新幹線内で足止め客に賞味期限切れパン配付 なぜ6000件以上のコメントが殺到したのか

(写真:中尾由里子/アフロ)

2017年10月22日夜から23日にかけて、台風21号の影響により、東海道新幹線「こだま」705号が熱海駅で停車していた。東京駅を発車し、静岡駅まで向かう予定だった。23日午前3時ごろ、車内で夜を明かす乗客に、駅で備蓄していた5年間保存の缶詰入りパン128食を配付した。配付されたのはミドリのサバイバルパン2(実際の商品名では「2」にギリシャ数字が使われている)。

その後、新幹線が三島駅を出発したところ、乗客から、賞味期限が切れているとの指摘を受けた。賞味期限は2017年8月12日と8月15日だったという。JR東海(東海旅客鉄道株式会社)は、2017年10月23日付のプレスリリースで経緯とお詫びを発表している。

朝日新聞が23日にこれを報じ、Yahoo!ニュースがこの記事を転載した。

新幹線内で足止め客に賞味期限切れパン配布 JR東海

この記事に、6,300件以上のコメントが寄せられている(2017年10月25日7:23am現在)。他の記事のコメント数と比べても多い。「そっと伝えれば済む話」「困ったときに預けたものをなぜ有難いと思えないのか」など、賞味期限が切れていたことを責めるものより、寛容する内容が多く見られる。

乗客(消費者)は賞味期限の意味を理解していたのだろうか

消費期限(赤)と賞味期限(黄)の違い(農林水産省HPより)
消費期限(赤)と賞味期限(黄)の違い(農林水産省HPより)

JR東海のプレスリリースによれば、『こだま705号が三島駅を発車後、乗車中のお客様から乗務員に対し当該非常食の賞味期限切れについて申告がありました。』とある。この乗客が、どのようなニュアンスで伝えたのかはわからない。期限が切れていることに対するクレーム(苦情)だったのか、それとも、念のため、親切心で伝えたのか。

上に示したグラフは、賞味期限と消費期限の違いをあらわしたものだ。縦軸が品質の高低を示し、横軸は経過時間を示している。

日持ちが5日以内の食品に表示されるのが、グラフで赤い線で示された「消費期限」である。たとえばお弁当やお惣菜、サンドウィッチ、生クリームを使った洋菓子類などである。時間の経過とともに、品質が急激に劣化していくので、早めに食べきる必要がある。

一方、それ以上、長く保管して食べることができる食品には「賞味期限」が表示される。グラフで黄色い線で示されるように、賞味期限の日にちが過ぎたからといって、急激に品質が劣化するわけではない。

食品の期限表示に関し、以前は厚生労働省と農林水産省の管轄だったが、現在は消費者庁の所管となっている。消費者庁の公式サイト「食品の期限表示に関する情報」から「知っていますか?食品の期限表示」と題したパンフレットにリンクが貼られている。これを見ると「賞味期限が過ぎた食品が、すぐに食べられなくなる訳ではありません。廃棄による社会的なコストも考慮しながら、買い物や保存を行っていただくことは、 環境配慮の観点等からも望ましいことです。」と書いてある。

賞味期限切れを指摘した乗客が、このことをきちんと理解していれば、駅員に対しては、クレーム(苦情)として申し出るのではなく、「念のために伝える」というニュアンスになっていただろう。

企業は賞味期限の意味を理解していたのだろうか

JR東海のプレスリリースによれば、乗客から指摘を受けた後、『乗務員や駅係員が当該非常食の回収作業を実施し、その一部を回収』している。そして『現時点で、健康被害が発生したとの申告はありません。』と書かれている。

お詫びのプレスリリースまで出しているところを見ると、乗客からはクレーム(苦情)として指摘を受けたのかもしれない。あるいは、企業側がリスクを負担しないよう、発表したのかもしれない。

でも、前述の賞味期限の意味や、国(消費者庁)の方針を理解していれば、ここまでの対応をしただろうか。

プレスリリースを出すような話ではなく、ただ、新幹線の車内で対応すれば済む話ではなかったのか。

毎日新聞の調査によれば、全国47都道府県と20政令都市にアンケートしたところ、過去5年間の、対象行政の備蓄総廃棄量は、全備蓄量の4分の1にあたる176万3,600食にものぼっている。しかも、行政や企業が備蓄している食品の廃棄は、日本の年間食品ロス発生量621万トンに含まれてはいない。

参考記事

防災食「入れたら出す」仕組みで無駄なく活用

メディアは賞味期限の意味を理解していたのだろうか

そして、JR東海が発表したプレスリリースを、朝日新聞が『新幹線内で足止め客に賞味期限切れパン配付 JR東海』と報じた。これだけ見ると、JR東海が、良くない対応をしたようにも見える。確かに、気づかずに配ったのは手落ちだし、本来なら、賞味期限が切れる前に入れ替えをしておくだろう。賞味期限の意味を理解していない読者は、「けしからん」と誤解するかもしれない。

朝日新聞だけでなく、産経新聞や、通信社も、同じ記事を報道している。

メディアは、賞味期限の意味を正しく理解していたのだろうか。

メディアは、このことを報道することにより、読み手に何を伝えたかったのだろうか。

消費者も企業もメディアも「賞味期限」の意味を理解していない

法政大学経営大学院教授 小川孔輔先生の公式サイト トップ画像
法政大学経営大学院教授 小川孔輔先生の公式サイト トップ画像

法政大学経営大学院教授の小川孔輔先生は、公式サイトで、このことについて『パンを消費することに問題は全くない。腹を壊す乗客など出るわけがないのに』と言及している。

今回のケースでは、おそらく乗客(消費者)も、JR東海(企業)も、朝日新聞(メディア)も、賞味期限の意味を正しく理解していないことが露呈した。読み手は、「こんなことまで報道する必要があるのか」「5年保存の非常食が2ヶ月切れていて、それを非常時に食べるくらい、いいじゃないか」など、それぞれ違和感を感じたからこそ、ここまでコメント数が伸びたのではないだろうか。

中学校の家庭科で賞味期限の意味と消費期限との違いを習っている

拙著『賞味期限のウソ』でも触れたが、賞味期限の意味や、賞味期限と消費期限の違いについては、中学校の家庭科の教科書で説明されている。中学校の時点で習っているのだ。

これまで技術・家庭科は、男子が技術で女子が家庭科と、男女別だった。男女必修になったのは2002年からなので、30代もしくはそれ以上の男性は、家庭科を習っていない可能性がある。また、20代以下の男性は習っているとしても、家庭科は受験科目ではないから、おろそかにされがちである。

自給自足の生活をすることが難しい現代では、多くの人が、生きている限り、加工食品を活用して生きていく。「賞味期限」とは、切っても切れない縁があるということだ。なのに、それを理解せず、なんでもかんでも捨てていれば、食品ロスなど減るわけがない。すべての賞味期限を無視しなさいと言っているのではない。臨機応変に、五感を働かせて判断する必要があるということだ。

ペットボトルのキャップに表示される賞味期限。左は年月表示、右は年月日表示(筆者撮影)
ペットボトルのキャップに表示される賞味期限。左は年月表示、右は年月日表示(筆者撮影)

ペットボトル飲料を買うとき、賞味期限を見るだろうか。見ないで買う人が多いのではないか。賞味期限表示すらしていない食品もある。品質が劣化しづらいから省略できるのだ。書いていないと気にしないのに、書いてあるとそれにとらわれる。

「賞味期限」は、現代人の思考停止ポイントとも言えるだろう。

参考記事

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