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「金がないからイライラ?」現代夫婦の離婚事情がハードボイルド化

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

ここ20年間ずっと高い離婚率

「3組に1組が離婚する時代」と言われる。

これは、特殊離婚率(離婚数を婚姻数で割ったもの)が3割を超えていることによる。

特殊離婚率は離婚の指標として正しくないという識者がいるのだが、とんでもない間違いで、2000年以降の累計で見ても、この20年間で約1432万組が結婚し、約511万組が離婚している。実際、35.7%の結婚が壊れていることになるわけで、まさに、「3組に1組は離婚している」のは事実なのである。

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ただでさえ婚姻数が減っているのに離婚が減らないのでは、この先見通しが暗いと言わざるを得ないのだが、そもそも、離婚の原因とはなんだろうか?

20年前の離婚理由

離婚の多くは協議離婚であり、その理由に関する正確な資料はないが、司法統計から、協議離婚以外の離婚申し立て理由を見てみると、男女合わせた総数では「性格の不一致」が1位となる。芸能人などの離婚会見でもよく使われる、いわゆる「あたりさわりのない理由」だ。

もちろん、本当に「性格の不一致」が原因の夫婦もいるかと思うが、詳細に見ていくとより実態が明らかになる。

司法統計では、離婚申立人の言う動機のうち主なものを3個まで挙げる方法で集計している。それに基づき、夫と妻それぞれの離婚理由を分類したグラフが以下である。

経年の違いも見るために、2000年と2020年の実績を比べてみることにする。

まずは、20年前の2000年の状況から。

夫妻ともに1位は「性格の不一致」だが、夫の63%に対し妻は46%と夫婦間では大きく差がある。しかも、夫側の離婚理由の2位は「異性関係(いわゆる不倫や浮気問題)」の19%、3位「家族との人間関係」の18%と、1位と比べて割合が少なくなっている。

一方で妻側の理由は、2位が「金銭的問題」で39%もあり、1位の46%とほぼ差がない。「金銭的問題」とは「夫が働かない・浪費する」といった問題である。3位には「身体的暴力」が31%となっている。

これを見ると、20年前は、妻の離婚原因は「金と暴力」という問題が大きかったことが分かる。

写真:アフロ

様変わりした2020年の離婚理由

続いて、その20年後の2020年のデータを見てみると、20年前と大きく様変わりしていることがわかる。

夫の1位が「性格の不一致」である点は一緒だが、妻側の離婚理由の1位は、「性格の不一致」の38%を逆転して「金銭問題」が40%と1位になっている。さらに、妻側理由の3位は「精神的虐待」が25%となり、20年前に3位だった「身体的暴力」の20%を上回った。

妻側の離婚理由である「金と暴力」という大枠は変わらないが、暴力の中身が、夫のモラハラなど精神的虐待の方向が多くなったということである。

しかし、それ以上に注目に値するのが、夫側の離婚理由の変化である。

20年前は理由のほとんどが「性格の不一致」だけだったのに対し、2020年になると、2位に「妻からの精神的虐待」がくる。割合も12%から20%へと大幅に増え、3位も「妻の金銭的問題」が17%となっている。つまり、妻同様、夫にとっての離婚理由も「金と暴力」問題に切り替わってきたということなのだ。

写真:アフロ

夫婦双方とも、3組に1組の離婚の原因は「金と暴力」とは、ずいぶんとハードボイルドな時代になったものである。

浮気離婚が減った理由

ちなみに、不倫や浮気による離婚は、2000年は夫19%、妻27%もあったのに対し、2020年になると夫14%、妻15%と減っており、特に、妻側の理由としてはほぼ半減した。

これは、最近の夫婦が浮気もしない円満夫婦が多いということではない。

浮気ができるということはある意味、生活上のゆとりがあればこその話だ。20年前と比べて、現代の夫婦は、浮気をするゆとりや元気もないほど経済的困窮に直面しているという見方もできるのではないか。

夫側の離婚理由の3位に「金銭問題」がきているのも、「妻が働かないと家庭生活が成り立たない」という経済的要因を表している。

20年前と比べて妻の身体的暴力や精神的虐待が増えたというのも、「貧すれば鈍する」という言葉通り、金がないからイライラして当たりちらすという状況を生んでいるかもしれない。

「金がないから結婚できない」といわれる一方で、「金がないから離婚する」という現状がある。少なくともここ20年でどれだけ日本が貧乏になったのかがわかるというものだ。

写真:イメージマート

余談だが、最近の若者は当然知らないと思うが、「貧しさに負けた」という歌詞で有名な「昭和枯れすすき」という名曲がある。

あの曲では「貧しくても夫婦は一緒に苦しみに耐える」と歌っているのだが、当時の特殊離婚率は10%以下だった。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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