シャーム解放機構が支配する「シリア革命」最後の牙城イドリブ県でマレーシア人ジハード主義者が死亡
SNS上で4月29日、「シリアのアル=カーイダ」として知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)のメンバーだったマレーシア人ジハード主義者のハビーブッラー・アフマド(通称ハムザ・マーリーズィー)が獄中で死亡したとの情報が流れた。
シャーム解放機構は「シリア革命」の牙城と目されるシリア北西部のイドリブ県一帯地域の軍事・治安権限を掌握し、同地を支配する組織である。「解放区」などと呼ばれるこの地域では、シャーム解放機構の治安部隊である総合治安機関による住民の恣意的逮捕、留置、拷問、殺害などが横行しており、2月以降、指導者であるアブー・ムハンマド・ジャウラーニーの打倒、逮捕者の釈放などを求めるデモが各地で繰り返されている。だが、自由、尊厳、体制打倒を実現するとして同地で活動する有名どころの活動家や、それを支援する国外の個人、団体がシャーム解放機構の存在について言及することはほとんどない。
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英国で活動する反体制派系NGOのシリア人権監視団やSNSでのポストによると、アフマドはアフガニスタンでの戦闘に4年間加わったのち、シリアに移り、シャーム解放機構に所属していた。
シリアでの活動中、米主導の有志連合がアフマドの暗殺を試み、彼は一命をとりとめたものの、手を切断する重傷を負った。
アフマドは航空工学が専門で、シャーム解放機構による無人航空機(ドローン)の開発に貢献したとされている。
シャーム解放機構は2023年半ば頃から大型のドローンで政府支配地への爆撃を繰り返すようになった。同年10月5日には、シャーム解放機構と連携する中国新疆ウィグル自治区出身者からなるトルキスタン・イスラーム党がヒムス軍事学校の修了式を攻撃し、士官学校卒業生やその家族80人あまりを殺害している。
クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール通信(ANHA)は2023年10月23日付で、シャーム解放機構など反体制派が保有するドローンについて、飛行距離が50キロから200キロに達し、4キロあまりの爆発物が搭載できるとしたうえで、製造や操作にかかる技術を支援国から得ることなしに、彼らがこうしたドローンを保有することは不可能と伝えている。
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シャーム解放機構は5年前の2019年にアフマドを逮捕、イドリブ県内の収容所に収監していたが、4月29日に家族に死亡したとの連絡が総合治安機関からあったという。
アフマドの死因は不明だが、家族に遺体が引き渡されていないことから、SNS上では処刑されたとの見方が広がっている。