Yahoo!ニュース

トランプ氏が不当な勝利宣言 「トランプに投票」は1人もいなかった ドジャース球場の投票所ルポ

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ドジャース球場のトップデッキに設置された投票所。筆者撮影

 11月3日。トランプ氏とバイデン氏の決戦の日、ロサンゼルス史上初めて大統領選の投票所となったドジャース球場を訪ねた。午後の投票所はすいていた。ロサンゼルスでは、多くの有権者がすでに郵便投票か期日前投票を済ませたからだ。

投票所となったドジャース球場のトップデッキ。筆者撮影
投票所となったドジャース球場のトップデッキ。筆者撮影

新型コロナ対策万全の投票所

 投票所入口では受付の女性が、まず、設置されているディスペンサーで手を消毒するよう促していた。

 それにしても、なぜ、ドジャース球場が今回投票所になったのか。きくと、受付の女性がこう説明してくれた。

「ドジャース球場が投票所になったのは、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるためよ。図書館や教会、学校などを投票所にしているところが多いけど、密閉空間だから感染する可能性があるでしょ。でも、風通しがいい球場のトップデッキなら、有権者は安心して投票ができるわ。わざわざ遠くから球場まで投票にくる有権者もいるのよ」

 受付には、有権者が自由に手に取れるよう、フェイスマスクやゴム手袋も置かれていた。

 有権者は各ブースに設置されている投票システムで投票するが、有権者が投票する度に、係員が投票システムを消毒液で丁寧に拭いていた。

 投票にきた有権者の検温までは行っていなかったが、会場では、咳、息切れ、呼吸困難、発熱、寒気などを感じている体調が悪い有権者は、会場に入らないよう12ヶ国語で呼びかける張り紙が所々に貼られていた。しかし、体調が悪いからといって投票ができないわけではない。体調が悪い有権者は駐車している自分の車の中で投票をしてもらうという。

投票入口では、まず、手の消毒を求められる。筆者撮影
投票入口では、まず、手の消毒を求められる。筆者撮影
ドジャース球場での投票風景。筆者撮影
ドジャース球場での投票風景。筆者撮影
体調が悪い人は投票所から出るよう、12ヶ国語で警告している。筆者撮影
体調が悪い人は投票所から出るよう、12ヶ国語で警告している。筆者撮影

トランプを追い出したいから

 新型コロナ対策万全の投票所で、20人以上の有権者に話をきいた。うち「トランプ氏に投票した」と答えた人は1人もいなかった。大多数はバイデン氏に投票、カニエ・ウェスト氏に投票したという若い男性も2人いた。この投票状況は、民主党支持者が圧倒的多数のロサンゼルス群をよく反映している。

 多くの有権者がよく口にしたのは、

「トランプを追い出さなければならない」

という言葉だ。

 以下は有権者の声。

「バイデンに入れた最大の理由は、トランプを追い出すためです。チェンジが必要です」

(ステファニーさん)

「誰に投票したかは言えませんが、トランプに投票しなかったということは言えます。彼を追い出したいから」(匿名)

「分断ではなく結束するアメリカになってほしい。バイデンを完全に支持しているわけではないが、トランプを追い出したいからバイデンに投票した」(ロバートさん)

「バイデンを支持しているわけではない。トランプの主張を完全に否定してるわけでもない。実際、トランプ政権下、経済は良くなった。ただ、バイデンとトランプのどちらがましかと考えた時、バイデンの方がましだと思ったので彼に投票した」(ジョンさん)

「4年前はトランプにいれたんだが、彼がソシオパスだとわかったので、今回はバイデンにいれたよ」

(アンドリューさん)

「トランプの人間性の点で問題があるわ。彼は人種差別主義者よ。追い出さなくてはならないわ」

(セリーヌさん)

「国境で、不法移民の親子を離れ離れにしている状況は酷いことです。トランプには思いやりや共感心がありません」(ローラさん)

「世界のリーダーであるべきアメリカは、今、トランプのために世界の笑いものになっている。バイデンに、この状況を変えてもらいたい」(リカルドさん)

 つまり、総じて、“バイデン氏が素晴らしいからバイデン氏に投票した”というより、“あまりにもひどいトランプ氏をとにかく政府から追放したいからバイデン氏に投票した”というノリの有権者が多かったのだ。

トランプを追い出すためにバイデンに投票したというステファニーさん(右) 筆者撮影
トランプを追い出すためにバイデンに投票したというステファニーさん(右) 筆者撮影

完全なチェンジが必要

 有権者からは、バイデン氏では完全なチェンジができないという声もあがった。

「いつもは民主党候補にいれているのですが、今回はリバタリアンのジョー・ジョーゲンセンにいれました。バイデンに入れなかったのは、彼が大統領になっても何も変わらないと思うからです。トランプがひどいことはわかっているので、まず彼に入れるのは論外。バイデンは人種差別を和らげることはできるでしょうが、完全なチェンジはできないと思います」(リアナさん)

 また、バイデン氏もトランプ氏も大きなチェンジはできないという理由で、カニエ・ウェスト氏に投票したという若者もいた。

「カニエ・ウェストがいい。トランプやバイデンでは完全なチェンジはできない。バイデンは嫌いだし、トランプはバイデン以上にひどい」(ベンさん)

ヴィトン柄のゴーグルを身につけて投票に来たリアナさんは、リバタリアンの大統領候補に投票した。筆者撮影
ヴィトン柄のゴーグルを身につけて投票に来たリアナさんは、リバタリアンの大統領候補に投票した。筆者撮影
投票を終えた人々には、無料フードが提供されていた。筆者撮影
投票を終えた人々には、無料フードが提供されていた。筆者撮影

トランプ、早くも勝利宣言か

 バイデン支持者が圧倒的に多いドジャース球場の有権者に話をきいて感じたこと。それは、彼らが積極的にバイデン氏に投票したというより、ひどすぎるトランプ氏を追い出したいという理由でバイデン氏に投票したというネガティブな空気感だ。彼らからはバイデン氏に対する熱狂が感じられなかったのである。

 

 一方、筆者が先週末訪ねた、トランプ支持者が大多数の“トランプランド”、ヨーバ・リンダ市の有権者はトランプ氏に対する強い熱狂を見せていた。“トランプ愛”に満ちていた。

 この違いは、投票結果にどんな影響を与えるのだろうか? 

 開票は今も進んでいるにもかかわらず、トランプ氏は、11月4日午前2時、ホワイトハウスでこう発言した。

「この選挙に勝つ準備を進めている。正直言って、この選挙に勝ったのだ」

 この発言について、米メディアはこう報じている。

「トランプは早すぎる不当な勝利宣言をした」

 開票は混迷を極めそうだ。

(大統領選関連の記事)

意外にも「たくさんの黒人がトランプ氏に投票する」その理由とは? 米大統領選

「バイデンに投票」はたった2人だけだった! “トランプランド”の投票所で直撃取材 米大統領選 

日本にも「隠れトランプ」がたくさんいると思うワケ 実はあなたも? 米大統領選

ジョージって誰のこと? 200万回近く再生された“バイデン認知症疑惑“動画の真相 米大統領選

“中国事業に関与”証言も出たバイデン氏は“人格”で勝てるのか “経済”ではトランプ氏圧勝 最終討論会

「トランプ氏は終わらない」元側近バノン氏が暗躍 “バイデン氏メール・スキャンダル”の信憑性

トランプ氏がついた「致命的に危険な嘘」 共和・民主両党失墜のリスクも 対話集会

トランプ氏、バイデン氏を老人ホームの入居者に仕立てたパロディー画像で侮辱 バイデン氏の勝率91%

傲慢?それとも母親みたい? 注目を集めたのはカマラ・ハリス氏の表情だった 米副大統領候補討論会

トランプ氏、「完全に危機から脱したわけではない」のに退院 感染の口止めもしていた!

「トランプ氏はプロの嘘つき。感染は同情を得るためのフェイク」マイケル・ムーア監督が“陰謀論”で警告

“米大統領選のノストラダムス”の大予言 大統領選の勝者は? ロシア、中国、イランが選挙介入か

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事