ボルトンも賞賛!安倍首相に米各紙は「トップが頻繁に交代する国で功績」「達成できず」と評価入り乱れ

辞意表明をした安倍内閣総理大臣。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

安倍晋三内閣総理大臣の辞任のニュースが、世界中に伝えられた。

ここアメリカでは今週、大統領選に向けた共和党大会が行われ、安倍首相の辞任会見の6時間前、その4日間の幕が閉じたばかりだった。辞任の速報は、そのような中で電撃的に入ってきた。それらの情勢もあり、翌朝の各米紙の一面を飾ったのは、共和党大会の総括とBLM(人種問題を超え、政治的な話になりつつある)、そして南部を襲ったハリケーンローラの爪痕に関する見出しだった。

しかし、アメリカにとってもっとも重要な同盟国の1つである日本の首相の辞任であるから、こちらも大きなニュースとして取り扱われている。翌日のアメリカの各主要メディアには、安倍氏の功績を讃えた内容から、達成できなかった点についての辛辣な意見までさまざまな論説が並んだ。

ニューヨークタイムズ紙は「Shinzo Abe, Japan’s Longest-Serving Prime Minister, Resigns Because of Illness」(日本で最も長く首相を務めてきた安倍、病気で辞任)という見出しや、「The Legacy of Shinzo Abe, Japan’s Departing Prime Minister」(辞任する日本の首相、安倍のレガシー)などという見出しが並んだ。

同紙は、安倍氏の後任が受け継ぐ最大のレガシーとして「過去の首相に比べ誰よりも長く在任をまっとうし、国際舞台で日本の存在感を高め、諸問題の解決に取り組んできたことだ。これらは日本で以前あまり目にすることがなかった」とするハワイ大学のアジア研究助教授、クリス・ティゴベラ氏のコメントを引用。「首相の離職率が高く、短期間で頻発に入れ替わることが常だった日本において大きな功績」と讃えた。

憲法改正、ロシアとの平和条約締結、北朝鮮拉致問題の課題を達成できなかった事実も伝えながら、「(アメリカでは信じられない辞任の多さである)5年間で6人目の首相として、2012年に就任して以来、東日本大震災の復興を先導し、日本経済を回復させ、中国の習近平国家主席との良好な関係維持に努めてきた」と評価した。

またトランプ大統領との関係性については、「行動が読みにくい(扱いにくい)大統領に媚びを売ってきた」と皮肉を述べながら、「世界の首脳陣ではおそらく少し変わった外交スタイルながら、安倍氏はトランプ氏と個人的に親密な関係を築いた。これにより日本の人々の多くは、貿易取引の不利や米軍基地支援の増額要求を避けることができたと考えている」とした。

(何かあればツイッターで声明を出すトランプ氏だが、今のところ安倍氏についてのコメントは発表されていない)

ザ・ウォール・ストリート・ジャーナル紙でも、辞任に関する記事がいくつか並んだ。

2016年、オバマ前大統領が広島を訪問した際の写真が大きく掲載されたこの記事でもやはり、トランプ氏との仲について触れている。「8年ぶりの次のリーダーは、安倍氏がトランプ氏と築き上げた関係を維持する課題に直面することだろう。両氏はゴルフを5回共にし、安倍氏はトランプ氏にお近づきになりたい(世界中の)人々から嫉妬を集めるほどの関係性を築いた。そして主要な同盟国として、東京(注:ここでは「日本」の意味)を台頭する中国に対しての防波堤として強く位置付けた」。

また、「日本はトランプの怒りを受けておらず、アメリカ軍の一方的な撤退というドイツのようにもなっていない。これらは安倍氏が残した成功の1つだ」とする、米シンクタンク、ウイルソン・センターの北東アジア担当、後藤志保子氏のコメントも引用した。

一方、別の記者が書いた、「Japan’s Shinzo Abe Leaves ‘Abenomics’ Project Unfinished」(日本の安倍、「アベノミクス」プロジェクトを完了できず)とする記事も見受けられた。

記事では「在任中に日本経済は第二次世界大戦後最大の成長を遂げ、失業率は4半期ぶりの低水準に落ち込み、主要株価指数は倍の値上がりを見せた」と一定の評価をしつつも、首相は経済の立て直しを約束したにもかかわらず、生産性や働きやすさでは他国と比べ依然劣っており、アベノミクスで未解決の課題を多く残したとした。

安倍首相が2013年、イギリスを訪問した際に行った演説も振り返った。「日本の規制体制は硬い岩盤のようだが、打ち砕く役割を果たすつもりだ」「日本を素晴らしい国、強靭な国にし、次の世代に引き継ぐことができなければ、今まで生きてきた人生に意味はない」など、希望にあふれる力強い演説内容だったが、実際にはなかなか思惑通りにいかなかった首相の苦悩を、四半期別GDPの前年同期比を表すグラフなどと共に紹介した。

ワシントンポスト紙にも、辞任に関する記事が並んだ。

「トランプにとっては、世界の舞台で最も親しい友人の1人が去ることになる。2人は国粋主義的な考え方を持ち、メディアへの不信感を共有し、ゴルフで絆を深めた者同士」と、ここでもトランプ氏との関係性がフォーカスされている。

「安倍氏はアメリカと強い同盟関係を維持し自由貿易を擁護してきた。しかし取り組んできたことを成し遂げられないまま辞任へ」という論調は、ほぼ前2紙と同じだ。

「安倍氏はアベノミクスを通して日本経済の再生に努め、何百万人もの雇用を創出したと誇ってきたが、低迷する日本経済にダイナミズムを取り戻すための必要な構造改革を推進できなかった」「中国や韓国との関係は、領土問題や歴史問題などから時として緊張したものになっている。また日本が直面している長期的な課題、例えば加速する人口減少や高齢化、気候変動問題に対処しきれておらず、いまだに石炭火力に依存している」などとする専門家の意見も交えた。

同記事は、石破茂氏、岸田文雄氏、菅義偉氏など後任候補についても紹介した。

「日米両国にとって大きな損失」とボルトン氏

ワシントンポスト紙ではほかに、興味深い人物からの「贈る言葉」も見受けられた。

それはジョン・R・ボルトンだ。ボルトン氏はトランプ政権で国家安全保障を担当してきた前大統領補佐官で、今年6月にトランプ氏の暴露本を発売したばかり。安倍氏が内閣官房副長官をしていた2002年8月に東京で初対面し、18年来の仲になる。

ボルトン氏は同紙のオピニオン欄の中で、「Abe will be missed*, not least because he tethered Trump somewhere close to reality」安倍がいなくなってこれから寂しく思われるだろう。とりわけトランプを現実に近い場所につなぎ止めた人物として)という記事を発表し、安倍氏の功績を讃え労った。

(* 良い印象の人物について「将来あの人の存在は素晴らしかったと思い出すだろう」「その存在がもうないことを寂しく思うだろう」という意味で使われる言葉)

記事の中でボルトン氏は、「安倍氏の辞任は日米両国にとって大きな損失」と語った。その理由として、「前例のない長い任期で日本に安定をもたらし、世界情勢における東京(=日本)の影響力を増大させた」ことが大きいという。

ほかに、別の国々の失敗例と比較しながら「- 経済の結びつきが強い2つの大国間では避けることができない- 貿易や投資に関する論争を、東京とワシントンD.C.の間でうまく調整できたのは、安倍マジック(魔法)だ」、「安倍氏の紛れもない努力により、時として対立する日米同盟が強化されたことは間違いない。2国間の繋がりがそう簡単には切れない理由を証明したのは彼だ。東京(=日本)の次期首相はこのことも忘れてはならない」と発破をかけつつ、安倍氏とその功績を褒め称えた。

「安倍の次は誰? 」という声

この速報が入って以来、筆者の周りでは日本びいきの友人らとさっそくその話題になっている。25年間にわたり仕事で頻繁に日本を訪れている友人は「こんなの見たよ」と、以下の記事を見せてくれた。

「Who is next after Abe? Potential successors」(安倍の次は誰? 可能性のある後継者たち)

この記事では「辞任のニュースで、世界第3位の経済大国の行方に注目が集まっている」と紹介した上で、候補者として麻生太郎氏、石破茂氏、岸田文雄氏、河野太郎氏、菅義偉氏、小泉進次郎氏、茂木敏充氏、加藤勝信氏と西村康稔氏、野田聖子氏という10名の政治家を挙げ、プロフィールが紹介されている。

中でも「自民党は暫定指導者として選出する可能性がある」とする麻生副総理をトップに紹介。河野防衛大臣については「米ジョージタウン大学で教育を受け、流暢な英語を話し、以前は外務大臣および行政改革担当大臣を務めた」などと紹介している。

以上、会見翌日の米メディアの報道のまとめだ。各紙でさまざまな論調が飛び交ったが、大概においては長い歴任とアメリカとの強い関係性を築き上げたこと、またさまざまな出来事が起こっている世界情勢の中においてもなお日本という国の情勢が大きくマイナスになることもなく安定しており、ミサイル、放射能、感染症などから可能な限り国民を守り抜いてきたことなどについては、十分に評価されるに値し、労いの気持ちを寄せる意見が多かったように思う。

安倍首相はここ数ヵ月は、持病の悪化とパンデミック対策により、なんとも辛い日々をお過ごしだったことだろう。私も心から敬意を払って「お疲れ様でした。ごゆっくり体調を整えてください」と申し上げたい。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止