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真夜中の一方的なトランプ「勝利宣言」と「票の集計を止めろ」発言の真相

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
投開票日の真夜中2時半に行った会見で、トランプ氏が語ったこととは・・・。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ大統領選の投開票日の真夜中、トランプ大統領は異例の記者発表を行った。

まず、開票結果が続々と発表され「勝利」を意識したのだろう。日付が変わった午前0時45分、トランプはこのようなツイートをしていた。

  • 今晩私は発表を行います。大勝利!(について)

その後、何百万もの投票がまだ未開票であるにもかかわらず、なんと午前2時30分という信じられない時間帯にホワイトハウスにて、トランプ大統領はメラニア夫人とペンス副大統領夫妻を伴って支援者らの前に現れ、異例とも言える一方的な「勝利宣言」と「集計差し止め請求」をした。

演説の概要はこちら。(数字はすべて、トランプ氏の記者会見時のもの)

歴史的な記録の投票数となり、素晴らしいムーヴメントだ。多くの人からの投票と支援に感謝をしている。

開票結果は素晴らしく、我々は多くの州で勝っている。今宵は大きな祝賀の準備をしているところだった。しかし突然、それらが停滞してしまった。権利を剥奪しようとする人々のことを非常に悲しく残念に思う。我々はそのような行為に屈しない。

我々は(激戦州である)フロリダ州で30万票の差で大勝した。オハイオも50万票(8.1%)の大差で勝った。そしてテキサスもそうだ。70万票の大差で勝った。

ジョージアでも11万票の差があり、残りはわずか7%と勝利が見えている。そしてノースキャロライナも7万7000票の差でリードし、残りは5%。アリゾナもそうだ。もはや(現段階で民主党が)巻き返せないくらい、私が勝っている。ペンシルベニアでも69万票も大差で勝っている。これは(開票率が)過半数を超えた数字なので、もはや接戦とは言えない領域だ。【会場から大きな拍手】

ミシガンでも、我々は勝利に近づいている(実際にはバイデンが4万票リード)。ウイスコンシンでも勝ちにいく(その後バイデン勝利が確定)。勝ったテキサスでは、知事から正式に祝いの言葉をもらった。

(このように現時点での数字が勝利を表しているため)もはやすべての開票をする必要はないと考えている。

しかし彼ら(民主党)は勝てないとわかって、我々を法廷論争に持ち込もうとしている。(我々が勝利した激戦州で)彼らは何千万枚もの(違法の)投票用紙を人々に送りつけた(さらなる投票を促し、今後続々と届く郵便投票の集計を不正に追加しようとしている)。勝ち目はないのに(私の勝利への)流れが突然止められてしまったのだ。

これは全米規模の大きな詐欺であり、国にとっての恥である。これは実に悲しいことだ。なぜなら、率直に言って我々はこの大統領選で「勝った」のだから。【再び大きな拍手】

今から我々はこの国の良心に訴えかけ潔白を晴らしていく。法による適正な裁きが必要であり、我々は連邦最高裁判所に判断を委ねる。我々はもうこれ以上の集計(違法に追加されるであろうバイデン票)の差し止めを求める。本来午前4時にこのようなことをしてほしくない。

我々は勝つ。皆さんのサポート、そしてこの問題への尽力に感謝する。【この後ペンス副大統領の挨拶】

トランプ氏のこの勝利宣言は、アラスカ州で最後の投票所が締め切られてから1時間以上経った後だった。

また同じ時間帯には、民主党のバイデン氏が支持者に勝利への自信があると語っていた。この「勝利宣言」を受けてバイデン陣営は、「アメリカ市民の民主的な権利を奪おうとする、とんでもない露骨な行為」と非難した。

「偽り」と米メディアの反応

CNBCニュースは、「トランプは2016年の勝利後も、選挙の不正行為があったと主張し続け、今年も郵便投票による不正行為があると主張している。連邦最高裁が最初の裁判の場となることはほとんどなく、まずは下級裁判所での判決が通例のため『最高裁に持って行く』というのは何を意味しているのか不明」と報じた。

ビジネスインサイダーも、結果が出ていない段階での勝利宣言は「偽り」だとして非難した。また、最高裁の主張についてはCNBC同様に「どのような理由か、法的根拠が明確ではない」とした。

今回の選挙に注視している一般有権者にも話を聞いたところ、このような反応だった。

「選挙戦を闘っている候補者たちは、自分が勝つことを信じているので、このような勝利宣言を早々にするのは珍しいことではないし、マラソンランナーのように長い闘いの終盤戦でそのように言いたい気持ちもわかる。しかし勝利については各紙で『真実ではない』『偽り』と報道されていて、現段階では勝利を確定する『証拠』がまだない。これは明らかに“Premature”(時期尚早)だと思う」

仮にトランプの言う最高裁に持ち込まれた場合だが、これまで報道されてきた通り、リベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の死去後、後任として保守派のエイミー・バレット判事が指名され、10月27日に就任したばかり。これで9人の判事のうち過半数は保守派の6人、リベラル派は3人になったということも、ここで追記しておく。

今回の選挙は非常に荒れそうだ。

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(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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