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「子どもにお金がかかりすぎ」少子化が進む日本と韓国だけ異質な教育費負担

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

結婚も子育ても贅沢品

「お金がないから結婚できない」という層が一定数いることはこの連載でも何度か指摘してきた(→「年収200万未満で豊かに暮らせ?」最低限度の生活しかできない未婚男が恋愛や結婚を考える余裕はない)。同時に、「お金がなくても結婚はできるが、お金がないことで離婚に至る夫婦も多い」ことも事実である(→「金がないからイライラ?」現代夫婦の離婚事情がハードボイルド化)。加えて、「お金がないから子どもを産めない」という話もある。つまり、お金がないということで「結婚も子どもも作られなくなる」わけである。

結婚生活は経済生活なので、お金のことは切っても切り離せない問題ではあるのだが、もはや「結婚も子育ても金次第の贅沢品」と化しているのだ。

ここで、勘違いしてはいけないのは、この「お金がない」ということとは「食うに困るような貧困」と同義ではないということである。

かつて、日本の中心だった中間層がここ30年間「給料があがらない時代」の中におり、消費税の増税や社会保障費の細かい値上げなどで可処分所得は減り続け、そしてここにきて生活費全体のインフレにより、全体的に生活が苦しくなってきている。特に、子のいる家庭にとって、子の教育関連費の負担が大きくなってきている。

所得は増えないのに授業料はあがる

顕著な例は、大学の授業料と親の所得との関係である。

ご覧の通り、国立大はともかく、私立大に関しては平均で授業料があがり続け、所得の増えない親の負担は増すばかりだ。平均よりはるかに授業料の高い医学部などはもっと大変だろう。

親に負担をかけられないと、奨学金を借りて進学したものの、その返済に窮する子もいれば、そもそも自ら進学を断念してしまう子もいるだろう。

進学しない事で就職先や生涯賃金にも格差が生まれるばかりか、その流れで子の結婚にまで影響を与える。そうした親の所得によって子の未来が確定されてしまうという現実もある。

そうした現実の中で、「本当はもう一人子どもがほしいけど、今いる子の教育費を考えると無理だからやめておく」という夫婦がいたとしてもおかしくはない。「多く産んでみんなが貧しくなるよりは、少なく産んでその子に苦労はさせたくない」と考えるのも親心だろう。

事実、もはや、親の所得と子の数とはほぼ相関しているからだ(→「貧乏子沢山」どころか「裕福じゃなければ産めない」経済的少子化と「裕福でも産まない」選択的少子化)。

それを受けて、公立だけではなく私立も含めて、学校に関わる教育費を無償にするなど公的支援の必要性の声も高まるのだが、実態はそれでは解決しない。

日本と韓国だけ異質な教育費用

2020年内閣府が実施した「少子化社会に関する国際意識調査」に興味深い結果が出ている。日本、フランス、ドイツ、スウェーデン、米国、韓国という6カ国において「子育てにかかる経済的な負担で大きいもの」は何かを聞いている(米国と韓国は2010年調査)。

これによれば、日本と韓国という東アジアの国とフランスなどの欧米諸国とで明確な違いがある。

日本と韓国でもっとも大きな負担となっているのは「学習塾など学校以外の教育費」で、日本では59.2%、韓国では71.7%にものぼる。欧米諸国が多くてもドイツの24%であるのに比べてきわめて大きい。日本の場合は、「学習塾以外の習い事の費用」も他国と比べて大きい方だ。つまり、日本の親を苦しめているのは直接的な学校教育費ではないということになる。

学習塾にしても、習い事にしても、経済的に余裕のある親がやればよいではないかと思うかもしれない。しかし、中間層の親にしてみれば、余裕があろうがなかろうが、子の将来のためにここにはお金を惜しみたくないというのが正直なところだろう。

それ以上に、やらなければ他所の子と差がついてしまうという恐れがある。差がついてしまうということは子の未来に差がつくことを意味するだけではなく、他の友達と一緒ではないということで、仲間はずれなどのいじめにもつながるリスクもあるからだ。

写真:イメージマート

親の格差が子の格差へ

そうして競い合うように、親たちは学校以外の教育費に無理をするようになる。物理的に無理ができない層は子どもそのものを諦めていく。学校以外の教育費負担がもっとも大きい韓国は、合計特殊出生率が唯一1.0を切る世界最下位の少子化国家でもある。

奇しくも、いつのまにか日本より出生率が低くなってしまった中国も、2021年に「学習塾禁止令」を出している。

小中学生を対象とした学習塾の新規開設および営利目的の活動は一切禁止というもので、小学校1~2年生に対しては宿題すら禁止という厳しいものである。中国政府はこれを少子化対策であるとは明言していないが、少なくとも中国でも教育に金がかかりすぎて、そもそも結婚することすら避けるようになってきたという事態に歯止めをかけたかった意図はあるだろう。しかし、金持ちはアングラで家庭教師を雇うだけで抜本的に何も変わらないだろう。

もう一度前掲の図表をみていただきたい。

日本と韓国は子どもに対する学校以外の教育費のかけ方は尋常ではないのだが、レジャーやレクリエーションにかける費用は欧米と比較して圧倒的に少ない。

なんでも「欧米では」と比較したがる欧米出羽守になる必要はないのだが、日韓では教育という名目の詰め込みに終始して、一番大切な子どもの頃の遊びの楽しさや喜びの機会をないがしろにしてしまっているのだとしたら、それこそ子どもの将来にとってどうなんだろう。

そして、親が富裕層であればあるほど、学習塾や習い事だけではなく、このレジャーやリクリエーション、場合によってはよいファッションや美味い食事という経験を子にさせることができるという点がある。

教育費だけで精一杯の親はそこまで手が回らない。そこに子の経験の格差が生じる。

写真:アフロ

親のせいではない。

富裕層の親も中間層の親も貧困層の親も、それぞれが親として自分のできる範囲の中で頑張っているはずだ。しかし、どの親も頑張っているはずなのに、その子の格差は確実に広がっていく。やがて、それは、結婚できる子、できない子、子を持てる子、持てない子という形で顕在化するのだとしたら残酷なことである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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