セクハラ被害者の声を女優200人が舞台で代弁 『人形の家』の国ノルウェーでは今 #MeToo

「セクハラする人が得する社会」はもう嫌だと女優らが叫ぶ Photo:Abumi

SNSやメディアを通じて、沈黙を破り、セクハラや性暴力被害を受けてきたと話し始めた人たち。この人たちの声や名前は文字となり、ネットや紙媒体で触れることができる。しかし、実際に、本人たちを目の前にすると、大きな衝撃を受けるだろう。

ノーベル平和賞授与式が開催された10日の夜。オスロのカール・ヨハン通りでは、人々が受賞者を祝っていた。撮影を終えて、筆者はすぐさま国立劇場へと向かった。

その日、200人のノルウェー人女優たちが、舞台に立ち、匿名のセクハラ被害エピソードを読み上げるという異例のパフォーマンスがおこなわれていた。

「#撮影のために」というハッシュタグをつけて、590人以上の女優たちは、地元の大手新聞アフテンポステンで、本名を公開して、抗議書簡を掲載していた。

※当初は487人だったが、100人以上が後から参加した

その女性たちの匿名の体験を、セクハラ文化を非難する200人の女優たちが代弁したのだ。

高校生向けの大ヒットドラマ『SKAM』で、主人公ノーラを演じたジョセフィーネ・フリーダ・ぺッテルさん、元文化大臣で女優のエレン・ホーンさんもその中にはいた。

女優たちはマイクを前にエピソードを読み上げた。マイクの前で無言のまま、立ち去る人もいた。未だに声を出せずにいる女性たちを、彼女たちは演じた。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi

望んでいなかったのに、胸を触られ、キスをされた。下半身に指を入れられた。ペニスを押し付けられた。多くは権力がある年上の人々による行為だった。

『人形の家』の国で、女性たちに何が起こっていて、何が無視されてきたのか

伝統あるオスロの国立劇場では、ノルウェーを代表する劇作家ヘンリック・イプセンのためのイプセン祭も開催される。ノルウェー演劇の歴史を象徴する場所だ。

イプセンといえば、女性の新しい生き方を描いた『人形の家』などを世に送り出した。

今、ノルウェーの女性たちは、また新たな一歩を踏み出そうとしている。

※『人形の家』は北欧の男女平等の流れを理解するには必須教材なので、読んだことのない人がいれば、時間がある時にぜひ手に取ってもらいたい

#MeToo を理解するには、もっと時間が必要な人もいる

男女に限らず、#MeToo 運動には未だに抵抗がある人もいる。

舞台にでてきた女性のひとりはこう告げた。「声をあげて叫びたいと思っている人には、叫ぶ権利があります。 #MeToo を理解できないという人には、理解するまでの時間を与えられる権利があります」と。

なぜ自分は #MeToo にモヤモヤした嫌悪感を感じるのか。なぜ自分は声を出せずにいるのか。自分はもしかしてセクハラをしてしまったのだろうか。これからの世代が同じ体験をしないために、自分には何ができるのだろうか。女性である自分は、なぜ #MeToo に賛同する女性に違和感を感じるのだろうか。

見て見ぬふりをされてきた文化・タブーのために、考える時間が必要な人もいる。

これからもずっと、 #MeToo は理解・賛同できないという人もいるだろう。

「女性から男性への攻撃」ではなく、「強者が弱者にしてきた権力の悪用」に対する、「もうやめよう」という動きだということは覚えておきたい。

女性たちの体験が読み上げられる度、筆者の隣に座っていた女性は、苛立っていた。「なぜあんなことになったのか。私のせいだろうか」と読み上げた女優がいた時に、「違うわよ」と大きなため息をついていた。

会場は満席だった。

セクハラやレイプされたと打ち明けることは、簡単ではない。信じてもらえるかもわからず、仕事を失うかもしれない。

だからこそ、セクハラされた人たちの声を他の人が代弁する。新聞社やテレビ局が代わりに報道する。一人ではなく皆で一緒に「これはおかしい」と声をあげる。

「このタイミングを逃したら、セクハラ文化はこれからも続く」という、嫌というほどの認識もあるのだろう。

セクハラされても沈黙、セクハラする人が得する社会。今までの「当たり前」とは、さようなら

「セクハラされても、沈黙・泣き寝入り」が、これまでの常識だった。

「セクハラする人が損する社会」を、「新しい当たり前」にしていこうという動きが、ノルウェーでは目立っている。

匿名告発者が多いなど課題もある。だが、これだけたくさんの告発者がでてくると、もはやこれが社会問題であり、変えなければいけない悪しき文化だということは、共有されつつある。

「フェイクニュース」やメディアの信頼度が議論されてきた今年。セクハラに沈黙してきた女性が多いことから、#MeToo には窓口となるジャーナリズムも必要とされている。

#MeToo は左派的な動きではない

ノーベル平和賞の晩餐会に参加しなければいけなかった首相は、動画で応援する Photo:Asaki Abumi
ノーベル平和賞の晩餐会に参加しなければいけなかった首相は、動画で応援する Photo:Asaki Abumi

MeTooは、特に左派的な動きでもない。

右派・左派問わずにメディアや政治家も賛同している。ノルウェー政府は、保守的とされる中道右派政権だが、対応に乗り気だ。

伝統的な右派メディアの代表となる産業紙DNさえも、連日大きく特集している。ビジネス界にセクハラがまん延しているからだ。

ノルウェーのアーナ・ソールバルグ首相(保守党)は、会場には足を運ぶことができなかったが、動画を通して、応援した。「平等の国だとされるノルウェーですが、まだまだ道のりは遠いということが分かりました。もう、私たちが我慢できないところまできましたね」。

ノルウェーでは、目立つ演出や形だけだけで、実際に効果があるかはわからないとされる政治を「シンボル政治」という。SNSで叫んだところで、何も変わらないだろうか。

国立劇場の執行委員会リーダーであるスミットさんは、「 #MeToo のシンボル効果」には、大きな影響力があると語る。「もう、こんなことは十分。この現状を変えるために、権力がある全ての人、私たち全員に責任があり、できることがあります」と舞台で話した。

ハウグリ労働大臣 Photo: Asaki Abumi
ハウグリ労働大臣 Photo: Asaki Abumi

劇場にはアンニケン・ハウグリ労働大臣(保守党)の姿があった。

「辛い記憶を共有してくれて、ありがとう。他の人たちの代わりに声をあげてくれて、ありがとう。私たちは、ノルウェーを、もう少し良い社会へと変えようとしています」。

「私は新聞でのエピソードを全て読みました。リーダーたちは、何が起きているかを知りながら、見ないふりをしてきました。多くの人が、今まで声をだすことができなかったでしょう。ひとりぼっちの闘いは、もう終わりです」。

読み上げられた匿名ストーリーの一部

  • 30歳年上の有名な男優に、彼の子どものベビーシッターをしながら、劇の練習をしようと言われました。彼の家につくと、彼の家族は誰もおらず、私はレイプされました。怖くて固まり、私は声をだすことができませんでした。ベッドで、彼は私にピルを飲むように言いました、もう子どもはいらないと。研修生だった私は、「騒ぐな、面倒なことをするな」と、自分に言い聞かせようとしました。
  • 食堂で食事をしていると、別の男性が座ってきました。そして、言いました。「彼女と一緒に劇場地巡りをするのは、楽しくないよ!だって、セックスするのは嫌だっていうんだ!」
  • 映画の撮影のために、監督の前で何度も服を脱がなければいけませんでした。そのシーンは、映画で必要とされないものでした
  • 元女性首相もセクハラを体験。 #MeToo はもう十分だという男性へ、ノルウェーでの議論
Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi