Inside2024.08.29

ユーザーの投稿から防災へ――SNSの情報を有事に役立てるスペクティとの取り組み

Yahoo!ニュース トピックスでは、Xに投稿されたポストが検索できる「Yahoo!リアルタイム検索」との連携施策を行っています。2024年1月1日の能登半島地震発生時、Yahoo!リアルタイム検索にある「現地からのSNS投稿」をまとめたページをYahoo!ニュース トピックスとして掲出し、ユーザーに現地の情報を届けました。しかしSNSの情報、つまり「ユーザー生成コンテンツ」(以下UGC)には偽・誤情報が含まれる可能性があります。信頼できる情報を届けるための対策としてAI防災・危機管理情報サービスを提供するスペクティとの連携があったといいます。いかにYahoo!ニュース トピックスとして発信するに至ったのか、その経緯に迫ります。(取材・文:Yahoo!ニュース)

Yahoo!ニュース トピックスの編集部が語るUGCの真価

Yahoo!ニュース トピックスには公共性と社会的関心を軸として、社会に広く伝えるべき重要なニュースを、多くの人に届ける役割があります。世の中の動きが分かるサービスを目指し、日々さまざまなニュースを発信しています。ユーザーの投稿で「今」が分かる、Yahoo!リアルタイム検索との連携によって、どんなことをユーザーに提供できるようになったのでしょうか。Yahoo!ニュース トピックスの編集部、平野啓輔に話を聞きました。

――Yahoo!リアルタイム検索は、Xの投稿を活用したUGCサービスですが、Yahoo!ニュース トピックスとしてUGCサービスのどんなところにメリットを感じますか。

平野:ユーザーが今感じていることや、その場で撮影した動画や写真など、生の情報をリアルタイムに届けることができる点です。スポーツイベントでは、試合の速報だけでなく、他のユーザーが盛り上がっている投稿も同時に見ることで、一緒に応援している感覚を味わえます。

――SNS上の投稿を届けることで、一体感を味わう体験ができるようになったのですね。

平野:イベントごとに限らず、有事・災害の際もUGCサービスの強みを活かしたコンテンツを提供しています。1月の能登半島地震の際には、Yahoo!リアルタイム検索によって現地からのSNS投稿をまとめ、それを基にYahoo!ニュース トピックスを掲載しました。能登半島地震は、元日の16時過ぎというタイミングで、震度7という未曽有の大地震でした。津波が押し寄せていた状況や、メディアが簡単にたどり着けない土地であることなどが重なり、被災地の様子が入ってきづらい状況でした。そんな中で、当事者から投稿されたリアルタイムの情報は大きな価値があったと思います。

――有事・災害の際の情報の届け方は慎重になるものと思います。SNSの投稿を使うことに対する懸念はありましたか。

平野:有事・災害に関しては、Yahoo!リアルタイム検索の「事故・災害」タブでユーザーの投稿を見ることができます。ここでは、スペクティが提供するサービスと連携して情報を表示しています。同社のサービスは、SNSに投稿された情報の中から事故や災害に関する投稿をAIで収集し、どこで発生しているかも特定します。また、偽情報や誤情報を取り除いた正確な情報を提供する強みがあります。連携することで、UGCサービスの課題を払拭し、ユーザーの投稿を有益な情報として活用できているのではと思います。

「ユーザーが求める地域の情報を正しく届けることの難しさを感じていた」

Yahoo!リアルタイム検索の「事故・災害」タブ内では、スペクティと連携し、災害の種類や都道府県ごとにXの投稿をリアルタイムに掲載しています。この連携があってこそ、「災害・有事の際にXに投稿される情報を発信できる」と、Yahoo!リアルタイム検索の担当者である谷口尚子は言います。スペクティとの連携は、どのような変化をもたらしたのでしょうか。

――きっかけは何だったのですか。

谷口:この企画を考え始めたのが、ちょうどコロナウイルスが猛威を振るっていた2020年頃でした。全国各地でコロナウイルスによる被害が出ており、日々さまざまな情報が更新されていたような状況でした。ニュースでは取り扱われないような、ローカルの情報もたくさんありました。Yahoo!リアルタイム検索では、ローカルの情報も検知してユーザーに届けたいと考えていたところが、スペクティとの連携企画のきっかけになっています。

Xの投稿から何が起きているかは把握できても、どこで起きているのかが分かりづらいという状況がありました。当時のYahoo!リアルタイム検索では、投稿のテキスト情報から場所の判定は行っていたのですが、投稿そのものに場所の情報がなかったり、あったとしても「銀座」のように、全国各地に同名の地名が存在するなど、ユーザーが求める地域の情報を正しく届けることの難しさを感じていました。

――ローカルの情報を届けるためには、そのインシデント(事故、災害)がどこで起きているのかが分かるための位置情報が鍵になると思います。どのようにして正確な位置情報が分かるようになったのですか。

谷口: スペクティのサービスでは、Xに投稿されたテキスト情報だけでなく、画像や動画からもAIを用いて場所情報の判定を行っています。テキスト情報だけで位置を特定することが難しかったため、スペクティと連携することでYahoo!リアルタイム検索は大きく前進することができたと思います。

――ユーザーの投稿から位置情報を正確に割り出してくれるのは心強いところですね。

谷口:位置情報だけにとどまりません。一つはXの投稿を選定してくれるところです。発災時はたくさんの人がポストをするので情報があふれてしまい、当事者からの救助要請といった、本当に重要な情報が埋もれてしまいます。そこにスペクティを導入することによって、現地の様子や被害の状況が伝わる重要な投稿に絞ったタイムラインを提供できるようになります。これにより、災害の経過や全体像を一目で把握できるようになります。

もう一つは、偽・誤情報対策です。能登半島地震の際には岸田首相からも言及があったように、発災時にも偽・誤情報は多く拡散されています。スペクティではAIと人の目によってファクトチェックがされており、限りなく正確な情報を提供することで、信頼できるコンテンツを提供することができています。

最後は必ず人の目で確認

SNS上の課題を最小限に抑え、その利点を活かした情報提供を可能にした、AI防災・危機管理情報サービスを提供するスペクティ。サービス誕生のきっかけについて、スペクティ代表取締役CEOの村上建治郎さんに聞くと、東日本大震災のボランティアに参加した際に感じた「マスメディアの報道と現地のギャップ」だったと話します。

村上さん:テレビなどのマスメディアの報道では、基本的に被害が大きく、分かりやすい場所から中継することが多いです。しかしそれは実際に起きていることの一部分でしかないこともあります。ちょうど私がボランティアに入る直前に、宮城県石巻市に全国から多くのボランティアが集まっているという報道をテレビで見たのですが、その数日後に訪れた石巻市の隣の東松島市のボランティアセンターでは、なかなか人が集まらず、受付していた人も、本当に人が足りてなくて困っていると話していました。

――どのように情報収集をしていたのですか。

村上さん:当時はTwitterを使っていて、テレビでは流れないような情報をたくさん見ました。今この物資が足りていないなどの情報も見たので、東北へ向かうまでのスーパーで買って物資を届けに行ったりしていました。当時のTwitterは投稿に位置情報がついていることも多かったので、どこにどんなものが必要か、Twitterの位置情報をベースに被災地のニーズを地図上で見える化していったのが現在のビジネスの始まりでした。

――そういった経緯だったのですね。

村上さん:SNSは「リアル」を知るのには優れたツールだと思います。しかし、普及と同時に、偽・誤情報の問題も出てきました。SNSの情報にはそういった間違った情報が入ってきてしまうので、情報の信頼性の確保は大きな問題だと思っています。

――スぺクティの提供するサービスの大きな特徴に、偽・誤情報対策があります。どのような仕組みなのですか。

村上さん:立ち上げ当初は、1件1件人の力で情報が正しいかを判断して仕分ける作業を行っていました。その後、そういった作業の一部をAIに任せるようになり、そうするとAI側も学習データがたまっていき、情報の正誤判定ができるようになります。ただし、それでも100%の精度を担保するのは難しいです。今でも、最終的にはに人がチェックして情報の正確性を担保して発信しています。さらに、最近では単純な機械学習によるものだけではなく、一つの投稿について複数のデータソースを掛け合わせて判定するなど、さまざまな角度の検証をAIと人の力で行っています。

――複数とはどのようなデータを掛け合わせているのでしょうか。

村上さん:例えば、「雨が降っている」という投稿があったとしても、雨雲レーダーの情報で雨が降っていないとなっていたらその情報は怪しいことになります。交通データ、道路などに設置されているライブカメラ、さらには衛星データなど、世の中にはさまざまなデータソースがあります。SNSの投稿だけから判断せずに、それらの情報を合わせて分析することで真偽を判断できます。その他では、投稿アカウントのプロフィールや直前・直後の投稿なども活用できます。例えば、ある投稿の前後が関連性のない投稿だったり、10分前には東京にいた投稿をしているのに、あたかも能登半島で被災している投稿がされていたり、プロフィールや前後の投稿を見ると投稿が怪しいと分かるケースも多くあります。

――スペクティにとって、Yahoo!リアルタイム検索との連携はどのような意義がありますか。

村上さん:スペクティは法人や自治体のお客様がメインなので、一般の方々に情報を届けるパイプを持っていないのですが、LINEヤフーさんと連携することで、一般の方々にもわれわれの情報を届けることができるようになりました。特に能登半島地震の時は、取材もなかなか入れず、テレビでも情報が不足していたような状況だったので、われわれの情報をたくさんの方に届けられたのは良かったと思います。

今後はYahoo!天気・災害の「災害マップ」にユーザーから寄せられる情報も合わせて、自治体などに届けられるようになったらいいなと思っています。われわれから一方的に情報を出すだけにとどまらず、うまく連携させて防災に役立てられるような情報の提供をしたいです。

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