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逆転勝利できないトランプ氏が悪あがきを続けるワケ 共和党議員にも見限られる! 米大統領選 

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ陣営は州議会が選挙人を指名するよう激戦州の共和党議員に圧力をかけている。(写真:ロイター/アフロ)

 不正選挙が行われたと訴え、多くの州で訴訟を起こしたものの、負け続けているトランプ陣営。ジョージア州で行われた、票の再集計の結果も出たが、バイデン氏の勝利が再確認された結果となった。

選挙結果の認定遅延作戦

 そんな中、トランプ陣営は新たな動きに乗り出している。選挙結果を覆そうと力を入れていた“郵便投票を無効化する作戦”をあきらめ、ミシガン州やペンシルベニア州など共和党議員が州議会を支配しているもののバイデン氏に負けた州の選挙結果の認定をできるだけ遅延させる作戦に出始めたのだ。

 有権者による一般投票により過半数の選挙人を獲得したバイデン氏だが、同氏は、各州が選挙結果を認定し、12月14日に行われる選挙人投票を経て次期大統領として認定されるまで、正式に大統領に選ばれたことにはならない。

 米大統領選では、各州で開票作業が行われた後、各州が選挙結果を認定して初めてその州でどちらの候補者が勝利したかが認定される。州による認定の締め切りは12月8日なので、今後、数週間のうちに勝敗が認定されることになるが、認定後はそれを覆すことが困難になることから、トランプ陣営は激戦州での認定を遅延させようとしているのだ。

激戦州の共和党議員に圧力

 “認定遅延化作戦”の背後で暗躍しているのは、トランプ氏の顧問弁護士のジュリアーニ氏だと言われている。同氏はできるだけ激戦州での認定を遅らせるために、一般投票でバイデン氏に負けた激戦州の州議会の共和党議員に圧力をかけるという動きに出ているようだ。

 アメリカの連邦法では、一般投票による大統領の選択に失敗した場合、その州の州議会が選挙人を選ぶことができるシステムになっている。不正選挙が行われたと考えているトランプ陣営は一般投票による大統領の選択は失敗したとみなしている。そのため、州議会が選挙人を任命するというシステムを採用せよと訴えているわけだ。トランプ陣営は、一般投票によって有権者に選挙人を選ばせる民主的なやり方を否定し、州議会に選挙人を任命させるという民意に反する戦略に出たと言える。

 この戦略を動かしているジュリアーニ氏は、トランプ氏が敗北した激戦州の州議会の共和党議員に、トランプ氏に投票するような選挙人を任命するよう圧力をかけているという。しかし、その結果は芳しくない。

 例えば、トランプ陣営は11月18日、ペンシルベニア州の連邦裁判所に対し、有権者による一般投票の結果を認めず、共和党が支配している州議会が同州の選挙人を任命する方式を提案したが、この動きについて、同州の共和党議員は否定的だ。

 また、11月20日、トランプ陣営はミシガン州の共和党議員たちをホワイトハウスに招集し、同様の方式にするよう圧力をかけたが、共和党議員はそれを拒否したようだ。

 トランプ氏は共和党が強い州議会の共和党議員たちに、見限られてしまったのである。

 もっとも、共和党議員としては悩ましい選択だったのではないか。70%以上の共和党支持者が選挙に不正があったと信じているからだ。そんな共和党支持者の支持を得て当選していた共和党議員としては、彼らの民意を反映するためにトランプ陣営の要請に応えたいところだろう。しかしその一方で、一般投票による民主的な決定をないがしろにすれば、市民から大反発を食らうのは必至だ。共和党議員がトランプ陣営の圧力に屈しなかったところを見ると、結局のところ、彼らは民主的なプロセスをより重視したと言える。

結局、逆転勝利できないトランプ氏

 ちなみに、共和党議員が州議会を支配しているもののバイデン氏に負けた激戦州は、トランプ陣営が圧力をかけたペンシルベニア州とミシガン州以外に、ウィスコンシン州、アリゾナ州、ジョージア州がある。トランプ氏が逆転勝利するには、これらの5州のうち少なくとも3州で選挙人票がトランプ氏に流れなければならない。

 しかし、これには障壁がたくさんある。

 まず、これらの5州は、州法で、一般投票での勝者が選挙人票を獲得することが取り決められている。

 また、これまでのところ、これらの5州の共和党議員たちは州議会が選挙に介入するというトランプ陣営の提案に否定的だ。加えて、最終的な決定を下すのは州知事なので、その段階で否定される可能性が高い。

 5州のうち、共和党が州議会を支配しており、かつ、知事も共和党を支持している州はアリゾナ州とジョージア州だけだが、両州の州議会も選挙介入に乗り気でない。また、たとえ、両州の州議会がトランプ陣営の圧力に屈し、選挙人の数がトランプ氏に加わったところで、270票には11票足りず、結局、トランプ氏は逆転勝利できないのである。

2024年を見据えた最後の悪あがき

 それでも、トランプ陣営が州議会に選挙人を任命させるという“最後の悪あがき”とも言える戦略に出たのはなぜか? それは、トランプ氏がすでに2024年の大統領選を見据えているからだろう。

 実際、トランプ氏のアドバイザーはトランプ氏に「選挙結果に抵抗しても、望みは持てないと話した」と言うが、それでもトランプ氏は闘う姿勢を崩していない。また、トランプ氏のアドバイザーは米紙ワシントン・ポストに対しこう話している。

「トランプ氏は2024年の大統領選のベースとなる人々のことを考えているのです。国の半数の人々が彼のために闘う兵士であり、彼も闘い続けようと考えているのです」

 つまり、トランプ氏は抵抗することでトランプ支持者を奮い立たせ、2024年の大統領選で勝利しようと考えているのだろう。

 もしそうだとすれば、トランプ氏は今回の大統領選での逆転勝利をすでに断念しているのかもしれない。それでも、敢えて、最後の最後まで抵抗してみせることで、2024年の大統領選の有権者に向けて、粘り強さを顕示しているのだ。

 トランプ氏にとって、2024年の大統領選の選挙運動はすでに始動しているのである。

(参考記事)

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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