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中南米からの不法移民 今年だけで200万人超。大群に混じり「命がけで北上する中国人」も急増

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
メキシコのタパチュラで先月30日、米国国境を目指して大移動する人々。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ国内の大都市では亡命希望の移民が急増し社会問題になっているが、そんな今も、アメリカへの入国を試みるためメキシコとの国境へ北上する移民の数は増え続けている。

そのような移民キャラバンはバイデン政権下の2021年以降急増しており、月ごとの数は20万人超。昨年は1年間で221万人がメキシコとの国境から不法入国した。今年は現段階ですでに205万人を超えるなど、2年連続で200万人超えとなっている。

上記の数は米南部の国境から不法入国した人だけの数であり、正式なプロセスで検問所を通過した移民や、ウクライナ、アフガニスタンなどほかの地域からの移民や難民の数は含まれていない。

なぜこれほど多くの不法移民が大挙してアメリカに押し寄せているのかについて、前述のニューヨークタイムズ(先月29日付)にはいくつか理由が書かれている。

まず一つは、米政府の政策の変更だ。コロナ禍で適用されていた移民政策「タイトル42」は感染拡大防止を理由に、不法に国境を越えようとした亡命申請者を米国内に滞在させず即時に強制送還するものだったが、今年5月に失効した。

また関連諸外国の不安定な情勢(政治や経済の崩壊、治安悪化など)も関係している。さらに単独ではなく家族と共に越境を試みる移民が増えていることも、人数増加の要因になっている。

不法越境を防ぐために、バイデン大統領は先月5日、最長約32キロメートルの新たな「国境の壁」の建設を再開する方針を発表した。国境の壁はトランプ前大統領が推し進めた政策の一つだったが、バイデン大統領は就任初日に建設中止を宣言していた。しかし次期大統領選を前に、不法移民対策の方向転換をした形だ。

違法越境の移民の出身国は?

移民キャラバンの出身国について、前述のメディアによると、歴史的に見てメキシコが圧倒的に多かったが、この10年間でエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスが急増し、2020年ごろまでその4ヵ国が大多数を占めていた。近年はコロンビア、キューバ、ニカラグア、ペルー、ベネズエラからの移民も増加している。

加えてここにきて、意外なある国出身者が増えているという。それは「中国」だ。

先月30日付のNBCニュースAPなどは、「抑圧的な政治情勢や見通しが悪い経済状況から逃避した中国人移民が急増。危険なパナマのジャングル、ダリエン地峡を通過し、命がけでアメリカに向かっている」と報じた。

ダリエン地峡を歩いて通過し北上する中国人の数は増加しており、今年1月の時点で913人だったのが9月には2588人に急増し、今年だけ(9月までの時点)で1万5567人にも上った。昨年は2005人だった。さらには2010年から21年までの合計376人と比べると雲泥の差だ。

また、アメリカ・メキシコの国境警備隊が不法越境で逮捕した中国人の数は今年だけで2万2187人にも上る(9月までの時点)。これは昨年同時期の約13倍の数だ。

未開のジャングルとして知られるダリエン地峡は、マラリアなどの感染症、毒蛇、ギャングなど犯罪組織による性的虐待や人身売買などさまざま危険因子があり非常にタフな場所とされている。今年の9月までにダリエン地峡を通過したのはベネズエラ人、エクアドル人、ハイチ人に次いで4番目に中国人が多かったという。

今年4月、米テキサス州で、リオグランデ川を渡ってメキシコから違法入国後、国境警備隊に見せるために持ち物をビニール袋に入れる中国からの移民。
今年4月、米テキサス州で、リオグランデ川を渡ってメキシコから違法入国後、国境警備隊に見せるために持ち物をビニール袋に入れる中国からの移民。写真:ロイター/アフロ

このルートを通る中国人は、まずビザが不要なエクアドルに飛行機で入国する。その後、金を払った業者のサポートを得ながら、アメリカへ向け北上するという。このようなルートを辿る中国人移民の多くは家族を帯同しない独身の成人で、翻訳アプリの普及でスペイン語や英語が話せなくても移動は問題ないという。このような中国からの移民は、習近平国家主席が憲法を改正して国家主席の任期制限を撤廃した2018年から増加し始めた。ただし、移民に混じって中国のスパイが潜入する可能性があると警鐘を鳴らす専門家もいる。

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(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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