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闇市場で1日4万円稼ぐ移民。殺人や窃盗で逮捕者も…国境から到着した「15万人」その後

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
昨年8月、NY市内の移民一時受け入れセンター(旧ホテル)前で路上に座る人。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは2022年以降、テキサスなど南部の州からニューヨークやロサンゼルスなど全米各地に大量の移民が送り込まれる事態になっているのは、これまで何度か伝えてきた。

その後も数は増え続け、同年春以降、ニューヨークにバスで送られてきた亡命希望者数は、ニューヨークタイムズによると15万100人(昨年12月上旬時点)、最新の情報では15万7000人にも上る。多い時で週ごとに数千人規模の新たな移民が到着し、当局は対応に苦慮している。

この街にやって来た移民は今どうしているのか。その後の彼らを追う。

22年10月11日、テキサス州からニューヨーク市内にバスで送られた移民。
22年10月11日、テキサス州からニューヨーク市内にバスで送られた移民。写真:ロイター/アフロ

NYに送られた亡命希望者「15万人」の今

南部の州からニューヨークに送られた亡命希望者の多くは、マドゥロ政権下のベネズエラ出身だ。また近ごろはアフリカや中国の出身者も増えている。

彼らの多くはニューヨークに到着後、ホームレスシェルター、仮設テントの避難施設、廃業後のホテルを利用した移民受け入れセンターなど、市内200箇所以上の収容施設に滞在している。

ニューヨーク市ランドール島に開設した移民の収容施設。
ニューヨーク市ランドール島に開設した移民の収容施設。写真:ロイター/アフロ

例えば、市内のホームレスシェルターに滞在中の移民は6万7200人(昨年11月末時点)に上り、昨年市内のホームレスシェルターの収容人数が過去最多を記録した。収容施設は足りておらず、州では今後の対策として精神病院の駐車スペースを利用する予定だとしている。

移民受け入れの最たるメリットは労働力だが、市ではあまり機能していない。

亡命希望者は通常の難民と異なり、到着後すぐに働くことができない。亡命申請書が受理された後、一時的な労働許可申請ができるのは150日後のことだ。つまり到着後、約半年間ほどは合法的に働けないことになる。

市は亡命申請者のためのヘルプセンターを開設したり、連邦政府に対して彼らが早く自活できるように迅速な就労許可を発行できるよう支援を求めたりとさまざまな策を講じている。就労許可を得て真面目に働いている人もいるが、全体を俯瞰して見ると、それほど功を奏しているようには見えない。

亡命希望者たちも、何もしないまま半年も待てないのだろう。筆者もこの1、2年で地下鉄内やハイウェイの入り口でキャンディーを売り歩く人が増えたと実感する。駅ではストリートパフォーマンスをしている人を見かけた。

ニューヨークポストは「到着したばかりの移民の多くは自らのコミュニティに独自の地下経済(闇市場)を構築し、不法労働者として仕事を得ている」と報じた。例えば無許可で自作フードの移動販売や配達、ビルの解体作業、飲食店の調理、清掃、飴売りなどに従事しているという。

5ヵ月前にニューヨークに到着後、フード販売の手伝いをするある女性は、1日300ドル(約4万4000円)を稼ぐと同紙に語っている。当然それらは現金ビジネス、つまり現金収入=納税されないため、税収にならず市にとっては何のメリットもない。

殺人、暴行、集団窃盗...罪を犯す移民も

このように移民政策が機能していない現状では、例え違法であっても真面目に勤労している者はまだマシだと言える。中には新天地で犯罪を犯し、市民に迷惑をかけている輩もいるのだから。

ここに来て、到着したばかりの移民による犯罪のニュースもたびたび耳にするようになってきた。

NBCニュースによると今年1月6日、市内の仮設テント避難施設内の食堂で、移民同士が口論となり、26歳の男性が24歳の男に刺殺される事件が起こった。

ほかにも高級店での集団窃盗や収容施設内でのレイプが起こっている。例えば今年に入り、移民集団が高級デパートでブランド物のサングラス、総額5300ドル(約77万円)相当を盗んだ事件があった。

つい先週はNYPD(NY市警察)の警官が、移民によって集団暴行され、打撲を負った。

先月27日午後8時30分ごろ、中心地タイムズスクエアの路上で8人の男(+現場にはほかにも複数の男たちがいた)が警官2人に殴る蹴るなどの暴行をし、5人が逮捕された。残りは逃走中だ。逮捕者は19歳〜24歳で全員ベネズエラ出身。7人は昨年末にニューヨークに到着したばかりで、市内の移民保護施設に滞在中だった。彼らには就労許可証がなく、中には到着後に窃盗などすでに2件の刑事事件で逮捕された強者もいるとニューヨークポストは伝えている。

当地はサンクチュアリーシティ(聖域都市)のため、連邦移民法執行機関とNYPD間の協力(刑事被告人であっても移民局に通報すること)は法律で禁じられていると同紙は伝える。

これに対して当然疑問の声が上がっている。共和党議員を中心に、これらの亡命を希望する容疑者の国外追放が提案されている。被告人は有罪判決後に「移民の保留」対象となり、刑期を終えた後は強制送還の対象となる。下院議員からは「この街にいながら罪を犯すならば、市民になる機会を放棄したと見なされるはず」「警官への暴行は国外退去対象になる種類の犯罪だろう。なのに被告人を“即追放”できない理由がわからない」という声が上がった。法律の専門家からも重犯罪者は聖域都市の恩恵を受けるべきではないとの意見が出ている。それらについてキャシー・ホークル州知事は記者会見で「検討されるべきもの」「裁判官と検察官には正しい判断を求める」とコメントした。

警官への暴行に加わった者は全員、警察官への暴行罪などで起訴されたが、保釈金なしでその後釈放され、一部の報道ではうち数人はカリフォルニアに逃亡した疑いもあると見られている。新天地でこのような味を占めた者が将来、暴力をエスカレートさせなければ良いが。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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