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米軍(有志連合)がシリア南東部ダイル・ザウル県に点在する「イランの民兵」拠点を3日連続で攻撃

青山弘之東京外国語大学 教授
Gomhuriaonline、2021年12月13日

イラン・イスラーム革命防衛隊の精鋭部隊ゴドス軍団の司令官を務めていたガーセム・ソレイマーニーが、イラク人民動員隊のアブー・マフディー・ムハンディス副司令官とともに、イラクの首都バグダードで米軍によって暗殺(2020年1月3日)されてから2年、シリア(そしてイラク)では、米国と「イランの民兵」の間で緊張が続いている。

「イランの民兵」とは、シーア派宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘した外国人(非シリア人)民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラク人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。

先に仕掛けたのは米国だ。

1月4日、米国が主導する有志連合は、ダイル・ザウル県ユーフラテス川西岸のウマル油田に違法に設置している基地(通称「グリーン・ヴィレッジ」)から、ユーフラテス川西岸のクーリーヤ市近郊の砂漠地帯に点在する「イランの民兵」の拠点複数カ所を攻撃したのだ。

ユーフラテス川西岸は、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局を構成するダイル・ザウル民政評議会、PYDの民兵である人民防衛隊(YPG)を主体とし、イスラーム国に対する「テロとの戦い」における有志連合の協力部隊と位置づけられているシリア民主軍の支配地。一方、ユーフラテス川東岸はシリア政府の支配下にある。

この攻撃を受け、1月5日早朝、「イランの民兵」がユーフラテス川西岸のマヤーディーン市近郊から、ウマル油田の基地に対して報復として砲撃を行った。

これに対して、有志連合は応戦し、マヤーディーン市近郊の砂漠地帯に2発の迫撃砲を撃ち込んだ。

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「イランの民兵」に対する有志連合の攻撃は1月6日も続いた。

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団は、所属不明の無人航空機(ドローン)が早朝、ユーフラテス川西岸のティブニー町近郊のムサッラブ砂漠上空に飛来し、「イランの民兵」の拠点1カ所を攻撃したと発表した。

反体制系サイトのバラディー・ニュースによると、ドローンは有志連合所属で、狙われたのはイラク人民動員隊に所属するヌジャバー運動傘下のアッラー・アクバル大隊の拠点。

また、反体制系サイトのユーフラテス・ポストはフェイスブックなどを通じて速報を出し、有志連合がユーフラテス川東岸のCONOCOガス田に違法に設置している基地から西岸の「イランの民兵」の拠点複数カ所に対して砲撃を行ったと伝えた。

緊張の高まりは、ソレイマーニー司令官の命日に合わせて、イラン、あるいは「イランの民兵」が報復を行うかもしれないことに対する米国側の警戒心や恐怖心、あるいはイラン側の米国に対する憎しみを背景としていた。だが、こうした感情によって覆い隠されているのは、ユーフラテス川河畔における暴力の応酬の根本原因が、違法に駐留、活動を続けている外国の存在であるという事実なのである。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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