「人間が持っている能力を使い切るには、人生は短い」羽生善治はなぜ勝負を続けるのか
2019年6月、歴代最多となる公式戦通算1434勝を達成した羽生善治九段(48)。1985年に中学生棋士としてプロ入りして以来、30年以上にわたって第一線を走り、数々の記録を打ち立ててきた。才能というもの、AI時代に問われること、感情の切り替え方……。羽生九段の思考に迫った。(インタビュー:古田清悟/撮影:岡本隆史/構成・文:Yahoo!ニュース オリジナル RED Chair編集部) (※2019年8月の再配信です)
「天才」という言葉の実態
「デビューしたての頃の棋譜って、もう抹消したいくらいの感じなんです。時間が経ってみると、粗だらけというか、目を覆いたくなるようなものっていっぱいあるので」 羽生善治、48歳。1985年、15歳で中学生棋士としてプロ入り。19歳で初タイトルとなる竜王を獲得し、25歳のときには、7大タイトルを独占するという前人未到の記録を打ち立てた。30年以上、棋士として第一線に立つ。 「進化しているかどうかは分からないです。変わっていることは間違いないけれど、本当の意味で前進しているのかどうか。手応えを感じるのが難しくなってきてるということはあるんです。最初のうちは、例えば基礎を覚えて『うまくなりました』というのがあるんですけど、続けるうちに、ロジックの組み立て方が前よりも優れてくると、曖昧なところでの判断が鈍くなるとか、そういうことがあるんですよ」
「天才」と呼ばれ続けてきたことを、自身ではどう捉えているのだろうか。 「『天才』っていう言葉は、使い勝手がいいじゃないですか。見出しとして、『秀才』とかではインパクトがないので、『天才』と付けておいたほうが何となく据わりがいいかな、という。そういう受け止め方です」 「持って生まれた先天的なものと、育ってきた環境で得た後天的なものがあって、人はつくり上げられていくものだと思います。『天才』は、先天的な能力を表現することが多いと思うんです。自分自身の場合は、そういうものが全くなかったとは思わないんですけど、それよりも、育ってきた環境とかタイミングとか、後天的なものが非常に恵まれていたな、と。たぶんそれが実態です」