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トルコがシリア領内をドローンで爆撃:ウクライナ以外の国での攻撃は個別自衛権の行使か武力による威嚇か?

青山弘之東京外国語大学 教授
ANHA、2022年4月21日

ロシア以外の国が行う攻撃が国連憲章第2条が禁止した武力による威嚇、武力の行使にあたるのか、ウクライナ以外の国による攻撃が国連憲章第51条が保障する個別的自衛権の行使にあたるのかーー恣意的な判断が行われるのであれば、国際法や国際政治学には存在意義はないかもしれない。

トルコ軍がシリアをドローン爆撃

トルコ軍が4月20日、無人航空機(ドローン)を使用して、シリア北部の2ヵ所を爆撃した。

シリアのクルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)や英国を拠点として活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、爆撃が行われたのは、アレッポ県北部のアイン・アラブ市南の街道。

トルコ国境に面するアイン・アラブ市はコバネの名で知られている都市。ロシア軍とシリア軍が国境警備と停戦監視を目的として展開しているが、PYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局の実効支配下にあり、PYDの民兵である人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍も展開している。

トルコ軍のドローンは午後3時半頃、アイン・アラブ市の南に位置するイーディーク村とトゥーハト(タフタク)村を結ぶ街道で、PYDに近い革命青年運動の幹部やシリア民主軍関係者が乗った車を狙い、革命青年運動幹部1人を含む4人を殺害したという。

また、ハサカ県でも、トルコ軍のドローンが、カーミシュリー市北部のトルコ国境地帯にある諜報機関の拠点1棟を爆撃した。

カーミシュリー市も中心街(治安厳戒地区)やカーミシュリー国際空港がシリア政府の統治下にあり、ロシア軍とシリア軍が展開しているが、それ以外の地域は北・東シリア自治局が支配している。

シリア領内に対するトルコ軍の爆撃は、4月に入って2度目。

ウクライナで運用されているバイラクタルTB2が爆撃を行ったかどうかは定かでない。

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テロリストか為政者か、法の執行か犯罪か

PYDはトルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルディスタン労働者党(PKK)の系譜を汲む組織。トルコは、PYD、PKKを安全保障上の脅威とみなし、「安全地帯」を確保するとして、その勢力下にあるシリア北部で2016年から2019年にかけて3度にわたる軍事作戦(「ユーフラテスの盾」、「オリーブの枝」、「平和の泉」作戦)を実施し、国境地帯を占領下に置いている。

軍事作戦は力による現状変更の試みであり、国際法違反だが、トルコにとっては国際法上正当な個別的自衛権の行使である。

一方、爆撃で狙われた革命青年運動は、北・東シリア自治局の支配地域で若い男女を拉致、連行することで悪名が高い。連行された男女は、北・東シリア自治局が定めた自衛義務法なる法律に違反したとみなされ、強制的にシリア民主軍に従軍させられている。

自衛義務法は、その第1条において、「法廷年齢に達した北・東シリア自治局のすべての居住者で、そのなかには同自治局外から転居し、3年以上経ったシリア国籍を有する者、マウトゥーム(1960年代にシリア国籍を剥奪された後、住民台帳に再登録されなかったクルド人)が含まれる」としている。

自衛義務法に基づく徴兵拉致は、シリアの司法においては犯罪行為(拉致)以外の何ものでもないが、シリア政府の正統性を否定しているPYDにとって正当な行為である。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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