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米主導の有志連合と「イランの民兵」がシリア南東部で砲撃の応酬を行う一方、イスラエルも南西部を砲撃

青山弘之東京外国語大学 教授
米国防総省(2022年1月5日)

イラン・イスラーム革命防衛隊の精鋭部隊ゴドス軍団のガーセム・ソレイマーニー司令官暗殺(2020年1月3日)から2年が経ったシリアで、米主導の有志連合(生来の決戦作戦合同部隊(CJTF-OIR))と「イランの民兵」の緊張が高まっている。

自衛権の行使と主張する米国

シリア政府の支配下にあるダイル・ザウル県のユーフラテス川東岸のクーリーヤ市近郊の砂漠地帯で1月4日昼頃、所属不明の無人航空機(ドローン)が「イランの民兵」の拠点複数カ所に対して爆撃を実施し、複数回にわたって爆発が発生した。

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これに関して、ジョン・カービー米国防総省報道官は1月5日(米東部時間1月4日)の記者会見で、爆撃ではなかったとしたうえで、次のように述べて、同地の部隊が危険に晒されたため、自衛権を行使したと主張した。

さらなる情報は米中央軍(CENTCOM)が提供することだろう。私の理解では、攻撃は爆撃ではなかった…。だが、明らかに部隊はこの地域で危機に晒されている…。我々は常に自衛権を有している。

(敵の)所属を特定する立場にはない。だが、我々はイラクとシリアにいる我が軍部隊が、イランの支援を受ける民兵によって脅威に晒されているのを見続けている。

シリアで今日我々がおこなったロケット弾による攻撃、あるいは発射の責任について、あなたが話すことはできないと思う。だが、イラクでの無人航空機(ドローン)2機の攻撃についてはどうなのか?

「イランの民兵」の報復

自衛権の行使を主張する有志連合の先制攻撃に対して、「イランの民兵」が動いた。

「イランの民兵」とは、シーア派宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘した外国人(非シリア人)民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラク人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。

1月5日早朝、シリア政府の支配下にあるダイル・ザウル県ユーフラテス川西岸のマヤーディーン市近郊から、東岸にあるウマル油田に米国が違法に設置している基地、通称「グリーン・ヴィレッジ」が砲撃したのである。

米国防総省(2022年1月5日)
米国防総省(2022年1月5日)

この砲撃に関して、有志連合は声明を出し、ウマル油田の基地が8発の間接射撃によって狙われたとしたうえで、それが「イランの支援を受ける悪意のある者」、つまり「イランの民兵」の攻撃だと断じた。声明の骨子は以下の通りである。

有志連合は今朝、シリア北西のグリーン・ヴィレッジで8発の間接射撃によって狙われた。同地はシリア民主軍(PYDの民兵である人民防衛隊(YPG)を主体とする有志連合の協力部隊)の基地で、小規模な顧問を駐留させている…。攻撃による犠牲者はなかったが…、若干の被害が出た。

有志連合は、信頼できる有益な情報に基づいて行動し、砲弾が発射されたシリアのマヤーディーン市郊外の地点に対して、直ちに6発の砲弾を発射した。イランの支援を受ける悪意のある者が市民の安全を考慮せず民間インフラ内から有志連合とシリア民主軍に対して攻撃を行った。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団の発表によると、ウマル油田の基地に着弾した砲弾は3発。うち1発がヘリポートに、残り2発が基地内の空地にそれぞれ着弾し、物的被害が生じた。攻撃に対して、有志連合は応戦し、マヤーディーン市近郊の砂漠地帯に2発の迫撃砲を撃ち込んだという。一方、「独立系サイト」を名乗るアイン・フラートの報道によると、基地に向けて発射された砲弾は7発で、うち3発は防空システムによって撃破されたが、2発が基地から約2キロ離れた地点に着弾した。

イスラエル軍も越境攻撃を実施

有志連合と「イランの民兵」の緊張が高まるなか、イスラエル軍もシリアに対して越境攻撃を行った。

国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、イスラエル軍の戦車複数輌がシリア南西部に位置するクナイトラ県のフッリーヤ村一帯にある軍事拠点を狙って砲撃を行い、村の灌木地帯で火災を発生させた。砲撃時、上空にはイスラエル軍のヘリコプター複数機が旋回し、偵察・索敵を行っていたという。

米国は緊張化の原因がイラクとシリアで活動する「違法な民兵」にあるとしている。だが、そんな米国のシリア駐留も、イスラエルのゴラン高原の占領や越境攻撃も違法であることに変わりない。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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