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トランプ氏、バイデン氏を老人ホームの入居者に仕立てたパロディー画像で侮辱 バイデン氏の勝率91%

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
選挙集会を再開したトランプ氏。会場には、相変わらずマスクなしの支持者が多い。(写真:ロイター/アフロ)

 11月3日の大統領選挙の投票日まで3週間を切った。

 新型コロナウイルス検査で陰性になったトランプ氏は各地で精力的に選挙集会を開いている。

 ツイッターでは熾烈なネガティブ・キャンペーンも始めた。「バイデン氏は認知症」と繰り返し揶揄してきたトランプ氏だが、ついには、バイデン氏が老人ホームの入居者であるかのように加工したパロディー画像まで投稿して侮辱したのだ。

 老人ホームの入居者と思しき人々の中にバイデン氏の頭部画像を入れ、画像には、“Biden for President(バイデン氏を大統領に)”のPにX印をつけた“Biden for Resident”という文字が添えられている。Residentとはこの場合、老人ホームの入居者という意味だろう。つまり、“バイデン氏を(老人ホームの)入居者に”と言って嘲っているのだ。こんなひどい画像を掲載してまでバイデン氏を批判するとは、トランプ氏はかなり追い詰められているに違いない。

 もっとも、トランプ氏が焦っているのも無理からぬことだ。

 今、様々な世論調査機関から、トランプ氏とバイデン氏のどちらが勝つか確率が発表されているが、そこからは、バイデン氏圧勝の可能性が浮かび上がっているからだ。

バイデン氏の勝率91%

 例えば、英誌「エコノミスト」は、10月15日時点で、バイデン氏が選挙人団による投票で勝つ確率は91%と推定する一方、トランプ氏が勝つ確率は9%と推定している。同誌は、選挙人による投票では、トランプ氏は117〜311得票し、バイデン氏は227〜421得票するとみている。

英誌「エコノミスト」はバイデン氏の勝率は91%と推定している。出典:projects.economist.com
英誌「エコノミスト」はバイデン氏の勝率は91%と推定している。出典:projects.economist.com

 ちなみに、選挙人団の選挙人とは実際に大統領を選ぶ人のこと。アメリカでは、有権者が直接大統領を選ぶのではなく、選挙人が大統領を選ぶシステムとなっている。選挙人の数は、各州の人口によって異なり、人口が多い州では割り当てられる選挙人の数も多い。筆者が住むカリフォルニア州の場合、選挙人の数は55人である。

 大統領選では、まず各州の有権者が大統領候補者に投票を行う。それにより、より多くの票を獲得した候補者がその州に割り当てられた選挙人を全員勝ち取る。例えば、カリフォルニア州でバイデン-ハリスコンビがトランプ-ペンスコンビより得票すれば、バイデン ーハリスコンビは同州に割り当てられている55人の選挙人をすべて勝ち取ることになる。

 全米で538人の選挙人がいるが、うち、過半数の270人の選挙人を獲得した候補者が大統領に選ばれるというしくみだ。

 2016年の大統領選では、トランプ氏がクリントン氏より多くの選挙人票を獲得したため大統領に選ばれたが、一般投票ではクリントン氏の得票が200万以上も上回っていた。

バイデン氏はクリントン氏より健闘

 投票日を3週間後に控えた2016年時と投票日を3週間後に控えた2020年の今の状況を比較すると、バイデン氏はクリントン氏よりも健闘していると「エコノミスト」は指摘している。2016年の投票日の3週間前、クリントン氏はトランプ氏を6.3%リードしていたのに対し、3週間前の今、バイデン氏はトランプ氏を10.4%リードしているからだ。

 もっとも、2016年時、クリントン氏のリードは投票日までに3.9%まで低下、結果的に選挙人団による投票でトランプ氏に敗北した。バイデン氏がこのままリードを保つことができるのか注目される。

 また、米統計分析サイトFiveThirtyEightも、10月13日時点では、バイデン氏が346の選挙人票を獲得し、勝つ確率は87%と予測。一般投票でも、トランプ氏の45.3%に対し、バイデン氏が53.5%の票を得ると予測している。

浮動票はバイデン氏へ

 今回の大統領選では、浮動票がどちらの候補者に流れるか注目されているが、オピニウムとガーディアンUSが18歳以上の2,003人の成人を対象に、10月8日〜12日に行った世論調査では、誰に投票するか決定していない浮動票を有する有権者がバイデン氏寄りになっていることがわかった。調査の結果、投票に行くと思われる有権者の57%がバイデン氏に、40%がトランプ氏に投票すると回答、バイデン氏が17ポイントもリードしている。

 米最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ氏の死去、第1回大統領候補討論会でのトランプ氏の失態、トランプ氏の新型コロナ感染、アメリカでの新型コロナによる死者が21万人超となった状況が、トランプ氏にネガティブな影響を与えているのである。

 そのため、9月初旬から、浮動票を有する有権者が民主党支持に傾き、バイデン氏は9月以降、彼らの間で5ポイントを獲得した。また、既存のバイデン氏支持者で投票に行くと思われる人々の割合も、9月の75%から今月は82%に増加した。

好感度も高いバイデン氏

 また、この世論調査では、好感度の点でも、バイデン氏は4年前のクリントン氏を上回っていると評価されている。アメリカでは有権者が誰に投票するか決める場合、「候補者が一緒にビールを飲みたいと思える人物か」という候補者の好感度の高低が1つのパラメーターになっている。その点で、クリントン氏は、有権者が一緒にビールを飲みたいと思える候補者ではなく、好感度が低かった。一方、バイデン氏は好感度があると答えた人が58%とトランプ氏の32%より多かった。

 トランプ氏の新型コロナ対応と人柄も投票に大きな影響を与えている。2016年時にトランプ氏に投票した人の62%が、同氏の新型コロナ対応を理由に今年は同氏に投票しないと回答した。さらに、2016年時にトランプ氏に投票した人の47%が、同氏の性格と態度を理由に今年は同氏に投票しないと回答している。

郵便投票でバイデン氏逆転か

 今回の選挙で実施される郵便投票が、勝敗に与える影響も注目されている。

 投票に関する世論調査では、投票所で投票する有権者の場合、55%がトランプ氏に、42%がバイデン氏に投票する意向であるのに対し、郵便投票する有権者の場合、75%がバイデン氏に、22%がトランプ氏に投票する意向だと答えた。

 そのため、投票締切り直後はトランプ氏の方が得票する可能性が予測されているが、その後、郵便投票が加わることでバイデン氏が逆転する可能性があると指摘されている。有権者もその動きを予測しており、投票日に勝者が判明すると思っている有権者は30%しかいない。

 投票日までの、新型コロナの感染再拡大も選挙に大きな影響を与えそうだ。選挙集会で、新型コロナを克服したことをアピールしているトランプ氏だが、秋を迎え、激戦地となる中西部を含む多くの州で感染者数が増加している状況は、新型コロナを軽視しているトランプ氏にとって向かい風になることは必至だ。

 そんな中、トランプ氏がバイデン氏との支持率をどこまで縮めることができるのか、はたまた、さらに引き離されるのか今後の動向から目が離せない。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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