「ワニにヘリウム」笑えるだけじゃない研究の真意 イグノーベル受賞者に聞く
「なんでかな?」をちょっとやってみることが大事
――イグノーベル賞では、「笑える」だけではなく、「考えさせられる」という要素も重視されています。今回の研究で、先生が「はっ」と何かに気付かされたり、世界の見え方が変わったりしたことはありますか? 西村:ワニの“見てくれ”だけではなく、声も聞くようになりました。私の専門のサルも、声を聞くといろんなコミュニケーションをとっているんですよ。動物園では、ぜひサル山を見て欲しいと思います。 ワニも、まだ鳴き声の役割は分かりませんが、一頭が鳴けば他も鳴くわけですから、コミュニケーションをとっているんですよ。独りで生きているわけじゃないんですよ、ワニも。 ――最後にお聞きします。ヘリウムと鳴き声の研究のような、興味を持ったことに対してユニークな研究手法で世界の謎を解いていくという営みそのものが、一般的には「何のために?」と不思議に思われることもあるようです。先生にとって、このような「基礎研究」とはどのようなものでしょうか? 西村:「基礎研究」という四字熟語で書くと堅苦しい感じがしますが、ひらがなで「かがく」と書くくらいのものだと思いますよ。半分遊び心でやるもの、というのが私の感覚です。 「はて? なんでかな?」と思って、ちょっとやってみるかどうかだと思います。だってワニにヘリウムを吸わせているだけですよ。それをしてみようと思うかどうかですよ。 アリの巣を見つけた時に埋めてみたり、アリジゴクにちょっかいを出したりも、一種の実験ですよ。そういう人はもう科学者です。それが基礎研究なんだと思います。 ◇ ワニにヘリウムを吸わせてみた研究について聞いたとき、私も笑いながら「どうしてそんなことを?」という疑問を持ちました。研究の内容を調べて、西村先生の話を聞くうちに、私たちヒトはどうやって声を出しているのだろう、他の生き物とどう違うんだろう、声の調整は何を基準にやっているんだろうと、身近すぎて見過ごしていた疑問が次々と湧き出てきました。やはりイグノーベル賞は、笑うだけではもったいない。今回、西村先生からは「かがく」を楽しむ秘訣まで教えていただきました。疑問が生まれたら後はやってみるかどうか。イグノーベル賞の受賞業績で笑って、いろいろ考えて疑問が生まれたら、さっそく着手してみてください。 《参考論文》 ・Stephan A. Reber, Takeshi Nishimura, Judith Janisch, Mark Robertson, W. Tecumseh Fitch (2015). A Chinese alligator in heliox: formant frequencies in a crocodilian. J. Exp. Biol. 218: 2442-2447. doi: 10.1242/jeb.119552 ・S Blair Hedges (2012), Amniote phylogeny and the position of turtles. BMC Biol. 10:64. doi: 10.1186/1741-7007-10-64 ◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 山本朋範(やまもと・とものり) 1978年、大阪府生まれ。育ちは兵庫県。専門は進化生態学。企業の研究員、フィリピンの山岳地帯の駐在員、行政コンサル勤務などを経て、2016年より現職。生き物を見るのも飼うのも殖やすのも好き