第165回芥川賞受賞会見(全文)石沢麻依さん「どう言葉をつくり上げていくか」
美術と小説の関係性は
司会:ありがとうございました。では、じゃあ。今、はい、どうぞ。 読売新聞:読売新聞の右田といいます。おめでとうございます。 石沢:ありがとうございます。 読売新聞:今、ドイツからということで、ドイツで美術史のほうを研究なさっているということなんですけど、そもそも何を目指しておられるのかという、経歴の部分を1つご確認したいのと、それとその美術をやられていることと、この小説表現というものとの関係性といいますか、どういう影響関係にあるのかを聞かせてほしいのと、もう1つ、これからどういった作品を書いていきたいということをお聞かせ願えますでしょうか。 石沢:分かりました、ありがとうございます。まずはドイツに、こちらに来たという理由ですが、やはり博士論文、こちらで研究を続けようという、続けて博士論文を完成させたいというふうな気持ちが、目的がまずありました。 というのも、私は日本で大学院にいる間、ずっと学費などは自分でアルバイトをして、それでアルバイト代でも、それで用立てしたんですけれども、そうしますとやはり美術史という研究内容ですと、どうしても現地へ行って、そして資料を見つけたり、あるいは作品そのものと触れ合わなくてはならない。そういうことを経験するためにはどうしてもやはり生活とか、学生生活、研究生活が成り立たないと気付いて。 そしてあとは、日本はどちらかというと、ドイツの古い美術ってあまりそれほど人気がないというか、それほど扱われて、広まっていない感覚があるんですけども、そこでやはり現地に来たほうが研究も、作品に触れる機会もありますし、あと学費がほぼ、本当に安いので、こちらでならなんとかアルバイト代とか奨学金で生活できるだろうというふうに考えて、そして、それでそういう金銭的な理由でドイツに来たことがあります。
研究者を目指している?
そしてやはりあと目的は、ずっと自分が研究で扱ってきたテーマというのは、ちょっとこれは、自分なりにしっかり答えを出さなきゃいけない。特にやはり外国人が、特に日本人がなんでドイツまで来て美術やるの、日本だって、アジアの素晴らしい美術があるでしょうっていうふうに聞かれることがありますけど、外側の人間から、じゃあこの美術展、ヨーロッパ、私はドイツですけども、ドイツの古い美術を見ていくということのアプローチというのも、やはり自分なりに答えを出さなくては、出したいな。ちょっとその先は非常にまた難しい問題になってくるんですけども。 読売新聞:研究者を目指していらっしゃる。 石沢:いたんですが、ちょっとその点はなかなか、やはりこっちに来ても難しいというのが非常に分かって、さてどうしようか、せっかくドイツ語の知識とかドイツの知識があるんだから、翻訳だったり、あるいはそういう展覧会とかの紹介とかいうふうに、なんとかそういう、できるような、そういう道が開けないかなとちょっと、全然関係ないほうに就職もありうるかなと考えていた、このごろ考えていた矢先の、この受賞の話でした。 そして第二のご質問ですけども、まず美術史と作品の関係と言われますが、確かにまずは、幾つかの意味で大きく関わっていると思います。まず1つとして、美術史ですとよくゼミとか、あるいは展覧会カタログとかをご覧になっていただければ分かると思うんですけども、絵画の記述描写というのがあります。Descriptionと呼ばれるんですけれども、絵画を見て、まずは文章だけで、その絵が何を描いているか、どのようなものを扱っているかというのを伝えるということがあります。 それを私もやはりずっと、その一端として取り組んで、一端として、必ず絵とか作品を扱うときには取り上げてきましたけども、そのときに面白いと思ったのが、人によって視点の動かし方とか、焦点の合わせ方とか、記述の仕方、表現の仕方とかがかなり違ってくる。私もたぶんそこで、おそらくそういう形で何か、今回描写が多過ぎるというのも、たぶんその影響もあるのではないかというふうには考えています。