食品の閉店セール効果とは「いま次世代と語りたい未来のこと 持続可能な消費と生産」フォーラムに参加して

2018年1月21日、JR東京駅すぐ、丸ビルの中にある「明治屋」が閉店する。時々利用していた店なので、とても残念だ。先日通りがかりに知った。買おうと思っていなかった食品まで、つい購入してしまった。この「閉店セール」で購入したくなる効果のことを、意外な場所で耳にした。

2018年1月20日、「第2回イオン未来の地球フォーラム」が東京大学安田講堂で開催された。テーマは、食品ロスに大きく関連する「いま次世代と語りたい未来のこと 持続可能な消費と生産」である。

「第2回イオン未来の地球フォーラム いま次世代と語りたい未来のこと 持続可能な消費と生産」が開催された東京大学 安田講堂(2018年1月20日、筆者撮影)
「第2回イオン未来の地球フォーラム いま次世代と語りたい未来のこと 持続可能な消費と生産」が開催された東京大学 安田講堂(2018年1月20日、筆者撮影)

筆者は、2016年10月にイオン株式会社より依頼を受け、イオングループ15社のトップおよび次世代経営陣65名を対象に「食品事業者における食品ロス削減20のアプローチ」と題して研修を行なった。また、2015年3月、社会人として通った大学院の2校目にあたる、東京大学 大学院農学生命科学研究科の修士課程を修了した。以降、2015年4月から現在まで国際情報農学研究室に毎月通い、食品ロスに関する収集データを元に、英語論文を執筆している。また、民間企業とNPOでの広報責任者の経験を元に、東京大学農学部・農学生命科学研究科の広報室会議に、オブザーバーとして毎月参加している。通い始めてもうすぐ3年になる。

会場となった東京大学本郷キャンパス(2018年1月20日、筆者撮影)
会場となった東京大学本郷キャンパス(2018年1月20日、筆者撮影)

今回のフォーラムの基調講演の演者3名のうち、1名は、社会人大学院在学中に在籍していた農学国際専攻の、八木信行教授だ(国際水産開発学研究室)。八木先生の講義は在学中に受けたことがある。フォーラムのテーマは、私が取り組んでいる「食品ロス」問題に深く関連しており、イベントのお知らせを見つけて、すぐに申し込んだ。会場で八木先生にご挨拶したところ、覚えていてくださり、嬉しく思った。

会場入り口(2018年1月20日、筆者撮影)
会場入り口(2018年1月20日、筆者撮影)

プログラムは13時に開始した。司会進行は、お会いしたこともある、フリーアナウンサーの小谷あゆみさん。心地よい声に聞き惚れてしまう。会場は、昨年の第1回よりも収容人数が大きく、1,000名規模だそうだ。

主催者挨拶として、公益財団法人イオン環境財団理事長でイオン株式会社名誉会長の相談役の岡田卓也氏と、東京大学 国際高等研究所 サステナビリティ学連携機構長・特任教授で公益財団法人 地球環境戦略研究機関 理事長のお二人が登壇された。

慶應義塾大学の細田衛士先生はSDGs:持続可能な開発目標に触れ、貧困や食品ロスなどを解決する必要性に触れた(2018年1月20日、筆者撮影)
慶應義塾大学の細田衛士先生はSDGs:持続可能な開発目標に触れ、貧困や食品ロスなどを解決する必要性に触れた(2018年1月20日、筆者撮影)

基調講演1 慶應義塾大学経済学部教授 細田衛士先生「持続可能な消費と生産を考える」

基調講演の一番目は、慶應義塾大学経済学部教授の細田衛士先生。タイトルは「持続可能な消費と生産を考える」。平成世代が「モノ」より「共感(いいね!)」に価値を見出すこと、内閣府の調査でも、モノと心の豊かさのどちらを求めるか、で、モノ4:心6という結果が出ていることを紹介した。ビジネススタイルも変化しており、モノそのものではなく、ソリューション型ビジネスへの転換が始まっている。シェアリング(共有)やリペア(修理)、レンタルなどのキーワードが色々なところで見かけられる。フランス人の学生が、日本の地下鉄はパリやニューヨークに比べて安全で清潔だと評したことに触れ、その良さがGDPには現れず、一人当たりのGDPで評価しても意味がない(価値の全てを評価できるわけではない)との考えを述べられた。

細田先生は廃棄物の動きと食品ロスにも言及した。平成元年から日本の廃棄物は努力により減少しているが、モノを作って捨てるための処分場がもうない。日本では、630万トンは、食べられるのに捨てられている(筆者注釈:平成26年時点の日本の食品ロスは年間621万トン)。EUは「成熟化経済」から「循環型社会」への転換を目指しており、モノを捨てずに「リペア(修理)」して、また使う。そうすることで、経済が収縮することはない。かつて日本は貧富の差が小さい国だったのに、OECDの中でも相対的貧困率が高くなり、そしてそのことに人々が気がつきにくい社会になってしまった。食べたくても食べられない人や、教育を受けたくても受けられない人が少なくなるようにしていかねばならない。「若者を中心に消費やモノ離れが起こり、心の豊かさを求めるようになっている。そしてゴミは減っている。もっとこのトレンドを加速させていきましょう」という言葉で講演を締めた。

基調講演2番目、東京大学 大学院農学生命科学研究科の八木信行先生(2018年1月20日、筆者撮影)
基調講演2番目、東京大学 大学院農学生命科学研究科の八木信行先生(2018年1月20日、筆者撮影)

基調講演2 東京大学 大学院農学生命科学研究科教授 八木信行先生「漁業の持続可能性に関する国際機関での取り組み」

基調講演の二番目は、東京大学 大学院農学生命科学研究科教授、八木信行先生。「漁業の持続可能性に関する国際機関での取り組み」。世界における天然漁獲と養殖の生産量の推移(FAOデータ)と、世界の漁業資源の開発状況を説明した。棒グラフの「赤」と「黄色」で世界の「漁獲し過ぎ」の状況を示された。世界のマグロの主な種類のうち、クロマグロが最も値段が高く、以下、ミナミマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガの順で値段が下がっていく。値段の高いものほど、資源が枯渇している。小手先の対応ではダメで、日本にいなくなれば輸入すればよい、といった問題ではない。「環境」「社会」「経済」をバランスよく維持するためにはどうすればいいのか。「世界の中の日本」という視点を持つこと。地域に存在する5つの資本とは、「自然資本」「人的資本」「社会的資本」「物理的な資本」「金融資本」。いま、これら5つの資本を使い切ってしまうのではなく、資本を温存していくことが大事。小手先の対応ではなく、社会全体の問題として対応する重要性を訴えた。

イオン株式会社執行役の三宅香氏は、イオンがSDGs制定の4年前から社内的にサステナビリティを議論していたと述べた(2018年1月20日、筆者撮影)
イオン株式会社執行役の三宅香氏は、イオンがSDGs制定の4年前から社内的にサステナビリティを議論していたと述べた(2018年1月20日、筆者撮影)

基調講演3 イオン株式会社執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当「イオンにおける持続可能な調達と消費の取り組み」

三番目の基調講演は、イオン株式会社執行役の三宅香氏。今でこそ「SDGs(持続可能な開発目標)」が制定され、人々に少しずつ知られるようになってきたが、イオンは2011年3月に「サステナビリティ基本方針」を発表していたという。2015年秋のSDGsより4年も早い。2014年に調達原則を設定したそうだ。

イオングループは、次の食品廃棄物削減目標を立てている。

1、食品廃棄物を2025年までに半減

2、食品資源循環モデルの構築

捨てるものがゼロになることはない。食品残渣は堆肥として活用し、その堆肥で野菜を育てている。賞味期限1年以上の商品を、今後2年以内に、年月日表示から年月表示へ移管、2018年4月をめどに3品を変更予定。細かい日付を省略し、食品ロスを減らすのが目的だ。バリューチェーン全体での取り組みを推進していく。食品ロスは、誰か一人だけ頑張れば解決する問題ではない、と述べた。

パネルディスカッション(2018年1月20日、筆者撮影)
パネルディスカッション(2018年1月20日、筆者撮影)

パネルディスカッション

モデレータ:藤田壮(つよし)氏(国立環境研究所 社会環境システム研究センター センター長)

登壇者:細田衛士先生、八木信行先生、三宅香氏、ハイン・マレー氏(総合地球環境学研究所教授・Future Earth アジア地球センター事務局長)、粟生木千佳(あおき・ちか)氏(地球環境戦略研究機関 プログラムマネージャー)

パネルディスカッションでは、次の2つの論点に基づき、粟生木氏やマレー氏らの発表と、登壇者の議論が行なわれた。会場からは、Twitterのハッシュタグを利用しての意見募集とマイクでの質疑応答が行なわれた。

論点1、くらしのあり方

持続可能な暮らしのあり方とは?

今、私たちができることは何?

次世代では何をする必要がある?

論点2、社会のあり方

持続可能な生産に必要な要素とは?

社会制度、地域のあり方とは?

食べ物の「閉店セール効果」とは

Twitterを活用し、会場からの意見募集ということで、筆者は次のツイートをした。

『ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されている一方、土用の丑の日に鰻の消費を促進する趣旨の報道が見られます。同じ物を一気に消費する風習を考え直す時期なのでは。東京海洋大学の勝川俊雄先生は「未来の世代を考慮した消費を」とラジオで語っていらっしゃいました。』

絶滅危惧種なのに、土用の丑の日に鰻のどんぶりなどをフランチャイズでも大量に売り、売れ残ったものが食品ロスとなって捨てられていくのを、毎年、目にしている。

いくつかのツイートがスクリーンに映し出され、筆者のツイートが「コメント」の2番目に紹介された。

筆者のツイートがコメントの2番目に紹介された(2018年1月20日、筆者撮影)
筆者のツイートがコメントの2番目に紹介された(2018年1月20日、筆者撮影)

その後、八木先生から意外な言葉を聞いた。八木先生の研究室では、マグロなどの魚について、絶滅危惧種だと知る前と知った後を比較するアンケート調査を行なった。その結果、「絶滅危惧種だと知ると余計食べたくなる」ことがわかった。これを「閉店セール効果」と呼ぶ、とおっしゃると、会場から笑いが起こった。「絶滅危惧種」であることを知らせれば、皆、食べるのを我慢して消費量を減らせると思っていたので驚いた。

心理学では、「なくなると決まると急に惜しくなる」という人間の心理を「閉店時刻効果」と呼ぶこともあるそうだ。あって当たり前の状態より、「終わってしまう」ことにより、対象物が魅力的に見えてくる。

話題となっている書籍『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』(マガジンハウス、原作:佐藤雅彦・菅俊一、画:高橋秀明)でも、人がなぜそれを買うのかという理由は、「安い」「質がいい」といった理由だけに限らないことが、行動経済学をもとに、まんがでわかりやすく解説されている。

パネルディスカッションは、登壇者が多く、質問もたくさん出たため、時間ギリギリまで議論が続けられた。最後に、まとめ・閉会挨拶として、福士謙介先生(東京大学国際高等研究所サステナビリティ学連携研究機構教授)が登壇され、食の価値の多様化について述べられた。司会者の小谷さんからは、2019年2月2日に第3回を開催することが発表された。

食品ロスの問題について意識のない人々にどう呼びかけていくのがよいのか

イギリス政府は、2000年に、調査・研究機関であるWRAP(ラップ)を立ち上げ、当時、9割の国民が食品ロス問題に意識がなかったのが、データに基づく啓発を続けていった結果、2017年2月時点では、意識や関心のない国民が、かつての9割から6割にまで減ってきたという。2017年2月のフランス・イギリス視察でWRAPを訪問した時、代表者の方に聞いた。

筆者は、食品企業の広報責任者だった2008年に、食品ロスを活用するフードバンクを知り、同年から勤務先で寄付や会議への参加を続けてきた。2011年に独立してフードバンクの広報責任者になり、それから「食品ロス」や「フードバンク」に関する講演や講義、取材の依頼を受けるようになって今に至る。講演や講義は、直接伝えられるのがメリットだが、その場にいる人にしか伝わらない。そこで書籍『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』を上梓した。本の出版によって、以前よりも啓発の効果が広がった。だが、やはり、本を読む人自体が減っており、読む人しか読まない。そして今は、インターネット上で啓発の機会を与えられている。興味のある人は記事を読むだろう。だが、食品ロスをできる限り少なくするためには、イギリスが行なったように、「関心のない人に振り向かせること」が大事だ。そこから意識改革、行動変容へとつなげていく。

「絶滅危惧種だから大切に食べてね」と言ったら、逆に惜しくなって、たくさん食べられてしまう、という。食の資源を大切にしていくこと、そして、その問題を、関心のない方々に啓発していくことは、難しい問題だ。

記事中の仏英渡航に関して:JSPS科研費15K07627「食品ロスの測定を通じた食料需給システムの効率性と環境負荷に関する国際比較」(代表 小林富雄)に自費参加して得た知見である