絆はゆるくていい? 自殺の少ない町から探る生きやすさのヒント #今つらいあなたへ
近すぎず遠すぎず「絶妙な距離感」を保ちながら、常に相手を観察している
旧海部町の人は「他人に関心が高い」という話は、海陽町を拠点にカキ養殖をする株式会社リブルの岩本健輔さんからも聞いた。
「僕は静岡県出身で2013年に沖縄から移住してきましたが、地域の人にはよく気にかけてもらっていると感じます。出張が多いので家の草刈りがおろそかになりがちなことが悩みなんですけど、そういうことを会話の中でポロッと口にしただけで60代や70代の方が草刈りをしてくれます。神社にも役員として関わっていることから、祭りで使う米もつくっていますが、近所の方が『出張でいないだろうから水の面倒は見ておくよ』と先回りしてくれることもある。悩みを直接言わなくても日頃のコミュニケーションの中でこちらの状況に気づいて、補ってくれている実感があります」 ただ、「近所付き合いはベッタリじゃない」と松原さんが語ったように、常に他者に関心を寄せながらも絶妙な距離感を維持していると岩本さんも感じている。
「このエリアの人との距離感は、絶妙なんですよね。日本の多くの田舎は、知らない人が家に上がり込んでいるような近すぎる距離感か、あいさつすらしてくれないくらい排他的な距離感かの、どちらかに振り切れていることが多いと思います。でも旧海部町のエリアは、こっちが必要なときには世話を焼いてくれるけど、必要のないときには特に会わなくても何も問題がない。近すぎず遠すぎることもない距離感なんです」
「集団内の年上は君付け、敬語はなし」脈々と受け継がれてきたフラットなコミュニケーション
コミュニケーションにおいて、もうひとつ特異なのはコミュニティーの中で「敬語を使わない」という点だ。 取材に応じてくれた消防団員らは全員が同じ鞆浦地区の出身で近所付き合いも多いが、年齢はバラバラで一番離れている者同士だと10歳差以上ある。それでも互いを「君付け」で呼び、敬語は使わずに会話をしていた。 留意しておきたいのが、誰彼構わず敬語を使わずに話すのではなく、コミュニティーの仲間内のみでその傾向があるという点だ。消防団のひとりが「親もそうだった」と話すように、集団内のコミュニケーションはフラットであるべきだという文化が脈々と受け継がれてきたことがうかがえる。