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「未婚男性→結婚した男性→子を持った男性」それぞれの年収差はどれくらいか?

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

未婚は「金の問題ではない」という人々

「金がないから結婚できない」という話をすると、必ず「金の問題ではない」と噛みついてくる人がいる。

もちろん、昨今の婚姻減をすべて経済的な問題だと言っているわけではないし、実際当連載でも他の要因についても詳細に説明している。しかし、確実に「金がないから結婚できない」という男性がいることは事実である。

男性の婚姻減の問題は経済問題なのである。

すると、今度は「そういう言い訳じみた事を言っている奴は、所詮金があっても結婚できない」と何の根拠もない乱暴な事を粘着気味に言ってくるのだが、一体全体未婚男性に何か特別な恨みでもあるのだろうか。

そうした事を言ってくる相手の属性をよくよく見ると、大きくはふたつに分かれる。

ひとつは、「ゴリラマッチョ」系思考の持ち主の男性で、ご自身は努力もされたのだろう、今や高い収入を得て、SNS上ではポジティブな言葉を羅列しているタイプだ。確かにこういうタイプの未婚率は低い。

写真:イメージマート

「努力すれば叶えられる」と言うのは勝手だが、だからといって「うまくいかないのは努力が足りないせいだ」と短絡的に処理するのも、物の見方に努力が足りないのではないだろうか?

子育て支援は少子化対策にならない

もうひとつは、子育て世帯の方々である。私がよく書いている「出生減は婚姻減であり、子育て支援は少子化対策にならない」というのがお気に召さないようだ。未婚者への支援をされては自分たちの支援が削られるとでも思っているのかもしれない。

誤解のないように言っておくが、私は子育て支援は否定していない。それはそれとして、むしろ少子化があろうとなかろうとやるべきことである。ただし、子育て支援だけを充実させれば、さも出生数があがるかのような有識者の大嘘は看過できないだけである。

出生増をはかるには、というより、もはや出生増は不可能であり、せめて出生減のペースを遅らせる効果しかないとは思うが、その唯一の解決策は婚姻数の増加、または維持キープなのである。それは以前の記事に書いた通りだ。

そのためには、結婚できる男性とできない男性との経済的な壁の問題は避けて通れない。そこを見て見ぬフリをしているうちは、永遠に出生減は解決しないだろう。

未婚と既婚(子の有無別)個人年収

今まで世帯年収でいろいろ見てきたが、今回は、実際に「未婚男性」と「結婚してまだ子どものいない既婚男性」と「子どもを育てている既婚男性」とでその個人年収に違いがあるのかを見ていきたい。

本当なら、未婚男性の年収と結婚したばかりの男性の年収を比較できるといいのだが、残念ながらそんな都合のいい統計はない。よって、2022年の就業構造基本調査より、30-39歳男性の未婚と夫婦のみ世帯(これは結婚してまだ子のいない夫婦と解釈できる)の夫と夫婦と子世帯の夫、この3つのそれぞれの年収を比較することとする。

それが以下である。

未婚と既婚とで実にきれいに分かれた。

未婚既婚の違いを論ずる前に、既婚男性は子の有無に関係なく夫の年収分布がほぼ同じであることに注目したい。つまり、結婚することと第一子をもうけることの間には、特に年収としての壁があるわけではないことがわかる。

結婚すれば子を産むというのはそういうことである。

その上で、未婚と既婚の差を見ると、明らかに大きな差がある。

年収の最頻値は既婚男性が400万円台なのに対し、未婚男性は300万円台と100万円の差がある。

中央値でいえば、既婚男性(子無し)486万円に対し、未婚男性は361万円だ。その差は126万円もある。月にして約10万円の差である。子有りの既婚男性の中央値が513万円で、子有りと子無しの差はわずか26万円に過ぎない。

上位38%以内でないと…

未婚と既婚を分けるこの「120万円の差」が物理的にも心理的にも大きなハードルとなっているのだろう。ちなみに、結婚相談所やアプリで「年収400万円」で検索されてしまうと30代未婚の半分は落ちてしまうことになる。

さらに、この30代で半分が結婚している486万円という年収だが、未既婚あわせた30代男性全体でみると、上位38%の年収帯に相当する。いいかえれば、稼ぎで全国の上位38%に入らないと39歳までの結婚が厳しくなるということである。

ちなみに、大企業勤めは約3割なので、そこそこの規模の企業に就職していないと難しいということでもある。

それにしても、書いていて悲しくなるのは、30代の未婚男性の年収中央値が400万円にも満たない今の日本全体の給料事情の低下の方である。

写真:アフロ

額面給料アップでなくても解決できる

今の30代の給料を120万円あげろとまではいかないが、せめて年収400万以下の層の年収が50万円増となっただけで、全体の年収最頻値は400万円台にあがるし、中央値は400万円を超える。

本人の結婚の意思を度外視すれば、試算的には、結婚してもいいかなと思える層が年収50万円増で10%、25万円増でも5%程度増える計算となる。

もちろん、これには地方差もあるし、経済的な理由以外の問題を抱える未婚者の場合もまた別だが。

何も未婚者だけ給料アップしろという話ではない。

額面給料でなくてもそれ相当の手取りのアップということなら、税金や社会保険料の減額でさらに少ない額で対応可能だ。

それはとりもなおさず、既婚者や子育て世帯にも同時に恩恵となる話なのである。それくらいの経済対策をお願いしたいものである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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