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バイデン勝利に祝意を示した菅氏 一方で「現大統領に無礼では」と沈黙している国はこんなにある

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ大統領選でバイデン氏の勝利に沸くニューヨークで、筆者の知り合いが面白いことを言っていた。

「退役軍人のおじいさんが(大統領選の勝利が決まった日に)言っていたんだけど、この欧米が共に喜び合っている姿は、まるで第二次世界大戦が終わったあの日の再来のようだ、だって」

バイデン氏が7日、勝利を確実にしたことを受け、世界各国の指導者から、続々とバイデン氏に向け祝辞が発信されている。

友人が教えてくれたように、確かにヨーロッパ諸国が多い。イギリスのジョンソン首相、ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのコンテ首相、カナダのトルドー首相、そのほかハンガリー、アイルランド、スコットランド、インド、オーストラリア、イスラエル、フィリピン、ニュージーランド・・・。

手のひら返しと言えなくもないようなその早々とした新大統領への祝意は、EUがアメリカと共に取り組んでいきたい環境問題で、パリ協定からの離脱など、トランプ大統領が及び腰だったというのも大きく関係するのだろうか。(バイデン氏はパリ協定復帰の意向)

ジョンソン首相より

  • バイデン氏と、史上初(の女性および有色人種の米副大統領)を成し遂げたハリス氏にお祝いを申し上げます。アメリカは我が国にとってもっとも重要な同盟国です。気候変動、貿易、安全保障など我らの優先課題において、緊密に協議できる日を楽しみにしています。

日本は、前首相の安倍氏が世界が羨む仲とも言われるほどトランプ大統領と親密な関係を築き、日米同盟を強固なものにしてくれたので、安倍氏が去った後の日本の出方が、筆者は気になっていた。現在までに安倍氏からはコメントはないが、菅首相から早々にバイデン氏に向け、祝辞が発表された。

この後にもう一度、記者会見と首相官邸のツイッターで、日米両国が自由と民主主義の普遍的価値観を共有する同盟国であることを強調し、日米同盟をさらに強固なものにし、インド太平洋地域の平和と繁栄を確保していくために共に取り組んでいきたいと述べた。

沈黙を守る国々

一方、選挙不正があったことを主張しているトランプ大統領自身がまだ敗北を認めておらず、今後法廷闘争となるため、世界中には「沈黙」をしている国々がある。

日本時間の11月10日午前8時現在、バイデン氏勝利に対する祝意など、正式なコメントが国の代表から発表されていないのはロシア、中国、ブラジル、メキシコ、トルコなどだ。(北朝鮮も)

まずロシアだが、アメリカとはオバマ政権下で関係が悪化したこともあり、2016年にトランプ氏が大統領に当選した際、プーチン大統領が世界の首脳陣の中でもっとも早く祝電を送ったことが報道された。トランプ政権下では二国関係がやや改善されたとされており、ロシア当局は9日、どちらの候補者になってもアメリカと共に協議を重ねる準備があると発表したが、当のプーチン大統領は今回の選挙後、沈黙を保っている。

プーチン氏同様に、前回の選挙ではトランプ氏の勝利が予測されてからわずか数時間後に、祝辞を送ったとされる中国の習国家主席も、今回ばかりは慎重な姿勢を見せている。中国外交部の報道官、ウェンビン氏は9日「アメリカの司法に従い決定されることだろう」と発表した。

アメリカによる移民政策をめぐる問題が山積みのメキシコだが、トランプ大統領とは良好な関係性を築いているとされるオブラドール大統領。トランプ氏について「我々を干渉せず、尊重してくれている」と評価の姿勢を見せており、選挙結果については「無礼で軽率な行動を取りたくない」「すべてが法的に解決されるまで待ちたい」との発表が報じられた。

「ブラジルのトランプ」とも揶揄され、トランプ氏と親密な関係を築いているブラジルのボルソナロ大統領も、先月記者団に向け、トランプの2回目の就任式に出席するのを待ち望んでいる旨を伝えたが、その後は選挙結果について沈黙したままだ。

トランプ氏が「良い関係性が築けている」と以前述べていたトルコのエルドアン大統領からも、コメントは発表されていない。(もちろんと言うべきか、北朝鮮の金委員長も沈黙)。

混沌としたアメリカ大統領選の現状について、各国の出方はさまざまに分かれている。

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(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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