「最強生物クマムシ」は月面で異常繁殖して怪獣化する?
今年4月に月面に墜落したイスラエルの無人月探査機「べレシート」がクマムシ数千匹を載せていたことが明らかになりました。「最強生物」とも呼ばれるクマムシが月面で異常繁殖し、揚げ句に巨大怪獣となって地球を襲うのではないかという噂がネット上などで流布しているようです。そのようなことは実際に起こり得るのでしょうか? 【画像】実は謎が多い水星 探査機「みお」と「MPO」が挑む“宿題”
「乾眠」で乾燥に耐えられるクマムシ
絶対零度(マイナス273.15度)に近い超低温から120度の高温、真空から6000気圧もの高圧、さらに人間の致死量の1000倍もの放射線にも耐える――。 最強生物として、すっかり有名になった感のあるクマムシですが、ここでもう一度クマムシの基本についておさらいしたいと思います。 クマムシは体長0.1ミリ~1ミリ程度の小さな生き物です。名前の通り、ずんぐりむっくりした体形で、4対の脚を持ち、のそのそ歩いて移動します。目に見えないほど小さく、かつ脚を持つ生き物といえば、ダニやノミなどを思い浮かべるかもしれませんが、クマムシは、これらの節足動物の仲間ではなく、「緩歩動物」と呼ばれるグループに属します。生息域は多様で、コケの中や土壌の中、果てはヒマラヤ山脈のような高地や深海底の堆積物の中にも暮らしています。 ただし、身体を覆うだけの水分がなければ生きていけないので、陸上ではコケなどに覆われた湿った環境の中で生活しています。しかし、陸上の湿った環境は、日当たりや風向きの変化によって、いつ乾燥するか分かりません。 そこで、陸生のクマムシは生活環境が乾燥すると、「乾眠」と呼ばれる状態に移行し、再び湿った環境に戻るまで動かずにひたすら耐えるという生存戦略を獲得しました。冒頭のクマムシの「最強」な特性は、この乾眠時に特有の強さなのです(ただし、放射線に対する耐性は活動時のほうが強いというデータもあります)。
地球生命や文化を宇宙に放つ計画
さて、今年4月に月面に墜落したイスラエルの無人月探査機「べレシート」に、そんな乾眠状態のクマムシ数千匹が載せられていたことがこの夏、ニュースになりました。 なぜ月探査機にクマムシを載せていたのでしょうか? それは地球生命や人類文明のバックアップを宇宙に放出するという、いわば「ノアの箱舟」の現代版のような目的のためだったようです。探査機にはクマムシのほか、地球や人類に関する大量のデジタルデータや人間のDNAサンプルも含まれていたといいます。