国連安保理はシリアへの越境(クロスボーダー)人道支援の有効期間を採決を経ずに7月10日まで自動延長
国連安保理は1月11日、シリア政府への許可なく国外からの越境(クロスボーダー)人道支援を行うことを定めた国連安保理決議第2165号(2014年7月14日採択)の有効期間が2022年1月10日に終了したことを受けて、採決を経ずにその期間を2022年7月10日まで延長した。
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■シリアでの人道支援の問題は越境(クロスボーダー)の是非ではなく、テロリストが関与すること
越境支援の経緯
国連安保理決議第2165号は、シリア政府の支配が及ばない反体制派の支配地――反体制派が言うところの「解放区」――への人道支援を目的として、反体制派を支援する欧米諸国のイニシアチブのもとに採択された。
当初は有効期間を180日と定めていたが、人道支援継続の必要から、第2191号(2014年12月17日採択――2016年1月10日まで延長)、第2332号(2016年12月21日採択――2018年1月10日まで延長)、第2393号(2017年12月19日採択――2019年1月10日まで延長)、第2449号(2018年12月14日採択――2020年1月10日まで延長)、第2504号(2020年1月11日採択――2020年6月10日まで延長)、第2533号(2020年7月11日採択――2021年7月10日まで延長)、第2585号(2021年7月14日採択――2022年1月10日まで延長)によって8度にわたって更新されていた。
縮小される越境支援
国連安保理決議2165号はまた、トルコに面するイドリブ県のバーブ・ハワー国境通行所(トルコ側はジルベギョズ国境通行所)、アレッポ県のバーブ・サラーマ国境通行所(トルコ側はオンジュプナル国境通行所)、イラクに面するハサカ県のヤアルビーヤ国境通行所(イラク側はラビーア国境通行所)、そしてヨルダンに面するダルアー県のダルアー国境通行所(ヨルダン側はラムサー国境通行所)を通じた越境人道支援を認めていた。
だが、国連安保理決議第2504号では、2018年半ばにシリア政府の支配下に復帰したダルアー国境通行所とヤアルビーヤ国境通行所が除外された。また、決議2533号では、バーブ・サラーマ国境通行所も除外され、越境人道支援が可能なのは、バーブ・ハワー国境通行所のみとなっていた。
越境支援から境界経由での支援へ
2021年7月11日に採択された国連安保理決議第2585号は、「クロスライン」(境界経由)、すなわち政府支配地と反体制派支配地を隔てる境界線を経由した人道支援を拡充するための取り組みを強く奨励する一方、越境人道支援については以下の通り、定めていた。
国連事務総長報道官のステファン・ドゥジャリック氏は1月11日(米東部時間10日)の記者会見で、この問題に関して次のように述べ、継続の意思を示していた。
態度を軟化させたロシア
欧米諸国は越境人道支援の継続を主張していた。これに対して、ロシアは、人道支援が欧米諸国によって政治利用され、アル=カーイダ系組織を主体とする反体制派への支援の隠れ蓑になっているとして、シリア政府とともにその廃止を求め、安保理決議で延長の是非を決するべきだとの姿勢をとっていた。
だが、トルコ日刊紙『デイリー・サバフ』などは、採決に固執せず、自動延長を認めたロシアの姿勢について、「モスクワはこの方法を国全体におけるアサド体制の主権を承認するものとして支持している」と伝えた。
人道支援を担うテロリスト
なお、反体制派が温存している支配地(「解放区」)は、イドリブ県中北部と周辺のアレッポ県西部、ハマー県北西部、ラタキア県北東部に限定されている。同地は、国連安保理決議第1267号(1999年10月15日採択)委員会(通称アル=カーイダ制裁委員会)が国際テロ組織に指定するシリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構によって軍事・治安権限が掌握され、同組織が自治を委託するシリア救国内閣を名乗る組織が統治を主導している。
1月7日には、シリア救国内閣が、トルコとの国境に面するバーブ・ハワー国境通行所とアレッポ県北西部を結ぶ街道の開通式を行い、シャーム解放機構のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー指導者が姿を現し、越境人道支援の継続を求める意思を示していた。
シャーム解放機構はまた、2021年8月と12月に実施された世界食糧計画(WFP)による境界経由での支援に際して、物資を積んだトレーラーの護衛を行うなどし、人道支援の担い手としての存在を誇示し、テロリストの汚名を払拭しようとしている。