芥川賞の李琴峰さん「自分の書きたいものを書く、それに尽きる」
第165回芥川賞は、石沢麻依(いしざわ・まい)さん(41)の「貝に続く場所にて」と、李琴峰(り・ことみ)さん(31)の「彼岸花(ひがんばな)が咲く島」に決まった。14日夜の受賞会見で、李さんは「本当に一番感謝しないといけないのは読者の皆さん。これからは『え、李琴峰? 賞を取る前から読んでいたよ』と胸を張って言えると思います」と受賞を喜んだ。 【動画】第165回芥川賞に石沢麻依さんと李琴峰さん、直木賞は佐藤究さんと澤田瞳子さん
李さんは1989年、台湾生まれ。2013年、台湾大学卒業後に来日。2017年に「独舞」で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞して小説家デビュー。芥川賞は2回目のノミネートでの受賞だった。 受賞の連絡が来た時にはトイレの中にいたと明かし、「タイミング悪いな」と会場の雰囲気を和らげた。連絡を受けて、台湾メディアの知人に連絡したところ、会見場にかけつけてくれたという。 日本語が母国語ではない受賞者は、「時が滲む朝」で第139回芥川賞を受賞した楊逸(ヤン・イー)さん以来、2人目。「母語ではない言語で小説を書くとなると本当に大変です。楊逸さんは自分が作家になっていなかったときからずっと尊敬しています。楊逸さんに続く2人目になって本当に光栄です」と顔をほころばせた。 「日本で生活しているので、日本語で書くのはある種自然なことになっている」という。ただ「今後も日本語でしか書かないのか、と言われれば、将来の可能性をあまりせばめたくない」と述べ、テーマやジャンルによっては母国語の中国語で執筆する可能性にも触れた。 受賞作では、架空の国々にまつわる難しい歴史が語られる場面もある。「ここ数十年の日本文学を考えたとき、政治に言及したり社会問題に踏み込んだりするのに抵抗感があるような気がします。政治を批判する意味を込めた小説を書いたらそれを欠点のように言われたりしますが、別にそういう小説があってもよいのではないかと思います」 「カテゴライズされることへの抵抗」が小説を書く原動力だという。「これまでの通底したテーマであり、私の核となっている部分。小説のテーマ、問題意識は必ずしも一つではない」。今後どういう作家になりたいかを問われると、「自分の書きたいものを書く、それに尽きると思います」と明快だった。 (取材・文:具志堅浩二)