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ジョージって誰のこと? 200万回近く再生された“バイデン認知症疑惑“動画の真相 米大統領選

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
言い間違えたとしても、バイデン氏の方がトランプ氏よりいいという声もある。(写真:ロイター/アフロ)

 今、ツイッターで、あるバイデン氏の動画が200万回近く再生され、波紋を呼んでいる。その動画とは、バイデン氏が10月25日、インタビューを受けた際の映像だ。

 27秒間のその動画の中で、バイデン氏は「誰に投票するか決めていない人や投票しないと考えている人は、なぜあなたに投票すべきだと思いますか?」との質問にこう答えた。

「国家の品格が実際投票にはかけられている。我々はどんな国に身を置くことになるのか。今後さらに4年間、ジョージ、ええ、ジョージ、ええ、彼が、トランプ氏が大統領に選ばれれば、我々は全然異なる世界に身を置くことになる」

 ジョージ、ジョージと繰り返したバイデン氏。ジョージって誰のこと? 

“認知症疑惑”再燃

 その答えは、動画につけられた、以下の説明の中にあるようだ。

「ジョー・バイデン氏はトランプ氏をジョージ・W・ブッシュ氏と混同している。“なぜなら、私が選挙で戦っているのは....ジョージ、ええ、ジョージ”」

 つまり、バイデン氏は元大統領のジョージ・W・ブッシュ氏と現在選挙で戦っていると思っていると、このツイートは指摘しているわけである。

 劣勢のトランプ陣営はすぐ様これに飛びつき、共和党全国委員会迅速対応ディレクターのスティーブ・ゲスト氏がこの動画をリツイートした。

 “バイデン氏は認知症”と批判してきたトランプ氏も、

「ジョー・バイデンが、私のことをジョージと呼んだ。私の名を思い出せなかった。インタビューを切り抜けるためにアンカーから助けをもらった。フェイクニュース連合はそれを隠蔽するのに必死になっている」

とツイート、このツイートは米国時間10月27日時点で5.7万回以上もリツイートされ、27.8万件以上のいいねを得ている。

 ツイッターでは早速“バイデン氏認知症疑惑”が再燃している。

「バイデン氏は認知症の初期段階のようだ。彼は選挙でブッシュ元大統領と戦っていると思っている」

ジョージとは本当は誰のことか?

 しかし、この動画には裏があることも指摘されている。

 この動画はインタビューを全て見せているわけではなく、一部を切り取ったものだからだ。そして、拡散された問題映像の直前の映像では、バイデン氏に質問を投げかけるインタビュワーがスクリーンに登場していた。そのインタビュワーの名前が、ジョージ・ロペス氏というコメディアンだったのである。

 つまり、バイデン氏は今ジョージ・W・ブッシュ氏と戦っていると思っていたわけではなく、この時、ジョージというコメディアンのインタビュワーに向かって話していたというのだ。

 そのため、AP通信はこうアセスメントしている。

「バイデン氏はメンタル的に大統領選に出馬するには適切でないと示唆する動画がSNSでシェアされたが、その動画は、バイデン氏がジョージ・ロペス氏にインタビューされているという文脈が欠如していた」

 米紙ワシントン・ポストも、同様の見解を示す記事を掲載した。

 シェアされた動画はジョージ・ロペス氏などのモデレーターがスクリーンから消えた後から始まっており、バイデン氏がジョージ・ロペス氏に向かって話しているという文脈を隠そうと操作されていると、同紙は指摘している。

 インタビューの場に居合わせた政治コメンテイターのアナ・ナヴァロ氏自身、こう証言している。

「ひどい嘘だわ。しかし、彼ら(トランプ陣営)は嘘をやめないわ。これは彼らが、作り話を拡散するためにやっている汚い嘘のようなものよ。バイデン氏はジョージ・ロペス氏の質問に答えていた。私はその場にいたからわかっているの」

 バイデン陣営のスポークスマン、アンドリュー・ベイツ氏も、

「彼はインタビュワーのジョージ・ロペス氏に向かって話していた。(バイデン氏が)よく行うことだ」

と説明した。

バイデン氏の妻が助け舟を?

 しかし、トランプ陣営は、あくまでバイデン氏は混乱していたと主張している。トランプ陣営のスポークスマンはこう話している。

「バイデン氏はトランプ氏をジョージ・W・ブッシュ氏と間違えたか、あるいは、ジョージ・ロペス大統領の次の4年間で人々は危険にさらされると言っているのだ。メディアは、バイデン氏がそのいずれかを意味したということを隠蔽することはできない」

 前述のゲスト氏も反撃した。

「バイデン氏の隣にいる妻が、彼に現在の大統領名を思い出させようと“トランプ”と口にしている。どちらの説明の方が納得できる? バイデン氏がジョージ・ロペス氏が次の4年間も大統領になることを懸念していると言っているという説明か? それとも、バイデン氏がミット・ロムニー氏の名前を思い出せなかったり、現在の大統領選ではなく昔の大統領選に出ていると思ったりしたという説明か? 明らかに後者の方だ」

 これに対し、米紙ワシントン・ポストは、

「逞しい想像力がない限り、バイデン氏が話している時に、妻のジル・バイデン氏が口を開けていた証拠はないということを記しておく。彼女はビデオの中で唇を結んでいる」

と指摘している。

混乱していたとしてもバイデン氏の方がいい

 ツイッターでは様々な見方があがっている。

 まず、バイデン氏は確かに混乱していた、メディアが話を捻じ曲げているという声。

「話をスピンさせてはならない。バイデン氏は自分が誰と戦っているかを話していて、ジョージと戦っていると言っている。なぜ話をスピンさせるんだ」

「ロペス氏のことを指しているならheとはいわず、youと言っただろう。heといったのは、彼がトランプ氏の名前を思い出せなかったからだ」

 バイデン氏に同情的な声もある。

「“これから4年間のジョージ”というのは意味をなさない。彼が言い間違えたのだとしても、誰も、人の名前を言い間違えることはあるものだ。彼はすぐに訂正した。トランプ氏も言い間違えるじゃないか。言い間違えは問題とは言えず、ニュースとも言えない」

 確かに、トランプ氏もこれまで、アップルCEOのティム・クックのことをティム・アップルと言ったり、FOXニュースのキャスター、クリス・ウォレスのことをマイク・ウォレスと言ったり、タイランドのことをサイランドと言い間違えたりした。

 バイデン氏にはよく見られる混乱だが、それでも同氏の方がいいとする声もある。

「バイデン氏にすでに投票したが、彼は明らかに混乱していた。彼にはよくあることだ。しかしだからといって、彼に大統領の資格がないということにはならない。明らかに彼の方がいい」

 トランプ陣営が流した誤情報だと非難する声もある。

「バイデン氏はコメディアンのジョージに向かって話していた。このツイートはトランプ陣営が、フォロワーをミスリードするために流した詐欺のような誤情報だ。情けなく、悲しいことだ」

「トランプ氏とその支援者たちはどうしようもない。彼らは嘘をつく、嘘をつく。嘘をつく。どんなに小さなことでも、また、事実を示している動画があってもね」

 ちなみにバイデン氏は、“認知症疑惑”を呼んだ発言が含まれている以下のインタビュー映像を初めから終わりまでツイッターで公開している。

精神力はバイデン氏が上

 ところで、有権者は両大統領候補の精神力をどう評価しているのだろう?

 オピニウムとガーディアンUSが行なった世論調査では、「トランプ氏は精神的スタミナと忍耐力がある」という事項に賛成した有権者が44%、反対した有権者が47%だったのに対し、「バイデン氏は精神的スタミナと忍耐力がある」という事項に賛成した有権者は48%、反対した有権者は38%だった。

 トランプ派にいくら“認知症”と揶揄されようが、何度言い間違えようが、バイデン氏は精神力の点でトランプ氏より上と評価されているようだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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