Yahoo!ニュース

イスラエルの「爆撃初め」を黙認する欧米諸国:シリアのダマスカス国際空港を攻撃し、一時利用不能に

青山弘之東京外国語大学 教授
Times of Israel、2023年1月2日

イスラエルは1月2日、シリアに対して今年初めてとなる爆撃を実施した。

ダマスカス国際空港が利用不能に

シリア軍筋が発表した報道声明によると、イスラエル軍は1月2日午前2時頃、ガリラヤ湖(ティベリウス湖)北東方面(占領下ゴラン高原上空)からダマスカス国際空港(ダマスカス郊外県)に向けてミサイル多数を発射、これによって軍関係者2人が死亡、2人が負傷するとともに、若干の物的被害が生じ、空港が利用不能となった。

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、爆撃では、空港近くの武器弾薬庫1棟を含む2棟が狙われ、シリア人2人を含む4人が死亡したという。

シリアの運輸省はその後、声明を出し、職員や関係機関が復旧作業を行い、午前9時から空港の業務を再開すると発表した。だが、シリア人権監視団は、旅客機用の滑走路の使用は再開されたものの、貨物機および緊急離着陸用の滑走路の復旧作業は続いていると発表した。

イスラエルは昨年1年で41回もの侵犯行為を繰り返す

イスラエルは、2022年の1年間で、シリアに対して、爆撃、ミサイル攻撃など41回目の侵犯行為を行っており、もっとも最近では、12月20日に、今回と同じくダマスカス国際空港一帯をミサイル攻撃していた。

関連記事

イスラエル軍戦闘機がダマスカス国際空港一帯を爆撃、シリア軍によると兵士2人死亡、シリア人権監視団によるとヒズブッラーとともに活動する外国人3人死亡(2022年12月20日)

イスラエル軍のコチャビ参謀総長は11月9日のダイル・ザウル県ブーカマール市に近い「イランの軍用ゲート」などに対する爆撃への関与を認める(2022年12月14日)

イスラエル軍戦闘機がタルトゥース県バーニヤース市沖の地中海上空から中部地区および沿岸地区に向けミサイル攻撃、シリア軍兵士4人死亡、ラタキア県の中圧電線が被害を受ける(2022年11月19日)

イスタンブールでの爆破テロへのシリア人の関与がかき消すトルコとイスラエルのシリアへの侵犯行為

シリア外務省はイスラーム国とイスラエルが連携していると非難

シリアの外務在外居住者省は国連事務総長と安保理議長に書簡を送り、主権、領土の一体性の防衛と、内政干渉を拒否するシリアおよび不屈のシリア国民に対する犯罪と非難するとともに、12月30日のダイル・ザウル県でのティーム油田従業員に対するテロ攻撃の直後に行われた今回の爆撃が、イスラーム国とイスラエルの連携を立証していると断じた。

そのうえで、国連に対して、こうした犯罪行為を非難し、再発防止に向けた緊急の行動をとるよう要請した。

イスラエルは2022年6月の爆撃で、ダマスカス国際空港を利用不能にしたほか、9年の爆撃ではアレッポ国際空港を利用不能とするなど、シリア国内の民生施設への攻撃を繰り返し、同国の復興を妨害し続けている。だが、日本をはじめとする西側諸国はこうした攻撃を非難することはない。

関連記事

イスラエルがシリアのダマスカス国際空港を爆撃で破壊:黙殺する欧米諸国と日本、非難するロシアとイラン

イスラエルがシリアのアレッポ国際空港を攻撃、利用不能に:黙認によって他国が得られる新たな攻撃の口実

Times of Israel、2023年1月2日
Times of Israel、2023年1月2日

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

青山弘之の最近の記事