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「プーチンの犯罪はウクライナで止まることはない。先が思いやられる」米博士、“支援疲れ”に警鐘

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ウクライナ戦争が長引く中、米議会や米国民の間で広がりつつある「ウクライナ支援疲れ」。

 先日、米議会では「つなぎ予算」が成立し、政府閉鎖は回避されたものの、一部の共和党議員の反対で、それにはウクライナ支援予算が盛り込まれなかった。今後も、政府閉鎖の危機に直面する度に共和党側からウクライナ支援予算に反対する声が上がり、支援はカットされることが予想される。

 インフレや物価高などの国内問題を背景に、米国民の間でも、ウクライナ支援はもう十分にしたと支援の継続に難色を示す見方が広がっている。

 そんな中、米シンクタンク「米戦争研究所」の上級研究員で、米陸軍中将も務めた退役軍人のジェームズ・M・デュビク博士が、themessenger.comに「ウクライナ支援:米外交政策のリーダーシップについての議会の失敗」と題する意見文を掲載し、ウクライナ支援を強く呼びかけている。

 デュビク博士はまず、第2次世界大戦以降、ロシアのウクライナ侵攻まで長きにわたって続いてきた平和は「アメリカの政治家、外交官、経済学者、軍事指導者などが、ヒトラーの拡張主義的で戦争犯罪に満ちた侵略を打倒するために共闘した結果である」とし、多数の死者を生み出した2つの世界大戦の悲劇を2度と繰り返してはならないという結論を当時の指導者たちが導き出したことが平和に繋がったという見方を示している。

 そして同氏は「第2次世界大戦で戦い、ヨーロッパを再建した男女は、こんにち、アメリカの多くの指導者や市民の間で広まっているウクライナを支援しないという姿勢に愕然としているだろう」とアメリカで“ウクライナ支援疲れ”が起きている現状について呆れ、「ロシアのプーチン大統領の侵略行為は犯罪だ。そして、犯罪を成功させてしまうと、犯罪者はウクライナに対する犯罪で犯罪を止めにはしない」とプーチンの犯罪はウクライナ以外にも広がっていくと警鐘を鳴らし、「アメリカ、NATO、および同盟国は、プーチンの犯罪が容認されないようにウクライナを支援しなければならない」と訴えている。

 さらには、多くのアメリカの指導者には、以下の4つのタスクに対する躊躇があると指摘。

1. プーチンの軍を排除する戦いに対する支援

 ウクライナは支援が続く限り戦い続けるが、彼らの戦う決意は米国の決意にもかかっており、ウクライナへの支援の中断はウクライナの反攻能力を削ぐことになる。プーチンは強いられなければ戦いを止めず、ウクライナへの支援が弱まるのを待っている。ウクライナへの支援削減はプーチンを直接支援することになる。

2. ウクライナに勝利に必要なものを供給すること

 同盟国は、反転攻勢を勢いづけるのに必要なものを迅速に提供していない。プーチンはかろうじて防御的作戦を維持できているに過ぎず、NATOの能力やプーチンの国内的な弱体化などを考えると、核へのエスカレーションは起こりにくい。同盟国からの装備、供給、弾薬が迅速に行われれば、ウクライナの反転攻勢は早いペースで進行する。米国の継続的な決議は、プーチンに今冬もう一度休息を楽しんでいいというシグナルを送ることになる。

3. ウクライナの戦闘能力を維持するための資金提供

 同盟国は、短期的な支援アプローチと長期的な資金戦略を組み合わせるべきだ。人道支援を経済改革の助成金やウクライナの経済回復後に返済される低利融資と組み合わせるもので、このアプローチは財政的負担を広げるが、同盟国の投資に対して一部のリターンを提供する。包括的な復興プログラムを運営するために、同盟国は、全資金が賢明に汚職なく使用される自律的な組織を設立すべきだ。このような政策の実施は米国やNATOにとって開かれた戦略的国益となるが、議会の最近の決定は開かれた国益とは言えず、外交政策のリーダーシップの失敗だ。

4. 危険と困難を伴う戦後の過渡期に対する備え

 プーチンは戦争で失ったものを戦後の過渡期に取り戻そうと不和を煽り立て、ゼレンスキー政府の信用を失墜させようとする。難民の帰還、経済回復、再建を妨害しようとする。さらなる侵略に備えて、同じ地域にある他の国々を弱体化させようとする。プーチンのウクライナとの戦争は戦闘が終わった時にストップすることはなく、同盟国は今からこれに備えた計画をしなければならない。しかし、議会の最近の動きには、世界がアメリカに期待している戦略的リーダーシップが示されていない。ウクライナやアメリカの先が思いやられる。

 最後に、デュビク博士は、“第2次世界大戦後、アメリカとヨーロッパの政治、外交、経済、軍事を指導してきた人々は困難な課題に対処したが、現在の指導者らは彼らが成し遂げてきたことを壊そうとしているように見える”と現状を危ぶみ、当時の指導者たちが現在の指導者たちにするであろう以下のアドバイスで、意見文を結んでいる。

「この戦争が拡大する前に戦争を終結させなさい。今、終結させるのは難しいと考えるのなら、事態はもっと悪化する可能性がある。世界はアメリカのリーダーシップを必要としている。だから、それを発揮しなさい」

 アメリカはリーダーシップを発揮してウクライナに支援を続け、今の戦争が世界大戦へと拡大する前に終結させてほしいと力説するデュビク博士。博士の訴えは、支援に後ろ向きになりつつある米議会や米国民の耳に届くのだろうか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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