絆はゆるくていい? 自殺の少ない町から探る生きやすさのヒント #今つらいあなたへ
強い絆は力関係が生まれ、ブルーになる確率も上がる?
旧海部町エリア在住の保健師・松原文子さんは、徳島県内でも自殺率の高い地域の出身で「旧海部町に比べると地元には強い絆があると感じる」という。 「私の中での『強い絆』のイメージは、たとえば近所の足が悪い隣人に対して『毎朝、自分が代わりにゴミを出します』と働きかけるような、私生活を削りながら互いをサポートし合うイメージです。強い絆は集団を統率しやすい利点がありつつ、助けてもらえないとダメになってしまう依存関係や、助けてもらったんだから何か返さないといけないという力関係が生まれやすい側面があると思っています。それによってかえって弱みを見せづらくなったり、ブルーになったりする確率が高まる気がします」
旧海部町エリアの中でも住宅が密集する鞆浦(ともうら)地区に住む松原さんは、「ここの近所付き合いはベッタリしていない」という。 「たとえばゴミ出しでも、外に出たタイミングで誰かに会ったら『ついでに持っていく?』と促したりする程度。『ついでに』『通りすがりに』というスタンスだから、助けたり助けられたりしても互いにちょっとのことだと思えて、力関係が生まれにくいんだと思います」
また、松原さんがこのエリアのコミュニケーションで「独特に感じる」と語るのが、「他者に興味がある人が多く、それを隠さずに相手に見せていくこと」だという。 「たとえば、『今日東京から取材が来る』と知っていて、町の中で『あの人がそうだ』と認識しても、普通はわざわざ本人には確認しにいかない。でも旧海部町の人は話しかけにいくんですよ。『あんた取材で来たんやろ?』『誰に話聞いたん?』『おもしろかった?』と。以前、徳島市で暮らす夫が土日にこっちに来たときにも近所の方々から、『あんた松原さんとこの旦那さんやろ?』『子どもの面倒見よん?』とやたら声をかけられたらしくて。夫から『お前、なんか悪いことしてないよな?』と本気で心配されました(笑)」