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米軍がロシアのウクライナ侵攻以降初めて、シリア南東部でイラン・イスラーム革命防衛隊を狙って爆撃か?

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

国際社会の耳目と関心がウクライナに注がれるなか、シリアでは相変わらず諸外国による爆撃や攻撃が続いている。

イスラーム国残党に対して続くロシア軍の爆撃

連日にわたって爆撃を行っているのは、ロシアだ。

ロシアがウクライナに対する特別軍事作戦を開始した2月24日以降、欧米や日本のメディアは、ロシアがウクライナ侵攻に注力することで、シリアでの活動が鈍化すると宣伝した。

米国防総省高官は4月19日、ロシア軍のウクライナでの戦闘能力が「侵攻開始時の75%」に低下したと主張、メディアが何の検証もしないままに、この発言を「垂れ流し」し、第二次大戦敗戦直前の日本さながらに、戦意高揚に興じている。にもかかわらず、少なくともシリアにおいて(そしておそらくはウクライナでも)、ロシアの軍事力が低下していることを確認できる具体的な証拠はない。

シリアでロシアが行っている爆撃は、無辜の市民、女性や子供、学校や病院といったインフラに対する無差別爆撃ではない。ロシア軍は、シリア中部の砂漠地帯に残留するイスラーム国の拠点に対して1日あたり10回あまりの爆撃を行っている。しかし、2020年3月にドナルド・トランプ米大統領がシリアとイラクでのイスラーム国に対する「テロとの戦い」の勝利を宣言して以降、シリアでロシアがイスラーム国の掃討を続けている事実が報じられることはない。

最近、報じられていると言えば、ロシアの民間軍事会社のワグネル・グループの監督のもとに結成され、シリアで活動してきたロシア人主体の民兵組織「ISIS(イスラーム国)・ハンター」(サーイドゥー・ダーイシュ)の存在くらいだ。だが、この民兵がイスラーム国の掃討に携わっていたという事実に目が向けられることはなく、ウクライナ東部ドンバス地方での戦闘に投入される(ないしは投入された)として「悪の存在」としてクローズアップされるだけだ。

トルコ軍ドローンが前日に続いて爆撃を実施

そして、ロシア以外の国もシリアで爆撃を行っている。

シリア北部のハサカ県では、トルコ軍が4月21日の午後4時頃、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるキリスト教アッシリア教会の信徒が暮らす村の一つタッル・ダムスィージュ村を無人航空機(ドローン)で爆撃した。

北・東シリア自治局は、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルディスタン労働者党(PKK)の系譜を汲む民主統一党(PYD)が主導する自治政体。米国の軍事的後ろ盾を得て、シリア北東部一帯を実効支配している。

英国を拠点に活動するシリア人権監視団やPYDに近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、この爆撃により、PYDの民兵組織である人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍に所属するタッル・タムル軍事評議会の拠点が狙われ、兵士3人が負傷した。

トルコ軍はまたこの日、TFSA(Turkish-backed Free Syrian Army、トルコが支援する自由シリア軍)として知られる反体制武装組織の連合体であるシリア国民軍とともに、アッシリア教会信徒が住むタッル・タウィール村のほか、アブー・ラースィーン(ザルカーン)町と周辺のダーダー・アブダール村、アサディーヤ村、ウンム・ハルマラ村、ブービー村(ハーッジ・ブービー村)、ヒルバト・シャイール村、タッル・ワルド村を砲撃した。

トルコは4月20日にもドローンを用いてシリア北部で爆撃を行っており、4人を殺害している。

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所属不明の航空機がイラン・イスラーム革命防衛隊の拠点を爆撃

4月21日には、ロシア、トルコ以外による爆撃も確認された。

反体制系サイトのジスル・プレス、ナフル・メディア、イナブ・バラディーなどが伝えたところによると、シリア南東部のダイル・ザウル県で明け方に、所属不明の戦闘機複数機がシリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸のブーカマール市内に設置されているイラン・イスラーム革命防衛隊の拠点複数カ所に対して爆撃を行った。

爆撃を行ったのは無人航空機(ドローン)で、狙われたのはジャムイーヤート地区内のハジャーナ交差点に設置されている拠点。「ハーッジ・アスカル」の名で呼ばれる司令官が駐留する拠点にも及んだという。

イラン・イスラーム革命防衛隊、イラクの人民動員隊、レバノンのヒズブッラー、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団などいわゆる「イランの民兵」が活動するシリア政府支配地、とりわけイラク国境に近いダイル・ザウル県のユーフラテス川西岸地域は、これまでにも米主導の有志連合やイスラエルが有人・無人の航空機によって爆撃を行ってきた。

今回爆撃を実施した航空機の所属は不明だが、ドローンによる爆撃は有志連合、つまりは米軍によるものが多い。

もし、米軍が爆撃に関与しているのであれば、それはロシアがウクライナに侵攻を開始した2月24日以降では初めてとなるシリアへの侵犯行為となる。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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