「理解に苦しむものはみんな化け物扱い」――闘い続ける“不死鳥”、美輪明宏の人生
日本は文化国家であるべき
では、平和についてはどうか。戦後75年を迎える今日の日本を、美輪はどう見据えているのか。 「情けないですよ。立派な政治家が欲しいですね。だいたい日本が戦争に勝てるわけがなかった。私たちが竹やりや薙刀(なぎなた)の練習をさせられていた時、向こうは原爆を作っていたんだから雲泥の差です。それで戦争なんて、愚か以外の何物でもない。せっかく軍隊を放棄したのに、また復活させたいなんて馬鹿者もいて。冗談じゃない。 日本は、別名、大和の国っていうでしょ? 『大』きな『和』の国です。男も来い、女も来い、とにかく人間であればみんな来い。動物も来い。豊かな者も貧しい者も、きれいな者もきれいじゃない者も何でもいらっしゃい。大いなる心で和やかに輪になって暮らす国。それが大和の国です。そうじゃなくなったら、日本じゃなくなるんです」
そのために必要なこととは? 美輪は日本の「文化」こそが重要だと強く唱える。 「外国の人たちがうらやましがるのは日本の文化力です。元禄時代なんて、素晴らしい日本の文化が花開いた。紫式部のような女流作家が1000年も前にいて、それがいまだに読み継がれている。清少納言もそう。それから着物。日本には3000種類もの色の種類があって、風雅な名前が付けてある。そんな国、他にないんですよ。 文学、音楽、美術、スポーツといろいろありますけど、いずれも若くて素晴らしい人がいっぱい出てきているじゃありませんか。クラシック畑で優秀な人もいる。メディアもなるべく硬軟併せて喧伝をして、文化を育ててほしいですね。 武力は憎まれますけど、知力だったら尊敬されるんです。日本は文化国家でなきゃ、知力の国でなきゃいけません。武力はもうよその国に任せておけばいい。それを小学校から教えるべきです。それにはまず人柄もよく、知識や教養にあふれた、大人の見本みたいな先生が増えてほしいですね。学問だけじゃなく、一般教養とか知識とか、洗練された文化を身に付けていただきたい。生徒は教師を観察しています。最近は教員になる人が少ないというけど、尊敬されるような先生が増えれば、なり手も多くなるはずです」 人々の多くは、時に自分らしさに迷い、「自分に才能などあるのか?」と探しあぐねるものだろう。 「何もしないで『自分らしさ』と言っても、基本がないと揺らぐし、自分を責めるでしょう? そうなるよりも前に、『じゃあ、あんたは何ですか?』って切り返せるぐらいまで、己を知って、自己を確立する。まずはそれからです。自分がどういう系統に属する人間なのか? 方向が決まったら、知識と教養を身に付けて、それを揺るぎないものにしていくこと。ずっと探し続けてもいいんです。そのうち何か見つかりますよ」