「ワニにヘリウム」笑えるだけじゃない研究の真意 イグノーベル受賞者に聞く
「笑えて、そして考えさせられる」研究に送られる「イグノーベル賞」も今年で30回目を迎えました。その中で「ヘリウムを吸わせたワニにうならせた研究」に対して“音響学賞”が送られました。受賞したのは、京都大学霊長類研究所の西村剛准教授をはじめ、Stephan A. Reber氏、Judith Janisch氏、Mark Robertson氏、Tecumseh Fitch氏の5人で、スウェーデン、オーストリア、米国、スイス、そして日本という国際的な研究グループです。 【画像】他にもいる?オスとメスで生殖器が逆の虫 イグノーベル受賞者に聞く
ヘリウムといえば、吸うことで声が甲高くなるパーティーグッズとしてもお馴染みの気体です。このニュースを見聞きした人は、笑いながらも「なぜそんなことをしたのか」と疑問に感じたのではないでしょうか。 こうしたユニークな研究に光を当てるイグノーベル賞では、毎年10タイトルが選ばれます。日本人が14年連続で受賞したことや、笑える研究というネタ的な要素の方にばかり注目が集まりがちですが、「しばらく頭に残っていろんなことを考えさせられる」という要素も見逃せない魅力です。 今回の受賞研究は、「ワニにヘリウム」という時点で既に面白いのですが、調べていくと、確かにいろいろなことを考えさせてくれる研究でもありました。研究の裏側について西村先生に話を聞きました。
ワニから「恐竜の声」の推測につながる?
その前に、西村先生の受賞研究について簡単に紹介しましょう。 この研究では、繁殖期にゲップのようにも聞こえる声でオスとメスが鳴き交わす性質を持つ、中国に分布する「ヨウスコウワニ」が使われています。メスのワニと水を入れた密閉容器の上部に「ヘリオックス」(ヘリウムガスと酸素の混合気体 ※1)を入れて、息継ぎで浮かんできたワニに吸わせました。他の個体の鳴き声の録音を聞かせて返事をさせ、その声を解析しました。 実験の結果、ワニの声もヘリウムによって変化することが分かりました。記事下のリンクから、ヘリウムを吸ったワニの鳴き声を聞くことができます。最初の2回の鳴き声(通常の空気)と比べて、続く2回の鳴き声(ヘリオックス)が変化していることが確認できますね。 「当たり前の結果」だと思うかもしれません。ところが当たり前ではないのです。 私たちが声を出すときには、喉の奥にある声帯で空気を「振動」させて音を出しています。加えて、その音が喉から鼻や口を通る時に「共鳴」が起こり、特定の高さの音が強く響くことで、複雑な音の成分が混ざった「声」として口から発せられます。 ヘリウムは空気よりも軽くて音を速く伝えるので、ヘリウムの中で共鳴を起こすと、強められる音の高さ(周波数)が高くなります。これによって、お馴染みの甲高い声に変わります。ですが、机を叩く「ドン」という音のような共鳴の成分を含まない音は、ヘリウムの中でも高くはなりません。同じ脊椎動物であっても、ヒトを含むサルの仲間や鳥類の声は高くなりますが、意外なことにカエルの鳴き声は高くならないという報告があります。 (※1)… ヘリウムに限らず、十分に酸素が混じっていない気体を深く吸い込むと、短時間でも人体に重篤なダメージを受ける危険性がある。声の高さを変えて楽しむ場合には酸素が適切に混ざったヘリオックスを使うのが望ましい。