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独身だけが「ソロ活」をするのではない~無視できない規模になるソロエコノミー(ソロ活経済圏)

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

標準だった家族が2割へ

ソロ活市場はもはや無視できない規模に成長している。

大勢で行動することが制限されたコロナ禍の影響という話ではない。そもそも、ソロ活市場はコロナ以前から増えていた。独身者が増えて人口構造が変化していったのだから、結果としてソロでの消費行動が増えるのは当然である。

かつて、日本の世帯構造は「両親と子ども2人」という4人家族が「標準世帯」と呼ばれていた。核家族化の進行で、事実この世帯類型が比率としてもっとも多かったからである。

しかし、今は世帯類型でもっとも多いのは単身世帯で4割に迫る勢いである。そればかりか、社人研の将来推計によれば、世帯類型で、かつて標準と呼ばれたこの「夫婦と子」世帯は2040年には23%程度まで落ち込む。

報道などで、「家計調査」の話が出てくることがあるが、あの数字はすべて「2人以上の世帯」の数字であり、実は単身世帯の動向は含まれていない。もはや、世帯数でトップを占める単身世帯の動向抜きに日本の家計を語るのは無理があると思われる。

昔からあった「ソロ活」

そもそも消費行動としての「ソロ活」の歴史は古い。

現在も、テレビ東京などで江口のりこさん主演のドラマ「ソロ活女子のススメ2」が放送されている。少し前は、女子のソロキャンプを題材としたアニメ「ゆるキャン」も放送されていた。

「おひとりさま」という言葉がブームになったのは、意外に古く、2009年には、観月ありささん主演のドラマ「おひとりさま」も人気を博した。当時は、女性の「一人飯」「一人酒」「一人焼肉」などが増えているなどとテレビや雑誌等で大いに話題にもなった。

しかし、この「おひとりさま」という言葉自体、1999年にジャーナリスト岩下久美子氏が使ったのが最初と言われる。

不思議と、上記すべて女性がソロ活動をすることに脚光が当たっている。

しかし、ソロ活は昭和の時代から、どちらかといえばおじさんたちの専売特許のようなものだった。特に「一人飯」や「一人酒」に代表されるような外食産業は、以前よりソロ客の需要は低くはなかった。

写真:イメージマート

それは江戸時代にもあった話で、その件については「居酒屋」の起源となった話もふくめてこちらの記事に書いたので参照してほしい。

「居酒屋」誕生秘話。江戸の独身男の無茶ぶりから始まった。

ソロ活とは独身だけじゃない

「ソロ活」というと独身が一人で行動するのをイメージしがちであるが、実は決してそうではない。

以前、こちらの記事(結婚しても、趣味への出費は減らさず、浮気もする「カゲソロ」夫の正体)で、ソロ属性4象限というものを紹介した。再掲する。

既婚者であっても、ソロ度の高い「カゲソロ」が全体の2割存在する。ざっくりわかりやすくいうと、「ソロ度が高い=ひとりで行動できる人」、「ソロ度が低い=ひとりで行動するのは寂しい、グループで行動したい人」を意味する。

既婚者でもソロ活が好きな「カゲソロ」もいれば、独身であっても「みんなと行動したい」というソロ度が低い「エセソロ」もいるのである。「エセソロ」は、これまで機会に恵まれずに(あるいは何らかの理由で)独身であるが、いずれは結婚したいと考えている人たちである。

ちなみに、ソロ度が高く、かつ、独身者である「ガチソロ」は、結婚への意欲も低く、結婚に対しては後ろ向きな部類になる(そもそも、結婚に対して後ろ向きな独身は男6割、女5割もいる→デマではないが正しくない。「結婚したいが9割」という説のカラクリ

これまでビジネスで「ソロ市場」を論じるとき、これら「ガチソロ」と「エセソロ」の独身者合計40%だけをターゲットとするケースが多かった。

しかし、既婚のなかにもソロ度が高い「カゲソロ」という人たちもいて、彼ら、彼女らは、結婚して家庭をもっていても、1人でお酒を飲みに行ったり、遊びに行くことを好む。

ソロ市場の対象には、こういう人たちも含まれると私は考えている。特に、レジャーやサービスの分野では、「ガチソロ」「エセソロ」に「カゲソロ」を加えた60%を、「ソロ市場ターゲット」として考えるべきだろう。

パートタイムソロ活の動き

そこには、ソロ市場に対する新たな可能性が隠れている。それは「パートタイムソロ活」という考え方である。

旅行を例にとって説明する、従来のパック旅行では、たとえば夫婦で参加したら同じ旅館に宿泊し、決められた同じ観光スポットを2人で一緒に巡るパターンがほとんどである。

それに対して「パートタイムソロ」の考え方では、すべてを一緒に行動するのではなく、妻は話題の最新スポットを巡り、夫は古刹巡りというようにそれぞれが「ソロ」で行動し、昼食や宿泊は共通で楽しむというやり方である。

もちろんお互いの興味が一致する場所は一緒に巡ればいいが、必ず二人一緒にすべての行動を共にする必要はないのだ。

つまり、従来までの「フルタイムのグループ活動」「フルタイムのソロ活動」の二者択一ではなく、3つめの行動、それが「パートタイムソロ活」という考え方である。

写真:アフロ

潜在的なソロ活需要

誰の中にも「一人でいたい」「一人になりたい」という気持ちはある。ない人なんていない。別に誰かと一緒が苦というわけではないが、一人の時間が全然ないとストレスになることは、今回のコロナ禍で多くの人が実感したことだろう。

コロナ禍で在宅勤務となった家族の方の中には、「いつも家族と一緒でうれしい」「通勤の満員電車に乗らなくていいから楽だ」なんて最初は思ったかもしれないが、それが長く続いたことで原因不明のストレスを抱えた人、いるんじゃないだろうか。

通勤の時間は、周りにたくさん人がいても「一人になれる貴重な時間」だった。スマホや読書や一人物思いにふける人もいただろう。1日の中で往復1~2時間の通勤は、そうした「一人になる」ことで心をリセットする大事な時間だったともいえる。

独身や既婚という状態に関わらず、男女も関係なく、人間を集団派と個人派に区分けするものでもなく、時と場合により、誰もがソロ活を求める気持ちはある。ソロ活市場というのは、そうしたニーズが潜在的にあるのだということである。

ソロ活市場は無視できないことは間違いない。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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