社会の分断を越えて「民主的な会話」をどう実現するか
自分とは異なる意見を持つ人に対して怒りや苛立ちを覚えることは珍しくない。しかし、分断が進む現代社会で、互いの違いを尊重し合いながら対話を進める「民主的な会話」は、いかにして可能になるのだろうか?
この問いに対する答えの一つが、ノルウェーの首都オスロで見つかるかもしれない。最近、「オスロは語る」(Oslo snakker)というイベントがノーベル平和センターで開催された。
プロジェクトは、ドイツの新聞Die Zeitによって開発された「My Country Talks」というコンセプトに基づいており、ノルウェー福祉局、公共図書館、ノーベル平和センターが共同で企画した。2017年から始まり、今では100カ国で20万人以上が参加する国際的なイニシアティブに成長している。
10のルール
- 相手の声に積極的に耳を傾けましょう
- オープンな質問をしましょう。対談者に対して好奇心と関心を抱きましょう
- 一度にひとつの話題に集中しましょう
- 相手の話をさえぎったり、口を挟んだりしない
- 自分の思い込みや偏見を捨てましょう
- 同意する点を明確にし、言葉にしましょう
- 自分の見解がどうしてそうなるのか、背景を説明しましょう
- 事実に基づき、敬意を持って批判しましょう
- 自分の内なる声を発しましょう
- 意見を変えることにオープンでありましょう
感情的になりやすい話題について話そう
オスロの市民たちは以下のような問題について話し合った。
- オスロでの車所有は困難か?
- 大麻の合法化は適切か?
- PRIDEパレードへの保育園・幼稚園・小学校の参加は適切か?
- キャンセルカルチャーは問題となっているか?
- オスロは安全な街か?
- 政治家は信頼されているか?
- 肉の消費を止めるべきか?
- ノルウェーはイスラエルに対して制裁を課すべきか?
参加者は相手の意見に耳を傾け、敬意を持って批判し、自身の意見を開かれた心で表現するよう励まされた。
このような空間なら、安心して話せる
対談後にカトリーネさんはこう話す。
「意見が違う人と対話することは事前から分かっていましたが、職場からここに来るまで緊張していました。相手の男性は私と意見が違いましたが、『どうして、このように考えることになったのか』という個人的な話を語ってくれたんです」
「家族関係や社会背景によって、この人はこう考えるようになったんだ」は大きな気づきだったと語る。意見が違う人たちにもっと好奇心を持つことの重要性を感じたという。
「最も緊張した質問は、私自身がよくわかっていないテーマでした。でも、ここでのイベントは『議論』ではなく『おしゃべり』だったこともあって、安心して話せる空間が提供されていた」
メディアや自治体にできる「建設的な対話空間」の提供
オスロ市長のアンネ・リンボー氏(保守党)は、対話の重要性を強調し、「市民が互いに意見が異なるという状況に慣れ、理解し合う努力をすることが今求められている」と語った。
市は教育現場でも同様の対話促進プログラムを実施しており、市民が対話するスキルを身に付けることができるよう支援している。
日本のメディアは「建設的ジャーナリズム」の事例を求めて欧州や北欧に関心を持つ傾向があるが、メディアが企画の立案者となることが多いこの企画はまさに良いモデルとなるだろう。また、社会の分断が問題視される現代で、自治体が市民にこのように「安全・安心に」意見が違う人と語り合える空間の提供は、これからより必要とされる動きではないだろうか。
執筆後記 ~あなどれない、コーヒーとパンの役割~
意見が異なる人々と直接対話する際の緊張を和らげるためには、コーヒーやシナモンロールといった北欧の「フィーカ文化」が大いに役立つことが、このイベントで改めて確認された。
日本でも、選挙の場で無料配布が難しい中、このような文化的要素を取り入れることで、より建設的で心地よい対話の場を創出できるのではないかと考えられる。