「家族連れ」が「撮影の邪魔」にならないように肩身の狭い思いをすることもなく…「足立区で行われた鉄道イベント」が大成功した「意外なワケ」
東京都足立区でめずらしい鉄道イベントが行われた。そこには実物車両の展示や鉄道グッズの物販がないにもかかわらず、2日間の来場者数が1.5万人を超えた。 【写真】「足立区で行われた鉄道イベント」の盛況の模様 なぜこれほどの人が集まったのか。会場に行ってその理由を探った。
増え続けた来場者数
冒頭で紹介した鉄道イベントは、本年11月9日(土)・10日(日)に開催された「あだち鉄道ミュージアムスペシャル」である。会場は足立区の体験型複合施設「ギャラクシティ」で、同区を通る鉄道3社(JR東日本・東武・京成)と、地元のNPOナナツホシが協力した。 今回は、これらに加えてロマンスカーミュージアムと豊昭OB吹奏楽団、鉄道模型メーカーのKATO、鉄道企画株式会社が初参加した。 「あだち鉄道ミュージアムスペシャル」は、おもな対象を小学生以下の子どもとその保護者に絞った企画である。2022年から毎年2日間開催されており、来場者数は1回目8000人、2回目12000人をそれぞれ超えた。3回目となる今回は、日程がJR東日本の車庫(尾久車両センター)の一般公開イベントや、地元の小学校のイベントと重なったため、出足が分散することが予想された。ところが、来場者数は15000人を突破した。 このイベントの入場料は無料。会場であるギャラクシティは、東武スカイツリーラインの西新井駅から徒歩3分というアクセスしやすい場所にある。 そのためか、会場には大勢の家族連れが集まった。前回の評判を聞きつけてか、足立区以外の区や、東京都以外の県から足を運んだ人もいた。 「ギャラクシティ」の開館時間には、玄関に長い行列ができた。鉄道員との職業体験や、鉄道模型(Nゲージ・HOゲージ)の運転体験のように、人気が高い企画の整理券を入手するためだ。
鉄道を題材にしたコンサート
1日目には、館内にあるホール(西新井文化ホール)で「わくわく鉄道ファミリーコンサート」が開催された。「あだち鉄道ミュージアムスペシャル」では初の試みである。 このコンサートは、2部構成になっていた。12時半には、ホールの入口で「ウェルカム演奏」が行われ、吹奏楽団が楽器のパートごとに演奏を披露した。本番であるコンサートは、14時からはホールの内部で開催された。 演奏したのは、豊昭OB吹奏楽団である。これは、東京都豊島区にある2つの高校(豊島学院高校・昭和鉄道高校)のOB・OGのみで構成した吹奏楽団で、鉄道現場で働く人が多く所属している。 コンサートでは、壇上に50人以上の団員が並び、鉄道を題材とした楽曲を演奏した。団体名に「OB」がついているが、今回並んだ団員の半分近くは女性だった。セットリストはバラエティに富んでおり、アニメーション関連の楽曲は「銀河鉄道999」から劇場版「鬼滅の刃」無限列車編で使われた「炎(ほむら)」までと、幅広い年代が楽しめるように工夫されていた。一部の団員は、客席に手拍子の合図を送っていた。 演奏の途中では、指揮者が観客にクイズを出題することもあった。ある駅の発車メロディーを演奏したあと、それが流れる駅を当ててもらおうという企画である。 「春のうららの隅田川」という歌いだしで知られる滝廉太郎の楽曲「花」が演奏されると、多くの子どもたちが次々と手を挙げた。早く挙手した2人の子どもは、スタッフにマイクを向けられ、口をそろえて「あさくさ!」と大声で答えた。指揮者から東京メトロ銀座線浅草駅の発車メロディーであることが発表されると、ホール全体に響く拍手が巻き起こった。客席にいた鉄道好きのイベントスタッフからは「隅田川だから浅草か」「東武じゃなくてメトロとは」「よく知ってるなぁ」という声がもれた。大人顔負けである。 コンサートは約40分に及んだものの、客席の子どもたちは静かに演奏を聴いていた。選曲や手拍子、クイズのように、幅広い年代の観客が楽しめ、参加できるようにした工夫が功を奏したようだ。