国際協力機構の2022年の報告書によると、日本が経済成長を維持するためには、2040年までに約674万人の外国人労働者が必要になると推定されている。日本が、移民統合政策指標が指摘している問題点に対処して、外国人労働者に選ばれる国になるのか注目される。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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